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BLゲームのモブですが、前世を思い出したら成り行きで悪役令息と「ざまぁ」することになりました。  作者: ぷかり


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<8>使えない新入り

 着いて早々、よく来てくれたと言わんばかりに迎えてくれた女将がこれ見よがしに溜息を吐く。


「坊ちゃん聞いてくださいよ。うちの新入りったら本当に使えなくてねぇ」


 相当不満が溜まっていたらしい。

 一番上座の席に案内されるなり、愚痴大会が始まる。


 これも気心知れている相手だからこそできる芸当だと思えばありがたいことなのだろうが、できれば状況を正しく把握してから、個別に各々の意見を問いたいところ。


「わかったから、一旦落ち着いてくれ」


 女将を軽く宥めて、その間にお冷をもらう。西洋風の世界観でも、こういったところは非常に日本的。お刺身だってある。


「とりあえず、これをいただこうかな」


 メニューから「本日の定食」を選んで注文し、ようやく傾聴する態勢に入る。


 例の新入りはまだ奥にいるのか、フロアには出てきていないようだが、細かいところはギュンターに探らせれば良い。

 背後には酒盛りをする漁師もいることだし、彼らからも何か聞き出せるかもしれない。

 周囲の雑音に耳をそばだてつつ、女将の言葉に相槌を打てば、彼女は一息で思いつくだけの不平を連ねる。


「それでですよ、つい昨夜街に行き着いたばかりの新入りなんですがね、今朝から仕事をさせてはいるものの、拾ってやった恩を仇で返してばっかりで。もう五枚は皿を割っているし、愛想はないしで……」


 と、ちょうどここまで女将が言い切ったところでガッシャ―ンッと大きな音が食堂内に響き渡った。

 詳しく調べなくてもわかる。ガラスか何かが床に当たって粉砕したのだ。


「またあの子かいっ!」


 そそくさとキッチンの様子を見に戻った女将の口ぶりからして、件の新入りの仕業だろう。ちょうど運ばれてきた定食に口をつけながら店の奥を遠目で窺う。

 箒を持った従業員が慌ただしく駆けつけているところから察するに、これまた結構派手にいったらしい。


 朝六時の開店から働いていたとして、すでに六枚。単純計算で一時間に一枚が犠牲になっていることになる。

 女将としても予想外の事態だったに違いない。


「給仕だと料理ごと落とすから、あえて皿洗いに回したってのに」


 ぶつくさ文句を溢す背中には疲労の色が滲んでいる。

 今日の給料から差し引いても皿代だけで赤字になるのは明白だった。


「熱心に頼み込むから雇ってやったけど、これなら猫の手を借りていた方がマシだったよ」


 このままここ置いておけないと首を振られても反論できないレベルで、今度の新入りは「使えない」ようだ。

 そんな人材をしばらく雇い続けてくれなど、俺からお願いするわけにもいかず、もはや乾いた笑いしか出てこない。


 不器用すぎる新入りができる仕事なんてこの街にはないかもしれないぞ。


 斡旋先を思案するも、漁港は手先の器用さを求められることが多いので、この時点でほとんど却下。

 貴金属の目利きは素人には難しいだろうし、この新入りが読み書き計算をできる確率は限りなく低い。

 庶民の識字率が低いこの世界では、帳簿の管理や代筆業の需要が高く、その技術さえあれば王都で充分暮らしていけるので、そもそもこの地に来る必要がないのだ。


「あーあー、もういい。洗うのは止めだ。今度は空いた皿を回収しておくれ。それなら洗剤で滑らないだろう!」


 片付けが終わったのか、溜息交じりの女将がホールに出てくる。後ろに新入りを引き連れているらしい。

 逞しい肩幅に阻まれて全貌までは見えないが、チラッと視界の端に映ったプラチナブロンドには覚えがある。


 まさか。いや、そんなはずはない。だって彼は行方知れずのはず。そんなご都合主義なんて漫画の中だけ。きっと人違いだ。

 だけど何かしらかのセンサーが作動しているのか、早鐘を打つように心臓が鳴っている。可能性を否定しきれないのは大きすぎる期待のせいだけではない。


 圧倒的な存在感とでも表現すべきだろうか。新入りと揶揄された彼が持つオーラは高位貴族のそれだ。

 騒がしい店内において、そこだけピンッと張りつめていて、穢れを寄せつけない清廉さを醸している。ただ、確信は持てない。


 なぜなら俺が知っている彼とは違って、目の前の新入りは、皿を下げるだけでも女将に注意されるくらいには失態続きだったからだ。それはもう気の毒になるくらい。

 これじゃあ、せっかくの雰囲気も形無しだ。

 立っているだけなら様になっているのに、ミスが続くせいで付け入られる隙までできている。


「ほら、また! そんなにしたらバランスを崩すに決まってるだろう!」


 こんなに付きっきりで監視されていたんじゃ、彼も緊張して余計に悪循環だろうに。

 さすがに可哀想になってきて、注意を緩めてもらうために立ち上がったちょうどその時、


「おっと、手が滑った」


 下卑た客のオヤジがわざとらしく彼の尻を撫で上げたのをはっきり視認した。

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