↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLゲームのモブですが、前世を思い出したら成り行きで悪役令息と「ざまぁ」することになりました。  作者: ぷかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/24

<9>セクハラ≠コミュニケーション

「は?」


 一瞬、何が起こったのかわからず、身体が固まる。にわかには理解が追いつかなかったのかもしれない。

 その証拠に、彼が身を捩じらせるのを目の当たりにするなり、自分のものとは思えないほど強烈な不快感に襲われた。


 なんて下劣な!


 普段あまり怒らない分、沸々とした憤りを抑えられない。しかし、末端とはいえ俺も貴族。声を荒らげるなんて野蛮な真似はしない。


「何をしている」


 能面のような笑みを顔に張り付けてはみたものの、腹の底から沸き立つ怒りが滲み出ていたのか、俺の問いかけにオヤジは冷や汗をかき始めた。


「いや、あの、その、ちょっとスキンシップを……」


 よほど怖かったのだろう。新入りは抗議の声も上げられないほど怯えている。それなのに、犯人によって次々に重ねられる言い訳は口から出まかせばかり。

 お仲間からの援護射撃だって完全に悪手だ。


「お上品な坊ちゃんがご存じないだけで、昔から港の食堂の給仕ってのは、お触りされるのも仕事のうちでさぁ」

「そうそう、新入りってのは身体使って客に尽くすもんなのよ」


 口端をひくつかせながらのセクハラ発言に、コンプライアンスの八文字が脳裏を掠める。


「へぇ、そんなの聞いたことがないなあ。そうなのかい、女将」


 目を細めて意見を求めれば、なぜだか彼女の視線も泳ぎ出す。


「さ、さあねぇ。従業員とのコミュニケーションはお客に任せてるもんで」


 なるほど、暗黙の了解あっての狼藉だったか。

 これまで俺の目に届かなかっただけで、他にも同じような事例が転がっているのだろう。

 昔より治安が良くなったとはいえ、改善の余地がまだありそうだ。


 転生前の世界に比べたら、まだまだ労働者の尊厳が守られにくいのが常とはいえ、今回の件だって充分悪質な行為だ。決して見逃せるようなものではない。しっかり取り締まらせてもらおう。


「そうか、じゃあそのコミュニケーションとやらを詳しく聞かせてもらおうじゃないか」


 ギュンターに聴取を任せて女将とオヤジを店の外に引っ張り出してもらうと、現場には俺と新入りの青年だけが残った。

 野次馬をしていた他の客は自分に害が及ぶことを恐れて、早々に退店したらしい。

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出したところすまないが、今頃うちの護衛たちに身柄を確保されていることだろう。


「申し訳ございません、うちの領民が驚かせてしまいましたよね」


 怖がらせないように、できる限り物腰柔らかく見えるように。意識しながら彼に近づいていく。


 椅子も机もない一直線。視界を遮るものが消え、全体像が明らかになった瞬間ギョッとした。なんと新入りは町の子供たちが着るような短パンを身に着けていたのだ。

 おさがりにしても、さすがにこれはないだろう。

 振り返れば足の付け根が丸見えだし、サイズがあっていないのか、お尻のラインさえくっきりしている。


 女将め、絶対にわざとだろ。


 これじゃあ、触ってくださいと言っているようなものだ。目に毒すぎる。

 しかも、さらに悪いことに大人用のラフなシャツと短パンのアンバランスさが謎の色気まで演出している始末。

 思わず額を押さえてしまう。目の前まで来ても、俯かれているせいで顔は見えない。頭隠して尻隠さずとは正にこのこと。


 だけど、この時点で俺は自分の勘の正しさを直感していた。

 咳払いをして平静を取り戻す。


 これは王都出身者、それも良家の子だ。


 ほぼ真下に位置する、整った形の頭にはいわゆる天使のリングが浮かんでいる。田舎人では考えられないほど手入れが行き届いたプラチナブロンド。この艶は一朝一夕では体現できない。


 そんな高貴な青年に荒くれ者への耐性がないのは言わずもがな。完全に萎縮してしまっている。

 可哀想に。こんなに身を震わせて。


「二度とあんなことがないよう徹底させますから」


 なおも言葉を発せずにいる彼を落ちつかせたいのに、気の利いた文句の一つすら出てこない自分が情けない。それでも、無言よりはマシだろうと懸命に話しかけた。


「差し支えなければ、もっと治安の良い職場を紹介させていただきます」


 しかし、何を言っても暖簾に腕押し。返事はない。まだ恐怖から抜け出せていないのだろう。

 事務的な内容は無害アピールのつもりだったが、今からでももっと相手に寄り添った言葉をかけるべきか。いや、馴れ馴れしい態度は逆に警戒心を煽ってしまいかねない。


 本当に困った。これならほぼ予定調和な商談や、型に嵌まった社交の方がよほど簡単だ。

 しかし、そんなことを思っているうちに俺は知らず正解を引いていたらしい。


「お騒がせしてしまってすみません」


 俺が口を噤んでいる間に、どういうわけか、彼の意識をこちらに誘導することに成功していた。


「もう大丈夫です」


 なるほど。気持ちが落ち着くまで黙って待っている、というのがベストアンサーだったようだ。


「お手を煩わせてしまったようで」


 躊躇いがちに見上げられると、先ほどまで隠れていた顔が少しずつ露になっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。