無茶振り
アルト様の放った問いかけが、殿下にしっかりと届いたようだ。何にも惑わされない殿下らしい眼差しが戻った気がする。
殿下自身もきっと、しっくりきていなかったのだろう。アルト様の言葉に落ち着きを取り戻した。
「……アルト、君の言う通りだ。私は少し、伝説という言葉に目を眩ませていたのかもしれない」
ラインハルト殿下は、深く、長くため息をつき、その端正な顔を両手で覆う。その仕草すらも絵になる。
完璧な王子が、親友であり側近であるアルト様だから見せる仕草なのだろう。
「エレオノーラ嬢、申し訳ない。君が種を芽吹かせた事実に、つい運命を急いでしまった。だが……この種の件は、王家にとって極めて重大な機密だ。もし君が本当に聖女なのだとしたら、私の感情云々以前に、国として君を保護し、神殿へと迎えなければならない」
その恐ろしい言葉に背筋が凍る。
侯爵家の跡取りとしての私を捨て、求めてもない立場を強いられるなんて冗談じゃない。
「……ですが殿下、私は聖女ではありません。ただの種に願いなども込めず、宝石箱に入れておいただけです。それで芽吹いたのですから」
「宝石箱に入れていただけ?ますます聖女と認定されそうな話だな…。しかし、君のその気の強さと野心を見れば、私も君が聖女じゃないと信じたいところだ。聖女にしては野心が強すぎる。癒やされない。」
「殿下、先ほどから私に対して失礼ですよ?」
「だが、現実に芽が出ている…そこが問題だ。」
「私の声が聞こえています?殿下」
殿下は顔を上げ、私とアルトを交互に見つめました。その瞳には「名案を思いついた」と言わんばかりの輝きが溢れていた。嫌な予感しかしない。
「アルト、エレオノーラ嬢」
「はい、殿下」
「はい…」
殿下は声を潜め、密談の距離まで身を乗り出す。
「本当の聖女を、二人で見つけてくるんだ。この学園の中に、あるいはこの国のどこかに。……本物の、誰が見ても疑いようのない聖女を君たちが連れてこれればいい。エレオノーラ嬢、君が自由でいたいなら、それが唯一の道だ」
「っ……! 私たちが、ですか!?」
「そうだ。この件は内密に進めなければならないからね。知っているのは王家だけ。口外すれびエレオノーラ嬢は即神殿送りが決まる。ならば今、事実を知っている君達が探すしかないだろう」
「なんて無茶なことを…」
「アルト、君には彼女の監視とサポートを命じる。二人の有能な頭脳で、私を納得させる『本物の聖女』を連れてくるんだ。……いいな?」
アルト様は居住まいを正し「……御意」と短く答える。こんな無理難題を即座に御意っていいのですか?アルト様は。
「頼もしいね、頼んだよ」
私の返事も聞かず、殿下が席を立ち爽やかな笑顔で去っていく。残された私とアルト様の間には、何とも言えない気まずい空気が漂う。
「……あー、その、エレオノーラ様」
「…ノーラ、ですよ」
ぷんっと顔を背け腕を組む。
アルト様が、気まずそうに栗色の髪を掻いた。「気まずい」と顔に書いてあるかのような分かりやすさ。
私だって気まずい。
打診が保留中で暫くお話出来なかったのに、聖女疑惑まで追加されたのだから。そんな不機嫌を滲ませる私に、アルト様は更に追撃してくる。
「婚約の打診、保留にしておいて……正解だったかもしれないっすね。聖女かも知れないなんて」
「…聖女かも知れない、じゃありません!可能性はこれっぽっちも無いんです。まったく…貴方まで私の言葉を疑うと言うのですか?」
私は小瓶の中の芽を、恨めしそうに見つめる。幸せを呼ぶはずの芽が、まさか「聖女探し」という無理難題を連れてくるとは。
恨めしい。
そうしていると、どこか真剣で、私の身を案じるような様子で彼が聞いてくる。
「……ノーラ様。一つ、確認させてください」
「なんです?」
アルト様は真っ直ぐに私を見つめる。その表情は、冗談や試しではなく、心からの忠告するよう。
「本当に、このまま聖女探しに行っていいんですか? ……今、自分が聖女だと認めてしまえば、それだけでラインハルト殿下との結婚が確定するんですよ?」
私は、何故彼がそんな事を言い出すのかと腹立たしくて仕方ない。




