<14>醜態と絡み酒そして……
エバンを手に入れた記念に高級なワインを開けた。俺ではなく、母上が。
すでにご自慢の情報網とやらから報せが入っていたのだろう。エバンが夕飯に同席するのを見越して貯蔵庫から見繕ってきたらしい。
「息子がこんなにも早くエバン様をものにするとは思わなかったよ。噂通りの美人さんだ」
なぜだろう。愉快そうな口ぶりが心底腹立たしく感じる。
「失礼ですよ、母上。それに正当な雇用関係ですからね」
一応釘を刺してはみたものの、相手に堪えた様子はない。
父上もそれを止めてくれればいいものを、一緒になってニコニコと余計なことを言うから心労が二倍溜まる。
「いや、でも本当に良かったじゃないか。入学時からエバン様に好意を寄せていたんだろう?」
「父上!」
こっちは何を勘違いしているんだ。いちいち飛躍しすぎている。
普段は母上の貴重なストッパーとして活躍してくれているのに、酒が入るといつもこうだ。
「ジェームズのどこを気に入ってくれたのかな?」
物珍しさからか、エバンにばかり絡んでいる。決して悪い人たちじゃないんだが、酔うと収拾がつかなくなってしまうのが玉に瑕なんだよな。
こんな両親の醜態を晒してしまっているだけでも恥ずかしいのに、
「ええっと、まだ深くは存じていないのですが、義理堅いのは美点かと」
こんなおかしな質問にまで真剣に答えられてしまって、俺としてはもう身の置き所がないようなものだ。
回答内容と相まって、顔から火が噴き出そうになる。
「うちの両親が申し訳ない。素面だともう少しまともなんだが。エバンがいるから、二人とも舞い上がってしまって」
一度あまりに居た堪れなくて、身内の非礼を詫びたのだけれど、意外にも彼は迷惑でないと首を振った。
「実家ではこんな風に喋りながら食事を取ることなんてなかったし、和気あいあいとしていて新鮮なくらいだよ」
公爵家って厳しそうだもんな。お父上が宰相とかいうお固い要職に就いているので尚更うちみたいな気楽さはないのだろう。
楽しんでくれているのなら大いに結構。
だけど、現状この場で肩身が狭いのは俺だけって。なんだかアウェーみたいじゃないか。
それでも、親を褒められるのは嬉しい。
「ジェームズ、君のご両親は面白い方たちだね。こんなに楽しい夜は初めてだよ」
こそっと耳打ちされれば、途端に気分が回復する。こんな両親でもエバンは気に入ってくれたようで一安心。
これから共にクロイツェルを盛り上げていく仲間になったんだ。関係は良好な方が良いに決まっている。
そんな風に順調に進んだ食事もそろそろお開きになるかという頃合い。
「王家の宝が巡り巡って我が家門にいるなんて鼻が高いよ」
ワインを三本も空けきったところで、前後不覚になった母上が急にこんなことを言い出した。
「母上、水をお飲みになってください」
不敬と捉えかねない発言に素面の俺は冷や汗をかくけれど、母上の勢いは止まらない。
渡したグラスの中身をグイッと飲み干すと、
「だって! 僕たちの功績をあいつら横取りしようとしたんだもん!」
ダメだ。完全に酔っぱらっている。
ついには体裁を脱ぎ捨てて、机に突っ伏して泣き真似を披露し始めた。
「ほらほら、フランツ。落ち着いて」
背中を擦りながら宥めている父上の声も聞こえていないのだろう。
「友好の証を目先の利益に使おうとするからいけないんだ!」
子供のように声を荒げている。
母上が言っていることもわからないではない。我が家と王家の確執。クロイツェルの一大産業である貿易船のことだ。
この辺りの事情はちょっと複雑で難しい。




