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9話『暁のヴァンパイア』

【本作の表記】

名前「セリフ」 →登場人物の会話

???「セリフ」 →正体不明の人物の会話

「セリフ」 →主人公の会話


9話『暁のヴァンパイア』



作戦開始から早3日が過ぎた。

吸血鬼の姿は未だ無いが、町の被害だけが増えている。


ヴァルキリーさんが言うにはここまでの被害は記録に無いらしい。



夢双病。眠り続けること以外に被害はなく。

外部から支援さえあれば死ぬことはない。

だがもし皆が患えば。


この町は静かに眠るだろう

・ 


[ギルド2階 図書館]


ゆきな「そう言えば、君が持ってるその…………光る板って

何?たまに見てるよね。良いなぁ、私も使いたいなぁ」



「これですか?」

スマホの事か、

正直この異世界で寂しくないのはこいつのお陰だな。ギルドから出れない今出来る事と言えば、本棚漁りかスマホいじりか…まぁ

電波は通じねぇから大した事は出来ねぇし

充電も限りがあるから…たまに写真を見る程度だな……


「……スマホと言う魔道具です」

念のため…ワンクッション挟んでおこう


ゆきな「へー。そっか、なるほどね」

思ったより…反応薄いな


外から、アルピスの声が響く


アルピス「大変だ!!!皆来てくれ!!」

「?!」


[ギルド 会議室]


会議室に再び全員が集められた


ヴァルキリー「全滅だ。軍本部で民間人を警護していた兵士が全滅した。」

元帥は悔しそうに唇を噛んでいる


「それって…つまり」

アイリス「吸血鬼にとって今一番の脅威はここじゃなくて軍の方だったって事ですね」


アルピス「数いれば戦えるってレベルでは無さそうですね。生き残りは全員精鋭中の精鋭でした。それが今や夢の中へ………くそ!」

アルピスが机を叩く


「理解しとくべきだった…キチガイマンが早々にやられてる以上は…力なんて関係ないって」

ゆきな「何か……私達にだけある…武器があれば」


ヴァルキリー「無いものは無いんだ。とにかく防衛線の維持は絶対だ。」


ヴァルキリー「幸いにも被害がなかった住民はこの3日間で避難させた。空っぽの本部とここさえ守れば私達の勝ちだ」


アルピス「…では本部は私が守ります」

「一人で行くのか?!」


アイリス「流石に無茶です」


ゆきな「わ、私も行こうか?」


ヴァルキリー「駄目だ。」

全員がアルピスの単騎を止める


アルピス「ですが!」

しかしアルピスは引かない


「…確かに今度襲われるならギルドのはず…吸血鬼が再び本部に現れるのは…少なくともここがやられた後か…」


アルピス「えぇ。ですから私一人でもどうにか」


ゆきな「だから私も手伝うって」


曖昧なこの空気に、元帥がメスを入れる

ヴァルキリー「軍に行くのは私だ」


アルピス「!!!現状の最高戦力が抜ける方が!」

…最高戦力なしで…ギルドの防衛…正直、無茶だ


ヴァルキリー「ギルド内において、最高戦力は私ではない」


アルピス「は…いえ、ご謙遜は後に…」


ヴァルキリー「…もっとらしいことを言えば、私は広く使って戦うタイプだ。屋内の戦闘には不向きなんだ」


アルピス「それは軍も同じです」


ヴァルキリー「ギルドは冒険者の物。だが軍は、少なくとも軍本部は私の管理下だ。守ろうが壊そうが私の責任。私の自由だ」


ヴァルキリー「そして理屈を抜きに言えば。

この戦いでもっとも有利なのは君達三人だ。

アイリス。ゆきな。そしてアルピス」


アルピス「!!」


アイリス「?!」


ゆきな「流石元帥どの!見る目がありますな」


「え、俺は…戦力外?…見る目がありますね」


ヴァルキリー「いいや、君は私と来てもらうよ」


「はえっ」


何故何故何故?!


ヴァルキリー「君には一度私の力を見てもらいたいからね」

「?」


ヴァルキリー「こっちの指揮はアルピスに任せるよ。でも現場判断も大事にね。」


アルピス「…了解」


ヴァルキリー「…さぁ善は急げだ。行こうか」

「りょ、了解!」


[軍本部最上階 元帥室へ続く廊下]


移動の間、元帥が気を使ってか、こちらに話題をふり続けてくれた。肩書きのわりに、案外愉快な人なのかも知れない。


ヴァルキリー「はっはっは、君、自分の名前を忘れてしまったのか!」


「そうなんですよ…なんか…急に思い出せなくなって」


…異世界に来てから…何故か自分の名前だけが思い出せなくなった…いや…何となく、名前そのものへの意識が弱くなっているような気がする。


名前って本来もっと大事な、人の核のはずだろ?

