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BLゲームのモブですが、前世を思い出したら成り行きで悪役令息と「ざまぁ」することになりました。  作者: ぷかり


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<5>勘当された元貴公子

 エバン公爵令息が勘当されたという報せが入ってきたのは、卒業パーティーの翌日の朝食の席でのことだった。


 久しぶりの家族揃っての食事ということで、朝から料理長が大張り切りで腕を振るった結果、非常に豪華な朝食となった。

 焼き立てパンに、チーズの入ったスクランブルエッグ、それとパリパリのソーセージに、冷えた牛乳と、デザートにオレンジまで出されたらもう満腹。どれも新鮮なだけあって非常に美味だ。


 過去世の基準からすれば、何の変哲もないメニューではあるが、こちらの暮らしでは贅沢の部類に当てはまる。

 特に全て今朝仕入れた材料で一から仕上げたとなると途端に価値が跳ね上がるのだから不思議な話だ。


 この世界は前世で言うところの地球ほど文明が発達していない。ゲームの仕様上のためか、かろうじて水回りは整備されているものの、科学という概念はなく、大抵のことは魔法で解決している。


 ただし、魔法を扱える人間は限られていて、俺も灯りを燈す程度の簡単なものなら使えるけれど、大掛かりなものとなると、それこそ王国直轄の魔法局の職員くらいにしか無理という鬼畜仕様。

 その職員の魔力も多くは王宮内の結界に費やされるため、家電のような魔道具の開発はあまり進んでいないのが現状だ。


 魔力の詰まった魔石もないことはないのだが、鉱山は国所有のため非常に高価。

 金に物を言わせる系貴族の我が家には魔道冷蔵庫なんて代物もあるけれど、これだってまだ一般的なものじゃない。


 魔道コンロくらいなら、中流以下でも貴族の家庭は大抵所有しているが、魔道冷蔵庫だと備えていないことの方が普通だろう。

 比較的ポピュラーな魔道コンロだって普及率は決して高くなく、炊事に際して庶民は未だに火打用魔法石を用いるのが常らしい。


 それもこれも国が魔法を独占しているせいだ。ちなみに他国でも似たような政策が採られているため、全体的に俺が生きていた現代日本より不便な印象を受ける。特段苦労を覚えたことはないものの、過去生より生活水準が低いと損した気分になるのはなぜだろう。


 せっかくゲームの世界なんだから、もっとハイテクにしてくれても良かったはずなのに。なんちゃって中世西洋風なテイストが生活の質を下げることに繋がると制作陣は考えなかったのか。まあ、転生なんてものは端から想定されていないことなのだから仕方がないのだけれど。


 つまるところ、この世界で鮮度の高い食材を存分に使うってことは、それだけで充分贅沢に値するという話だ。


 さて、そんな優雅な朝食を終え、食後のコーヒーを啜りながら、新聞を広げていた時に、そのニュースは文字通り飛び込んできた。


「大変です! エバン・アルベール公爵令息が勘当されたそうです!」


 ノックに返事をするより先に、駆け込んで来た従者の勢いにまず気圧され、それから告げられた内容に目を見開く。


「は?」


 いやいや、商売人たるもの感情に流されてはいけない。冷静な判断をするためにも、一息入れよう。


 同席していた父母も驚いて固まっているし、ここはひとまず深呼吸。


「ギュンター、まずは落ち着いて。話はそれからだ」

「申し訳ございません。慌ててしまって」


 彼に水の入ったグラスを渡し、ついでに俺もコーヒーを一口。


「それで勘当って?」


 続きを促すと、息を整え終わったギュンターが事のあらましを語り出す。


「はい、確かな筋から入ってきた情報なので間違いありません」


 さっきは取り乱していただけで、本来はそれなりに礼儀正しい男だ。俺と変わりない年頃なのに、ピンッと背筋を伸ばす姿は執事のようで様になっている。


「昨夜、ジェームズ様がお戻りになった時間帯のことだそうですが」


 どうやら卒業パーティーの後ひと悶着あったらしい。


 近衛に捕まり監禁されたエバン公爵令息だったが、夜半に無事アルベール公爵家のタウンハウスへ返された。

 このまま彼を家門に置いておくと今後の政局に不利になる。

 そんな大人の事情により帰宅するなり屋敷を追い出されたのだという。


「着の身着のまま王都を出たところまでは目撃証言があるのですが、夜明け前だったため周辺は暗く、人気もなかったそうで……それ以降の消息は追えなかった、とのことです」


 つまり、何もかも不明ってわけか。さすがに死人が出れば大騒ぎになるだろうから生きてはいるのだろうが、根っからの大貴族の坊ちゃんなので、おそらく市井に馴染めてはいない。最悪行き倒れて餓死ってことも……そこまで考えて首を横に振る。あくまでも行き過ぎた想像だ。


 しかし、まったくの杞憂というわけではない。助け合いが基本のこの世界でも、いわゆる余所者に不親切な者は多い。

 他人に干渉する村文化は結びつきを強くする効果もあるけれど、一方で排他性に優れている。庶民は皆自分が生きていくだけで必死なのだ。見ず知らずの他人を受け入れる余裕なんてない。


 そういった意味では、なんちゃって貴族であるうちの両親もある種「貴族らしい」のかもしれない。


「ジェームズ、ご学友なんだろう? 助けてさしあげたらどうだ?」

「良い考えだね、フランツ。情けは人の為ならずとも言うものね」


 商売の損得勘定は得意なはずなのに、ひねくれた性格の根本に慈善の精神を宿しているのが、彼らの甘いところだった。

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