立場の押し売り
種について、サティと楽しく話をしたものの…
私は何だか気力が出ずに、寮の部屋に置いてある宝石箱に放り込んだ。いつか、思い出して植えるかも知れない…その時まで入れておこう。
そう決めた。
そうして、宝石箱に鍵をかけようとした時。鍵を回す手に、以前より力が必要な…重い感覚があった。もし、鍵の不調なら修理に出さなければならない。こうした不調は壊れてからでは困ってしまうから。
私は寮母にその宝石箱を持って相談に行った。寮母は笑顔で修理を提案してくれる。私もそれに頷き寮母に任せたのであった。
その後、無事に修理されて帰ってきたそれ。鍵が問題なく閉まるかだけ確認して、開けもせずにそのまま机に置いてしまった。
種の存在をすっかり忘れて。
…
数日経ったある日の事。
鳥の事件が正式に解決したと通達があり、学園で宝飾品を身につける事が認められた。
私は、お気に入りの髪飾りを宝石箱から出そうと修理以来初めてそれを開いた。
「…?」
その瞬間に、やっとソレ存在に気がついた。
不思議で仕方なくて、それを手に取るとつい首を傾げる。
土に植えてすらいない種に変化があったから。
勿論いい変化だ。それは、種に亀裂が入り緑の葉がチラリと見えている。
「強い種ね…芽が出るのは稀だと教えられたのに。先生の心遣いかしら」
先生が「芽が出るのが稀で、芽が出ると幸せを呼ぶ」と言って、強い種を皆に配り「みんな幸せになれるわね」と元気づける為のものだろうか…。
こうして宝石箱の中で逞しく芽が出ているのだ。その強さを分けてもらえるような気がして…
この幸せを呼ぶ種の芽を彼に見せたいと思ってしまった。これを見た彼はなんて言うだろう。
「アルト様から、恋心を向けられるキッカケが作れたりするの?貴方は…」
種なんかに話しかけても返事が来ない事は十分理解している。しかし口から出た願いは、私の中で期待が高まっていく。
所詮は「おまじない」…
されど「おまじない」…
そのウキウキとした気持ちが、盛り上がってゆく。
もし本当に幸せを呼んでくれるなら、アルト様からきっと…「好きだよ」とか愛の告白があったりするかもしれないわ!!
きゃっ!!どうしましょう!
そう考えれば考えるほど、私の足は疲れ知らずに彼を探し回るのだった。暫く会話をできていないブランクも忘れて。
そして、やっと見つけた。
髪を整え、制服にホコリやシワがないか確認して払う。
「よしっ!」
胸を張り、お目当ての栗色の髪の彼に向かって迷わず足を進めた。手元には、例の種を入れた小瓶を大切に握る。
しかし、当たり前だけど殿下も一緒なのでまずは挨拶をしなくては。
「ごきげんよう、殿下。そしてアルト様。少しお話よろしいでしょうか?」
いつものように2人で話し込んでいた。話のきりがいい所へ、あたかも今来たかのように彼らへ話しかけた。
するとラインハルト殿下は「どうぞ」と合図をくれる。アルト様は、その瞳を不思議そうに向けてくれた。
「こちら見てください、幸せを呼ぶ種らしいんですよ」
テーブルの上に、コトリと小瓶を置いた。
私の中で緊張が走る。
種さん、お願い!この人が私の想い人です!力を…少しの希望を下さい!
心の中で、そんな事を願っていた。
宝石箱の暗闇で芽吹いた緑の芽。アルト様は目を細め、瓶の口に顔を寄せる。
「コレは、種?芽が出たんですか?」
「そうなんです!宝石箱に入れておいたのですが芽が出まして。不思議だったので見せたくなってしまいました」
さあ、種さん!幸せを発揮する時ですよ!と胸に手を当てぎゅうっと力を込める。君の力が本当なのか?噂が本当なのかここで示すのよ!と。
しかし、動き出したのは何故か別の人物。
「…………これを、君が?」
信じられないものを見た時のような声が響いた。
声の元をたどれば、そこにはティーカップを口に運ぼうとした姿勢のまま、驚いたように固まっているラインハルト殿下の姿。
「……それは、初代聖女が愛した樹の種ではないか?」
ラインハルト殿下のその言葉に、私の頭の中には大きな疑問符が浮かんだ。
手に持った小瓶の中で亀裂から葉を少し見せるこの種が、そんな伝説の代物だというのだろうか。
「いいえ、これは授業で女子生徒全員に配られた謎の幸せを呼ぶ種で…」
「あぁ、女子生徒がみんな持っていた種っすね」
「ああ、その種から芽が出た…ということは、エレオノーラ嬢。……君が、私の待っていた『聖女』だということだ。」
ん?
聖女??
何を言っているんだ?このお方は。
「殿下が何をお考えなのか存じませんが……私が聖女なわけあるはずないでしょう?」
あまりに唐突な「聖女」の押し売りに、私は即座に、かつ全力で否定した。




