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BLゲームのモブですが、前世を思い出したら成り行きで悪役令息と「ざまぁ」することになりました。  作者: ぷかり


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18/31

<18>好奇心が殺すのは

「いや、今まで見た中で確実に一番の美人だ」


 なんだかとんでもないことを白状させられている気がする。エバンの方を直視できなくて、赤くなった頬を隠すように、ほんの少し背けた。


「あっ……」


 やってしまった。つい子供みたいな態度を取ってしまった。

 あからさまに避けすぎたかも。

 そんな不安に駆られるも、無用な心配だった。俺の杞憂をよそに、エバンは自分の世界に入ってしまっていた。


「そうだろうか。シリル様の方が可愛げがあるし、私にはジェームズのような男らしさもない」


 ブツブツ呟きながらあれこれ考えているところすまないが、一つ訂正させてほしい。

 俺は至って平凡な男だ。エバンにはこの琥珀色の目と赤茶けた髪がどう見えているのか。

 怖くて聞くこともできそうにない。


「ジェームズもそうだが、あの方は何を以って美人だとおっしゃたんだ……? お世辞というやつか?」


 俺の審美眼を疑っているのではなく、腑に落ちていないだけなのだろうけど、シュンとするエバンに「いやいや、嘘だろう」と内心ツッコミを入れる。


 人って自分の容姿にここまで無自覚でいられるものなのか。

 それとも内面重視で外見にとらわれていないだけ?

 いくらエバンが天使だからって綺麗事を地で行くなんてこと、本当にあり得るのか?


 いくらなんでも心が綺麗すぎる。これでよく製作陣はエバンを悪役令息に据えようなんて考えたものだ。彼のことを何もわかっちゃいやしない。


「もっと尊大になっていいって前にも言ったじゃないか」


 知らず苦笑がこみ上げてくる。

 なんにせよ、中性的な見た目だからこその美しさってものを知らないなんてもったいない。誰かが教えてやっていれば良かったものを。

 いや、これから何度だって俺が伝えればいいだけか。


「エバン、言葉の通り君は誰よりも綺麗だ」


 彼のまろやかな頬を両手で包み込む。


 第一王子に婚約破棄されたからといって、決して彼の真価は汚されてなどいない。

 たとえ公爵令息でなくなったって、魔法局への配属が取り消しになったって、エバンはエバンのまま。

 ただ美しいだけじゃない。頑張り屋さんで、誰にでも分け隔てなく親切で、魔法が得意で、頭が良いことに変わりないんだ。


「俺はあのピンク頭よりも君の方がよっぽど素敵だと思うよ」


 公衆の面前に聞かれようものなら打ち首確定待ったなしなので、彼だけに届くよう耳元で囁くと、エバンの白い肌がほんのり紅潮した。


「それは、さすがに不敬だ」


 キュッと結んだ唇をわずかに尖らせる姿も愛らしい。

 よほど照れているのか、輝く産毛まで微かに震えていた。

 家庭内の会話も少なかったみたいだし、褒められること自体に免疫がないのかもしれない。


「あくまで感性の問題だろう。思うだけなら誰にも咎められないさ」

「口にしているじゃないか」


 ジト目で抗議されてしまった。真面目がゆえに屁理屈は通用しない。

 だけど、貴族は皆本音と建て前を使いわける生き物だ。それは彼も承知のはず。


「エバンしか知らないからいいんだよ」


 口元に人差し指を当てるフリをする。二人の秘密だと示唆したことで、ようやく納得してくれたらしい。


「そういうことなら」


 うつむき加減で宣う姿も可愛い。学園時代の澄ました様子が嘘みたいに、素直に受け入れてくれるんだから。

 今度からもう少しストレートに褒めてみようか。そうしたら、第一王子たちに踏みにじられた自信を少しは取り戻せるんじゃないか。


「睫毛が長くて、髪は指通りがいい。根本まで色が均一なのは珍しいし、光の輪があるのは手入れが行き届いている証拠に他ならない」


 出来上がったお刺身定食が運ばれてくるまでの間、俺はエバンが呆れるほど彼に構い続けた。


「本物の天使みたいだ」


 ほぅっと溜息をつくほどに美しい。

 だけど、この言葉はお気に召さなかったらしい。あまりに恥ずかしかったようで、


「もういいから!」


 途中でお叱りを受けてしまったが、デザートに餡蜜を頼んでやると、すぐに機嫌を回復させたから問題はない。


「生魚って初めて食べたよ。結構美味しいんだね」


 鯛の切り身がホクホクとご飯と一緒に口に運ばれていく。かなりお気に召したと見た。


「それなら良かった。ほら、こっちもお食べ」


 脂の乗ったマグロを与えれば、彼の頬が一層緩む。

 サシの入った魚と同じ色をした、薄ピンクの唇。それがほんのり濡れて照るのを目の当たりにした途端、喉がゴクリッと鳴った。


 衆人環視の中、昼時の大衆食堂で定食に舌鼓を打っている美人がいるという異常事態に俺だけじゃなく、客は皆おかしくなっていた。


 エバンの影響か、さっきから俺たちの前に置かれたのと同じご膳ばかり注文が入っている。あまりの盛況ぶりに老婦人はこちらを窺う余裕もなさそうだ。


 それにしても、西洋風な世界観なのに、醤油も箸も白米も小豆もあるっていうのは不思議な話だ。制作会社の粋な計らいってやつだろうか。

 どうせなら、シリルや第一王子に目に物を見せてやれるようなオプションをつけてほしかったのだが。


 エバンが幸せそうな顔をしているから、これ以上の贅沢は言わないでおこう。

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