<21>相性抜群
そんなことがあって、まずは見学からと本日ついに工房へ立ち寄るに至ったというわけである。
「これに魔力を流したらいいのかい?」
無詠唱で試作品に熱魔法をかけるエバンはここでも注目の的。普段他人に関心を持たない職人をここまで虜にするとは。
エバンの魅力はどこであっても通用するらしい。
「おおっ! 魔石なしでこんなに強力な魔力を供給できるとは……」
工房主も感心しきり。俺のことなんかそっちのけでエバンと魔道具談義を繰り広げている。
「ジェームズ様じゃこうはいかないでっせ」
それはすまない。
主人に向かってするにはいささか失礼な発言ではあるが、事実なので甘んじて受け入れよう。
以前どうしてもと請われて魔力を注いでやった時はものの数秒でダウンしてしまったからな。
俺にもっと魔力があれば、彼らの研究に協力できたのだろうけど、何度試してもいいところでへばってしまうので、ここでの肩身はちょっと狭い。
「うちの職人は、技術はあんのに皆魔力持ちじゃねぇからなあ。物を作っても試運転が難しくてよ」
もともとは大いなる魔法を使える人物たちが貴族に取り立てられていたことから、名門旧家出身者には魔力持ちが多い。
うちは母上が子爵家の庶子だったため、俺にも一応魔力が遺伝してはいるものの、半分以上は平民同然の血筋。そんなのは微々たる量しかない。
しかし、エバンのような古くから続く高位貴族の家系は一味も二味も違う。この工房の魔道具全てに力を吹き込んでも、額に汗の一筋すら流れることがない。
「学園で多少いじったことはあったけど、商品化されるレベルのものは初めてです」
「手作業で組み立ててるから魔法局が出してる大量生産品みてぇなもんじゃねぇがな。ほら、こっちは未発表の新作でよ」
工房主はすっかりエバンを気に入ったらしい。部外秘のサンプルまで奥から引っ張ってきて説明している。
「あまりこき使わないでやってくれよ」
一応釘だけ刺しておくが、工房主の口から聞こえたのは生返事だけ。しばらくエバンを解放する気はなさそうだ。
「もうちょっと出力をあげてみてくれ。そうそう、それぐれぇだ。いやあ、助かったよ」
保有する魔力量もさることながら、質が良く、コントロールまで効くとなれば、いろいろと試してみたい気持ちはわかる。
島国との交易で比較的安く仕入れられているとはいえ、魔道具を動かすための魔石は高級品。
しかも、流すエネルギーを調整できないから毎回目算で大・中・小のいずれかをぶち込むしかなかった。
失敗すれば魔石ごと爆散するかもしれない試作品に、おいそれと貴重な品を使うのは度胸がいる。
そんな中、突如として降臨したエバンに工房全体が夢中になるのは、もはや必然の出来事。
彼は魔法局からスカウトが来るほど才能に溢れているし、魔道具への見識も高い。
要するに相性抜群だった。心配は杞憂に終わったらしい。
粗忽なタイプとは無縁なはずなのに、この場にすっかり馴染んでいる。なんだか雛が巣立っていった時のような寂しさが胸を掠めるも、感傷に浸っている暇はなかった。
「よっしゃ、特別にジェームズ様の図案も見せてやる!」
いつの間にそんな話になったのだろう。気がつくと、調子づいた工房主によって、俺の作成した指示書が机上に広げられていた。
「これが先ほどの魔道電子レンジですね」
手に取ったメモと比べながらエバンが実物との差を確認していく。そんなにまじまじと見られることを想定していなかったから、雑な走り書きで恥ずかしい。
「この部分は?」
汚すぎて読めない箇所があったのか、怪訝そうに顔をしかめられてしまった。こんなことならもっと丁寧に清書しておくんだったのに。まったく工房主め。
「どれどれ」
彼の手元を覗き込んで言葉に詰まる。
しまった。裏面には日本語も使っていたのを忘れていた。今回俺がしたのも過去世からの引用だが、画期的なアイデアを盗まれては敵わないと思って、初期の構想だけは日本語にしていたんだった。
「あーこれはその、暗号なんだ」
走り書きなら文法を無視できる分、こっちの方が速くて簡単なのも愛用ポイントではあるけれど、一番は読解が困難っていうのが良い。
「なるほど、確かにこれほどのものなら案出段階では暗号を使った方が安全ではあるか」
工房の職人は誰も突っ込まなかったので油断していたが、さすがはエバン。語学に精通しているだけに鋭すぎる。
「それにしても、こんな発想どこから湧いてくるんだ?」
まさか「前世の記憶からです」なんて吐けるはずもなく、
「利便性を追及したまでだよ」
笑って誤魔化すしかなかった。




