次の心当たり
じゃ、帰るわー!と満足げに寮へ帰っていくサティ。
きっと部屋に戻って早速返事を書くのだろう。頭の中はきっと、彼への甘い言葉で埋め尽くされているはず。私達はその後ろ姿を見送ると、重大な任務を思い出したように話を変えた。
「彼女は違うみたいっすね」
「サティが違うとなると…そうね…。宝石箱に触れた誰か…となるのかしら。種を入れた時、鍵が少し固くて寮母に相談したの…。それで1日だけ寮母の元にあったはずです。」
「なら…聖女は寮母の可能性があるってことですか!?寮母は確か60代だったはず。…しかし、寮母として長年勤めた勤勉さや信頼は…聖女としてあり得なくもないっすね」
私達は、妙な緊張感に包まれながら寮母の元へと向かった。
もし寮母が聖女だとするなら、殿下には『熟女』に目覚めてもらわなければならない。
学園から少し歩くと、学園同様に伝統ある建物が見えてくる。規則正しく並ぶ窓のある建物。しかしただ学生が住む役割だけでなく深い歴史を感じる建物だ。ここで生活が始まると思うと背筋が伸びたのを覚えている。
その大きな扉を開き、すぐ右側。
そこにいつも彼女はいる。
「おかえりなさい~」
彼女の元を訪れると、全てを包み込むような笑顔で迎えてくれた。
さあ!寮母は聖女なのか探らなければ…
そうして私達は雑談のように会話をしていった。
「ああ、この宝石箱ね。覚えているわぁ。何か足りない物でもあったかしら?」
「いいえ、全て揃っています。疑っていませんから安心して下さい。それよりもコチラの種が重要なんです」
そう言うと、寮母は安心したように「良かったわぁ」と息をついた。きっと何か不手際があったのではないかと心配していたのだろう。
「種さんね。芽が出た種さんを宝石箱に入れていて大丈夫かしら?って思っていたのよぉ」
私達はピシリと固まった。
やはり、
寮母が聖女様!?
私達はどう殿下に伝えるべきか…悩みに悩んだ。
殿下に「とびっきり熟女の聖女が見つかりました」と報告する未来を想像する。しかし、アルト様は切り替えて事実確認をしてゆく。
「念のため、この宝石箱を受け取ってからの行動を具体的に教えて頂けますか?」
「ええ、もちろんいいわよ。確か、エレオノーラさんと一緒にどう調子が悪いのか確認してぇ…」
寮母はそれからの行動を覚えている範囲で具体的に教えてくれた。
まず、宝石箱を受け取り、私と故障部分の確認。寮母は細工の美しい宝石箱を技術のない自分が下手に触るのも怖いから、街の工房へ持ち込んだそうだ。
その時に。
「工房の人にね『中身は盗難を疑われては困るから、箱に移し替えて持っていてください』と言われたの。それもそうよねぇ、と思って中身を工房から借りた箱に丁寧に移し替えたわぁ。美しい宝石の中に種が混じっているものだから大切な種なのねって思ったのよぉ」
「貴方はその種に触れて箱に移したのですよね?その時種は芽が出ていましたか?」
「その時は、芽が出ていなかったわぁ」
私達は互いに顔を見合わせた。
触れて箱に移しても芽が出ていなかったなら…寮母は聖女ではない??少しの希望が出てきた。すると寮母は思い出したように話し出す。
「分かったわぁ!大切な種だから芽が出たところを見たかったのね?ごめんなさいね、私が種から芽が出る所を見てしまったの。早く知らせるべきだったわねぇ。」
再びの熟女聖女疑惑。
振り子のように揺れ動く事実に、心臓が痛い。
「その時の状況を、詳しく教えて下さい。芽はどういう時に出たのですか?」
「宝石を入れた箱を抱えて、店内の椅子に腰掛けたの。そうしたら、座った時の弾みで種さんがポンッと箱の外に出てしまってね?修理屋さんの床は種と色が似ていたから…絶対見つけられないわ!どうしましょうと焦っていたの。そうしたら女の子が見つけてくれたの。『落ちましたよ』って。そうしたら、開いた女の子の手の中で芽が出ていたの」
女の子の手のなかで芽が出ていた!!
私達は希望を見つけた。
その女の子が聖女かも知れない!!と。殿下に胸張って報告できる!!
「その女の子は誰か分かりますか!」
「ええと、種を探して床を見ていたから…誰かも分からないの。拾ってくれた種に傷がないか確認していたら、お店を出ていってしまっていたし。でも、とても優しい女の子だったわぁ」
「そう、ですか。教えて下さりありがとうございました」
「ご協力、感謝いたします。こうして聞いた事は内密にお願いいたします」
あらあら、何かの捜査みたいでワクワクするわぁ♪と寮母。
とりあえず聖女は熟女ではなかったと安心した。




