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第4話:ブラックな現場をホワイトに変えたら、部下たちに拝まれました

「ヒラリー様……! 本当に、本当にありがとうございます……!」


翌朝、執務室に出勤した私を待っていたのは、冥府軍の魔術師長をはじめとする部下たちの、涙ながらの熱烈な出迎えだった。彼らは私のデスクの前に整列し、まるで本物の聖女を拝むかのように両手を合わせている。


「皆様、どうされたのですか?」


「どうされたのですか、ではありません! 昨日ヒラリー様がアポロン神に打ってくださった『根回し』

のおかげで、昨夜は数ヶ月ぶりに……数ヶ月ぶりに、夜勤なしで全員が布団で寝られたのです……!」


魔術師長はボロ布のようだった昨日とは打って変わり、顔色が劇的に良くなっている。他の若い魔術師たちも「睡眠って素晴らしい……」「生きててよかった……」と感動に震えていた。


前世のブラック企業でもそうだった。現場が疲弊するのは、個人の能力不足ではない。上層部の「調整不足」と、クライアントの「無茶振り」をそのまま現場に丸投げする構造のせいなのだ。


「そんなに喜んでいただけて光栄です。では皆様、本日分の【神々の感情予報スケジュール】を共有しますね。本日は午後から水の女神様が『美容のために少し昼寝をしたい』と仰っているので、13時から15時までは一時的に魔力供給を止めて大丈夫です。その間にしっかり休憩をとってください」


私がテキパキと本日のシフト表(魔術運用表)を配ると、部下たちの目に猛烈な崇拝の光が宿った。


「神の昼寝スケジュールまで把握しているなんて……!」


「シフト制の魔力運用!? 天才か!?」


「ヒラリー様こそ、この薄暗い冥府の国に舞い降りた真の女神だ!!」


「おい。誰が女神だと?」


その時、背後から部屋全体の温度を急降下させるような、絶対零度の声が響いた。


漆黒の軍服を完璧に着こなしたアルカイド陛下が、いつの間にか立っていたのだ。サファイアブルーの瞳に、自分でも制御しきれていない強烈な独占欲の炎を宿し、部下たちを凍りつくような視線で睨みつける。


「ヒラリーは私専属の補佐官だ。お前たちの女神ではない。これ以上彼女を拝むなら、明日の訓練メニューを3倍にするが?」


「ひえっ! 失礼しましたっ!!」


部下たちはクモの子を散らすように自分のデスクへと逃げ帰っていく。


室内が静まり返った後、アルカイド陛下はゆっくりと私に近づき、そっぽを向きながら、私のデスクの上に小さな木箱を置いた。開けてみると、中には夜空の星を閉じ込めたような、深く美しいブルーの魔石があしらわれたブレスレットが入っていた。


「これは……?」


「冥府の国に伝わる最高級の守護石だ。お前が他国の無能から二度と理不尽な魔術通信や無茶振りをされないよう、あらゆる精神干渉をシャットアウトする結界が仕込んである」


陛下はそうぶっきらぼうに言ったが、そのサファイアブルーの瞳は、まるで私を檻の中に閉じ込めたいかのような、暗く深い熱を帯びていた。彼は私の手首をそっと掴み、絞り出すような低い声で本音を漏らす。


「……我が軍の部下であっても、お前をその濁った目で崇めさせるのは不愉快だ。お前が有能なのは認めざるを得ないが、その知性を他の男たちのために無駄遣いするな。お前は私のためにだけ、その知性を振るえばいい」


絶対零度と言われた男の理性が、初めて激しい嫉妬によって明確にひび割れた瞬間だった。

私は少し驚きながらも、腕につけたブレスレットを見つめ、前世のブラック企業では決して得られなかった「自分だけの絶対的な居場所」と「強烈な特別扱い」に、胸の奥が甘く痺れるのを感じていた。


「ありがとうございます、陛下。大切にしますね」


私が微笑むと、アルカイド陛下は耳の裏まで真っ赤に染めながら、ふいと顔を背けた。


「……あぁ。お前に似合っていて、何よりだ」


こうして、私の新しい職場は完全にホワイト化し、氷の皇帝からの甘く重い溺愛は、日に日に濃度を増していくのだった。一方その頃、優秀な調整弁を失った祖国の王宮では、神々の「有給明けの五月病」による八つ当たりで特大の天変地異が発生し、元婚約者のエリオットが「誰か! 引き継ぎマニュアルを解読してくれ!」と血反吐を吐いて叫んでいることなど、私は知る由もなかった――。



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