自殺講座その七
自室・6月30日11時37分
FBI調査官は僕の緊張している姿を見て
「まず信頼を得ないとね。 えーと、私はFBIから派遣された最上・ケリー・楓です」と自己紹介してきた。
「ミドルネームがあるということはハーフだったり?」 質問してみる。
「ええそうよ、アメリカ人と日本人のハーフ。呼びにくいと思うからケリーでいいわ」 そして彼女は続け様に
「えーと、確か透君だよね」 と確認してきた。
「ええ、そうですよ」 少し緊張をしながら答える。
「信頼を得られたかわからないけど、質問させてもらうわね。まず君に聞きたいことは、華滝さんが自殺をした時どんな印象を持ったかということなの」
「印象、ですか?」 あまりにも突飛な質問に驚きを隠せないままに聞き返す
「そうよ、例えば勇気に満ちていたとか、悲しそうだったとか。見えなかったどうこうじゃなくて感じ取ったままに答えて」
「そんなこと言われても」 自信なさげに答える。
「うーん、それもその通りね。じゃあまず事件当時の状況から考えていきましょう。まずどんな環境だった?」 と優しく聞いてきた。
「えっと、確か3時間目の終わりに校舎の一階で飲み物を飲んでいたら、『やめて、司ちゃんそこから降りて』って悲鳴が聞こえたので、校庭に出てみたら人だかりができていて……あれ?」 何かがおかしい、悲鳴の内容に違和感を覚える。
『司ちゃん』? 確か自殺した女子生徒の名前は華滝『紗江』 。その状況なら『紗江ちゃん』 と呼ぶはずであろう。なぜ、なぜだ? なぜ『司ちゃん』 と叫んだ?
「司ちゃん?」 ケリーの眉がピクリと動いた。ケリーも気付いたらしい、さすがFBI調査官というべきか。
「そうなんです。今気付きましたが女子生徒は確かに『司ちゃん』 と叫んでました。でも、なんでまた彼女は『司ちゃん』 だなんて」
それにもう一つ気になることがある。それは僕がその違和感に今まで気づかなかったということだ。『司ちゃん』 と呼ばれていたすぐ後に山口から本名を聞いたのにも関わらず僕は気づかなかった。それに他の人も疑問に思っていない様子だった。
おかしいことが起きている。そんな感覚があって、また昨日の様に嫌な感じがした。
「なんでそんなことが起きているのか原因は…わからないわ、でも確かに私も聞いた名前は華滝紗江だったわね」 と何かありそうな雰囲気を醸し出していたがあえて言及はしなかった。
「そうですか、あなたも…」ケリーの聞いた名前も華滝『紗江』だったようだ。
誰も気づいていない。誰も彼女の名前の違和感に気が付かなかった。僕もこのまま昨日のことを思い出していなければ気づかなかったのだろう。
このままいけば普通の自殺で終わるはずだったのに。その事件の裏には嫌なもの控えている。そんな感覚がした。




