<27>恐ろしい祝福
密かに付き合い始めたつもりだったのに、翌日には屋敷の人間全員が俺たちの関係を知っていた。
きっと母上が誇る諜報員の仕業だ。朝から皆に祝福されてしまった。
それだけならまだしも、噂が広まるのは存外早く、商会に着く頃にはそちらでもすでに周知となっていたから驚きだ。
度肝を抜かれる俺にギュンターは、
「遅いくらいです」
などと悪態をついたが、あれはあれで落ち着くところに落ち着いたと胸を撫で下ろしているらしい。兄弟のように育ったから、行く末を案じてくれていたのだろう。
「奉公先が家長不在で取り潰しになる未来を回避できそうで何よりです」
口調は冷たいけれど、これから先も末永く勤めてくれるつもりみたいだ。
「完璧な告白とやらは不発に終わったようですし、クロイツェルの威信にかけてプロポーズはきちんとしてくださいね」
どこまで知っているのか。圧が怖い。
ギュンターにだってまだ決まった相手はいないはずだが、それを言うと「家門の跡取りと同じにしないでください」と一蹴されるのがオチなので黙ってやり過ごす。
ギュンターの正論には敵いそうもない。
俺とエバンの進展に喜んだのは両親も同じだった。
「おめでとう」
「正式にクロイツェルの一員になる日も近いね」
改めてエバンとハグを交わす母上に、最初はニコニコ目を細めていた父上だったけれど、
「早く孫の顔が見たいな!」
母上がとんでもないことを言い出すと咄嗟に口を手で塞ぐという早業を披露した。
「フランツ、ダメだよ。これはデリケートな問題なんだから」
「そうですよ、母上!」
俺もすかさずエバンの耳を手で覆ったから彼の耳には届いていないはずだが、デリカシーのない発言にげんなりしてしまった。
テンションが上がっているのはわかるのだが、エバンの良き理解者となるのは案外父上の方なのかもしれない。
エバンも結構な天然だし、嫁姑問題には発展しなさそうなのが唯一の救いだ。
「ジェームズ?」
後ろから耳に蓋をされたままのエバンが顎を上げて俺の目を見る。
「エバン、母上は商売だけは上手いんだが、配慮の足りない面があるんだ。嫌なことがあったらすぐに相談してほしい」
パッと手を放すと、エバンは自由になった頭を縦に振った。
「別に嫌なことなんて何もないけど。もしも何かあったらね」
エバンが鈍くて助かったな。
母上を睨めば、父上に絞られたようで、しんなりしていた。野放しにして無意識にエバンを傷つけられては堪らない。母上にだって時には厳しさも必要だろう。
そんな感じで初日からギュンターに詰められ、母上にヒヤヒヤさせられはしたものの、料理長の粋な計らいでいつもより豪華になったディナーに、エバンが喜んでいたので今回は良しとするか。




