聖女を探すには
私が彼との婚約を保留にしたのが悪いのだろう。
だけど、こうして他の男を勧めるように言われるのは不愉快で仕方ない。そのイライラをぶつけるように私はアルト様に詰め寄った。
「私は…偽りの愛など求めてません。私は聖女ではないのですから。ここで偽れば一生、本当の愛が手に入りません。それに…」
「そ、それに?」
私が詰め寄ると、一歩後ろに下がる。そこをまた一歩、詰め寄った。
「私に癒しを求められても専門外です!癒されたいならお花や木とご結婚されたらいいのですよ。犬や猫もなかなか有力ですね!!いっそ、その辺の野良猫捕まえて『聖女ですわ!』って言ってやろうかしら」
私は殿下がいないのを良い事に、思いつくまま悪態をついた。その辺の猫を聖女などと、とんでもない不敬だろう。しかし、あの王子だってだいぶ失礼だった。私と殿下では性格も合わないのだ。
「猫が…聖女…。ふっははは、だ、だめっすよそんな、ふっはははっ」
「笑っていては、まともに説教も出来ませんよ?」
「いや、だって…あはは、殿下にそんな事言う人がいるなんて…殿下は世の憧れですよ?」
「それはそれは狭い世間でしたね」
説教されるかと思いながらぶちまけた言葉。それが思いのほかウケてしまった。ふんっと息を吐くと、視線を少し逸らして笑うアルト様を横目に見る。
「ノーラ様は、ノーラ様っすねぇ♪」
「なんで…そんなに嬉しそうにするんですか?私はとても不機嫌なんです…怒ってますよ?」
「…とても貴女らしかったものですから」
私らしい…
あんな意地悪を言う私が私らしい?
何だか不満だわ…。
「それより聖女探しです……。アルト様、心当たりはございませんか?噂とか」
「……さっぱりです。「優しい」程度ならいくらでも心当たりはありますが…聖女と呼ばれるほど善良な女性なんて…。でも、やらなきゃエレオノーラ様が神殿に連れて行かれちゃいますから。俺が、絶対に見つけてみせますよ。」
「アルト様…」
彼が、とても協力的な事が救いだ。それだけで何とかなりそうな気がしてくる。
「……よろしくお願いします、アルト様。侯爵家存続の危機ですので」
「勿論です。じゃあ、ノーラ様は聖女じゃないと仮定して…」
「断定して下さい?」
「断定して…。この種に触れた、他の人物を探してみましょう。実際に種から芽が出たのですから。」
私は種を貰ってからの事を考える。
「種に触れだけ…で考えるのでしたら、種を配った教員ではありませんか?」
そう言うと、アルト様は首を振る。
「配布の経路に聖女がいたならもっと沢山芽吹くはずです。しかし、種が芽吹いたなどノーラ様しか情報がありません。」
「……配られた後、でしたらサティが自分の種と大きさを見比べて触っていたかしら?」
「それなら一度、サティーナ様に聞いてみましょう」
聖女様の捜索を始めるにあたって、最初の心当たりはサティとなった。私達はサティを探すため、共に歩き出す。こうして私とアルト様の、あまりに風変わりで切実な「本物の聖女探し」が始まった。
視線を交わし、思いつく限り親友のいそうな場所を探して回る。
だが、そうして探す内に気がついてしまう。
(学園で、堂々と2人で行動している!!これってアレよね?学園デートよね!)
隣の彼を見れば、真剣な眼差しで「サティーナ様、見当たりませんね」と呟いていた。
勝手にドキドキしながら暫く探す。やっと見つけたのは教室だった。
親友のサティーナは、友人達と話しながら桃色の封筒を大切そうに胸に抱き寄せ、幸せそうに目を細めている。そんな乙女全開の彼女に声をかけ、種について聞いてみた。
「私の種? 芽なんて出てないわ。私が今幸せすぎるせいね!」
聖女の情報を隠し、種が芽吹いたかだけ確認する。しかしあっさりと否定されてしまった。その周辺にいた彼女の友人達も「芽が出ない」と話す。
その代わりにサティから突き出されたのは、今や恋仲となったアルト様の兄である伯爵家次男からの手紙。
「これ、見て。愛が溢れるお手紙でしょう?」
「……ええ、そうね。内容から情熱が伝わってくるわ」
サティが広げて見せた手紙には、詩的な愛の言葉がこれでもかと書き連ねてある。
「そうなの♪ 会うと無口な人なのに、お手紙だとこんなに甘くて……もう、困っちゃうわ」
「げぇ……」
隣でそのやり取りを見ていたアルト様が、露骨に顔を歪めて呻いた。身内、しかもあの生真面目な兄が書いた甘ったるい文面を目の当たりにし、見てはいけないものを見たと言わんばかりに眉間に深い皺を刻んでいる。
その態度に、サティの目がスッと細まった。
「なに?その反応。この良さが分からないなんて、本当につまらない男ね。こんな風にちゃんと愛情表現ができないと、アルト様は将来奥様を迎えても、お屋敷を愛人だらけにされるわよ?」
「なっ……! 愛人!?」
予想外の反撃だったのだろう。思いもしなかった!と言うような表情を見せるアルト様に、サティは追い打ちをかける。
「女性はね、『愛されている』っていう実感が大切なの! こんな手紙の一つも書けないなら、一生童貞のままね」
「な、ど、童……! 経験の有無と能力はまた別の話だ!」
「おー、こわいこわい」と肩をすくめて笑うサティ。
ゲンナリとうなだれるアルト様の横顔を見ながら、密かに複雑な溜息をついた。
今日、6話は投稿したい!
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