<32>宴の準備
ド派手なことが好きなのは土地柄なのかもしれない。
クロイツェルで祭りを開催すると決定してからというもの、港はますます活気に満ちているようで、街の隅々まで大盛りあがり。漁師も商人もこぞって張り切っている。
特に工房では寝る間を惜しんでとある準備が進められていた。
エバンにはまだ秘密だが、イルミネーションをしようと思っている。そう発案したところ、皆快く引き受けてくれた。
とはいえ、日中はエバンの目がある。バレてしまってはサプライズの名折れ。悟られないように、エバンが屋敷に戻ったのを見届けてから職人は作業にかかり始める。
もちろん特別手当は出しているけれど、大量の電飾装置を一度に用意するのは骨が折れるはず。それなのに、大切な仲間の門出を祝わせてほしいとまで言ってくれた。
工房のメンバーのためにも、絶対にこの計画を成功させてみせる。
そう心に誓いながら、プロポーズの筋書きを組み立てていく。
「ギュンター、新聞社への連絡は済んだかい?」
「著名な機関紙は全て買収済みです。当日各社から記者が派遣されることになっていますし、祭りの宣伝用ポスターもすでに紙面掲載されています」
大枠はもうできている。後は細かい調整だけ。
第一王子とシリルの訪問日に祭りをする。一応彼らの来訪はお忍びとなっているので、それについてはこちらから領民に告知していない。
当然「王家」の「お」の字も出しておらず、今度の祭りも俺の気まぐれくらいにしか思われていなかった。
しかし、自意識過剰なシリルはクロイツェルの思惑通り、自分たちをもてなすための祭典だと理解してくれているらしい。
イベントの存在を知るといたく感激していた、とは使者の談。到着次第見物に繰り出す予定だと聞いている。
男爵家が用意した案内人に先導させると伝えてあるし、しばらくは金を落としてもらうためにも普通に観光させて、所定の時刻になったらメインストリートにある広場に誘導する。
そこで俺がエバンにプロポーズするというのが大まかな流れだ。
あの場所なら電飾を巻きつけられそうな木も多いし、オブジェをいくつも置けるくらい開けている。
この世界初のイルミネーションにはうってつけだろう。
まずは広場の中央、噴水前に俺とエバンがスタンバイして、シリルたちが近づいてきたら公開プロポーズを開始する。
注目を集めるために、そのタイミングで噴水をぐるりと囲む細かい魔道ランプの電飾に灯火する。
そして、プロポーズが成功したのを観客が見届けたところで、広場全体と街中の街路樹に張り巡らせたイルミネーションも点灯させる予定だ。
「貴族までもが足を運びたくなるくらいには大仰にしないとな」
よりエバンは俺のものだと世間に浸透させるためには、高貴な方々を利用するのが手っ取り早い。水面下の情報戦を潜り抜いた猛者が集う社交界で、純愛ストーリーに仕立ててもらえればこちらの勝ちだ。
そもそもがシリルの口車に乗った第一王子の責任なんだし、上手くいけばエバンの貴族位復権だって夢じゃない。
緩みそうになる口元を引き締める。
「もうすぐ名実ともにエバンと結ばれるんだ」
当日は奇しくもエバンの誕生日。前世で言うところのクリスマスシーズンでもある。
こちらにはサンタクロースなんていないけれど、良い子にはプレゼントをあげないと。
暖炉にくべた薪がパチパチ爆ぜる音を聞きながら、卒業パーティーでの光景を思い出す。
あれからまだ一年も経っていないなんて信じられない。
断罪劇のおかげで俺は彼と再会できた。奇跡みたいな巡り合わせに感謝はしている。エバンも毎日幸せだと言ってくれている。だけど、まだ汚名返上できていない。
「クロイツェルに不都合が生じないかぎり、名誉など気にしないよ」
エバンはそう笑うけれど、寂しげな影が瞳の奥に透けていた。
俺としても最愛の人が被った泥をそのままにはしておけない。
今度のことで彼が少しでも報われますように。
計画書の束から目線を横にずらす。暖炉の中、赤い炎の下に黒ずんだ炭ができていた。本番はすぐそこだ。




