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モテないと騒ぐ君が好き。  作者: かたたな


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論破


 声のした方向に視線を向けると、さっきまでいなかったように見えたその姿を見せる。


「な、何を言っているのよ!証人もいるのよ!」

「いいえ、俺が今ここで証明しましょう。」


 今、ここで!?

 そんな無茶な、鳥の調査資料だってすぐに取り寄せても時間がかかると言うのに?


「まず、我々が生活するこの寮では動物の飼育は厳禁。エレオノーラ様は現在高等部3年、更には中等部からの6年間を一貫して休暇以外を学園寮で過ごされています。つまりこの6年間、彼女が個人的に動物を所有し、隠れて訓練する物理的余地は存在しなかったということです。 各自の部屋は、寮母が定期的に確認を行います。寮母に口止めしたとしても、そんなデカい鳥を移動させるのは多くの生徒が見逃すはずがない。」

「そ、それは……休暇の間に侯爵家のお屋敷で……!」


 食い下がるエリザに、アルト様はさらに冷ややかな視線を向けた。


「休暇の間? それこそあり得ない。侯爵閣下は大変病弱でいらっしゃり、動物を屋敷に近づけることは閣下の健康管理上、断じて許されていません。侯爵家の家臣は当主を気遣いペットですらも動物を飼育していないと聞きます。そんな彼らの周りに鳥の扱いに長けた者がいるという報告も一切存在しません。 」

「そ、そんなの場所を変えるとか…いくらでも隠せるでしょう!」

「いいえ、侯爵夫人は閣下を愛するがゆえにとても厳しく目を光らせていると聞きます。お父上と接する機会の多い彼女だからこそ余計に厳しくなるはず。鳥を扱うなどあり得ない。」


 アルトは一歩、また一歩とエリザさんを追い詰める。


「6年間の寮生活。そして閣下への体調に配慮が必要な家庭環境。……そんな彼女のどこに、鳥を操る術を身につける隙があると言うのですか? 」

「っ……!!」


 エリザさんの顔から血の気が引いた。

 周囲の貴族たちも「6年間も寮にいて、どうやって訓練するのよ」「侯爵閣下のお体のことを考えればあまりに不謹慎な嘘だわ」と、アルトの理路整然とした指摘に深く納得し始める。


「でも…だったら!簡単な指示で動けるように調教済みの鳥をこの人物から最近購入したってことでしょう?」

「何のために?」

「だから、彼を奪われた腹いせにって言ってるじゃない!エレオノーラ様は私の婚約者に打診していたの。貴方も兄弟なのだから知っているでしょう?それでも、結果として選ばれたのは私よ。」



 そう自慢げに言うエリザ。



「彼女は貴方に嫉妬などする理由がない。その証拠がここにある。」



 そう言ってアルト様が取り出したのは我が家から伯爵家へと送られた打診書。


「侯爵家から我が家に来た最初の打診にはこうある。『伯爵家三男、アルトを婿として望む』と。……俺の父上は野心家ゆえ、素直な兄上を押し込もうとしたようだが、エレオノーラ様が求めていたのは最初から俺一人だ。兄上の心など、彼女は端から興味がない」

「え……?」


 エリザさんは衝撃を受けたように長男を見上げ、長男は苦笑いを浮かべている。そんなこと知らなかった!と言うように長男を見るけれど、彼はエリザさんに嘘は言っていない。縁談が進んでいたのは伯爵家当主の意向で長男とだったのだから。


 そんな長男とエリザさんのやり取りを眺めていると、視線を感じ、そちらを見る。するとさっきまでコチラを見ていたような気がしたアルト様は、視線を自分の兄へと移していた。


 気のせいだっただろうか。



「君のその浅はかな嘘のせいで侯爵家の名誉が傷つくところだった。俺がこの場で彼女の無実を証明しなければ大きな損害が出ていた事だろう。これはもはや、単なる喧嘩では済まされない罪だ」



 会場が凍りついたような静寂に包まれる。エリザさんは長男の腕の中でガタガタと震え、もはや言い返す言葉も持たないようだった。そして口を開いた。



「エレオノーラ、私があの髪飾りを持つに相応しいと言うのに!!私のほうが上なのに!」

「髪飾り?」



 エリザさんは何か放心状態で呟くように言う。

 彼女の事情には興味ない。とりあえず聞かなかった事にして、迅速に対応しなければ。



 「貴女が犯した不敬、そして事実に反する罪の捏造。学園のように許すことは出来ません。……処罰は後日、侯爵家から通達いたします。覚悟してください。」



 絶望に染まっただろうエリザさんの顔を見ることなく、颯爽と会場を出ていこうとする。すると後から慌てて伯爵家当主がやってきた。その表情はこの世の終わりと言わんばかりのもので、何か私に言いたいのに言葉が出ない様子。



「……伯爵様。ご子息の迅速な対応と、賢明な証言に免じて今この場での不問は認めましょう。」





 エリザさんの誕生日パーティーから十日。



 私は学園を休んで進めていた最後の手続きを終えるべく、王都の別邸にある屋敷の応接室にいた。


 そこには、十日の間に憔悴しきったエリザとその両親。そしてエリザに寄り添う伯爵家長男の姿がある。



「……以上が、私からの『提案』ですわ。これを受け入れるなら、法に則った極刑は免除しましょう」



 私が提示したのは、逃げ場のない契約書。



「貴方の商会は、今日から我が侯爵家の傘下に入ります。経営権は私が持ちますが、実務はこれまで通りお二人に任せましょう。しかし、最優先は我が領地の安定した供給です。」

「は、はい。もちろんです。」


 エリザの父親が、安堵の混ざった複雑な顔で震える手で署名した。


「そして、長男様」


 私が呼ぶと、彼は弾かれたように顔を上げた。


「貴方には、この商会の『監督役』に指名いたします。エリザさんが二度と過ちを犯さないよう、傍で見守り、商会の事も侯爵家へ報告することが義務です。…それとも、彼女と婚約破棄するか…」

「…僕はもちろん監視役を選ぶ。…エリザ、これからも一緒に頑張ろう」

「…」

「もし侯爵家を裏切り虚偽の申告をしたなら。別の管理官を派遣し、貴方は伯爵家へ戻る事になるでしょう」

「はい」

「裏切りさえしなければ、エリザさんとの結婚は認めますしずっと一緒にいられるように配慮いたします。エリザさんのご両親と共に一般的な範囲で生活は保証いたします。しかし働きと忠誠によっては、さらなる厚遇を約束いたしましょう。」

「ああ、なんと慈悲深い…」


 うんうん。

 ハッピーエンド!

 こうして、長男に恩を売るだけではなく商会全てを手に入れたのだった。

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