第14話:過去のエラー連鎖と、無能の強制終了
チリン、チリン、チリン――!
執務室の緊急魔導通信機から、またしても真っ赤な印字の羊皮紙が吐き出された。
しかし、今回は【SOS】ではない。旧祖国の王宮解体と、元婚約者の処刑確定を知らせる【公式監査報告書】だった。
物理的に連結されたデスクの隣で、アルカイド陛下がその紙を冷徹なサファイアブルーの瞳で一瞥し、冷酷に唇を歪めた。
「ヒラリー、終わったぞ。お前を切り捨てたあのブラック国家(組織)が、自業自得のバグで内部崩壊した」
第12話でヒラリーが突きつけた鬼畜な『最終見積書』にサインした祖国だったが、時すでに遅し。
彼らが「ただのコピペ仕事だ」とナメていた事務処理の闇は深かった。エリオットが過去数年間にわたってヒラリーの手柄を横取りし、自分名義で提出していた魔術申請書は、誤字脱字と魔力計算ミスのオンパレードだったのだ。
ヒラリーという優秀なデバッガー(修正者)がいなくなったことで、過去のデータエラーが次々と連鎖爆発。
王宮の魔力炉は過負荷で完全に消し飛び、国家の全インフラが永久停止。激怒した神々は祖国の上空を漆黒の暗雲でロックダウンした。
追い詰められた王宮の上層部は、真っ先にトカゲの尻尾切りを行った。
「すべては、優秀な書記官を無能と偽って追放し、過去の書類を改ざんしていたエリオットの責任である」と。
報告書の末尾には、彼に下された【最終処分(仕様変更不可)】が冷酷に記載されていた。
『元神官エリオット。国家反逆罪および公文書偽造罪により、爵位を剥奪し平民へ格下げ。本日を以て全財産を没収し、怒り狂った神々を宥めるための【生贄(永久追放)】として、最前線の過酷な黒鉄鉱山へ終身刑として送るものとする』
かつて華やかな夜会で、私を大衆の前で婚約破棄し、「無能め!」と嘲笑っていた男の、これ以上ないほど惨めで完璧な自滅の結末だった。
「……なるほど。現場の引き継ぎと過去のログ(記録)をナメていた組織の、教科書通りの破滅ですね」
私は手首の最高級ブレスレットと、左手薬指のサファイアの指輪をそっと撫でながら、完璧に冷めきったビジネススマイルを浮かべた。同情の余地など1ミリもない。
「あぁ、実に愉快な報告書だな」
アルカイド陛下は立ち上がると、私の椅子の後ろから私を包み込むように抱きしめた。
サファイアブルーの瞳には、かつてないほど濃密な独占欲の熱が宿っている。
「お前を安い給料で搾取し、泥を押し付けていた害虫は、二度とお前の視界に入ることはない。……これで名実ともに、お前は私のためだけのデバッガーだ。ヒラリー、我が国の永続的な運用のために、今夜はお前と『生涯の共同統治契約』の最終仕様を詰めなければならないな」
「陛下、今度はカッコ書きではなく、本音の仕様書が丸見えですが……?」
「丸見えで構わん。私の心はお前なしでは一瞬で機能停止するからな」
氷の男と言われた皇帝が、ライバルの消滅によって完全に独占欲のブレーキを破壊し、ストレートな愛の告白をおねだりしてきている。
前世の孤独なオフィスでは、どれだけトラブルを未然に防いでも当たり前のように消費され、ただ暗闇へ置き去りにされるだけだった。
なのにこの世界で最強の男は、私の過去の傷をすべて丁寧にデバッグし、これからの未来のタイムラインを私だけの熱さで満たそうとしてくれている。
「ふふ、分かりました。その特大の新規案件、喜んで最優先タスクに組み込ませていただきます」
私が微笑んで彼の銀色の髪にそっと触れると、アルカイド陛下は満足そうに目を細め、私の薬指の指輪に深く、熱い誓いの口づけを落としたのだった。
こうして、私を虐げていた過去の組織は完全に強制終了し、私のホワイトで過保護な特等席は、世界一安全で誰にも侵されない絶対的な聖域として完成した。
――しかし、この時の私はまだ知らなかった。
祖国というストッパーが完全に消滅した結果、天界の上位神の権限が暴走し、世界を揺るがす【世界規模の魔導サーバーダウン】のカウントダウンが、静かに裏で始動してしまっていることなど――。
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毎日定時で最新話をデプロイ(更新)していきますので、明日もまた、この過保護でホワイトな執務室でお会いしましょう!(ビジネススマイル)