なのに何故か、自分の中で重要度が低くなっているような、どうでも良いと感じてしまうような、まるで名前そのものへの関心が薄れているみたいに、妙な感覚になる。……危機感を…失っている?……何故だ?…


ヴァルキリー「まぁ良いさ、思い出したら教えてくれ」


「…そう言えば、軍はキチガイマンを引き入れようとしてるんですよね?」


ヴァルキリー「あぁそうだ。君も見た通り彼が持つ力。万物を操るオールーリスは最も強く。最も恐ろしい」

「…そんな便利な物じゃないと本人は言ってましたけど正直、見えてる範囲でも強すぎる気がするんですが」


ヴァルキリー「おや、オールーリスの弱点を聞いたのか」

「あ、いや詳細までは知らないです」


ヴァルキリー「まぁ…だろうね。あの力の弱点を知るのは私と…後はゆきなちゃんくらいだろうね」

「え、ゆきなさんは分かるとして…貴方も知ってるんですか?!」

軍のトップに弱点握られてるって結構ヤバくないか?!


ヴァルキリー「安心してくれ。弱点と言っても私にどうこう出来る物じゃない。」


ヴァルキリー「彼自身も…おそらく抑えるので精一杯のはずさ」

「?」



[ギルド3階 大階段]


ギルドの3階に設置された大階段。

天井はかなり高く。天窓からは月明かりがさしている。


階段の中段付近でアイリスとゆきなが会話をしている


アイリス「あの人がそう簡単に吸血鬼にやられるとは思えないんですけど…ゆきなさん何か隠してません?」


ゆきな「あー…まぁそりゃ気付くよね……」


アイリス「彼はどこに居るんですか?今一番必要な戦力だと思うんですが」


ゆきな「…確かに…アイリスちゃんの考えてる通り、彼は夢双病にはやられてない。

でもね、戦える状態じゃないんだ」


アイリス「?」


ゆきな「彼は今………オールーリスと戦っているから」


[軍本部 元帥室]


静かな部屋に不思議な音が響く

衣擦れ音、足音、そして


血を啜る音


「まじか…」

ヴァルキリー「………誰の血を吸っているのか分かっているのか?」


吸血鬼「ヴァルキリー元帥の付き人…だとお聞きしております。

このようなバイキングをご用意頂き、ありがとうございます」

大きな羽…口元には牙…妖艶な、そして

血を啜る姿…まさしく、誰もが想像する

典型的な吸血鬼…!


ヴァルキリー「遺言はそれだけかい。後一言までなら聞いてあげるよ」


吸血鬼「ルナ様もお喜びになられるかと」


瞬間。

文字通り瞬きの間に、吸血鬼の首が地に落ちていた。

吸血鬼が遺言を言い終わる頃には、既にヴァルキリーは剣を抜いて…

吸血鬼を切っていた…まるで見えなかった…

結果だけ…俺の目には結果しか見えなかった。


吸血鬼「カハッ…え……」


ヴァルキリー「喋らせない。遺言は終わり。

首をはねた。吸血鬼はここが弱いんだろ?」

吸血鬼が息絶えた…肉体が崩れることもなく

ただ死体として倒れている


「…すげぇ…これが…ヴァルキリー元帥の…強さ!」

正直…ゾッとした。この人が味方で良かったと心底思う。…それと同時に、何故この世界にはキチガイマンや元帥のような強者が居ながら…今だ魔王が生きているのか…それだけが不可解だ


ヴァルキリー「気をつけてね。コイツら首をはねても血を飲めば復活することがあるから。」


「了解!です!」


元帥が血を吸われていた部下を抱える

ヴァルキリー「…部下達が目覚めないな…夢双病は吸血鬼を倒せば良かったはずだが…やはりもう一人いるな」


「さっき…ルナ様とか言ってましたけど…」

他にもう一匹…親玉が居るのか…?だとすればこの夢双病の原因はそいつ?

じゃあそれは今どに!………まさか!


「ヴァルキリー元帥!!」

咄嗟に声を上げる


ヴァルキリー「分かってる…!ギルドに現れるぞ」





[ギルド 大階段]


赤い月が優雅に輝く暁の夜…悪魔の翼がやってくる


天窓が弾け飛び、全員の視線が一点に収束する


アイリス「来た…」


ゆきな「へー…あれが」


アルピス「くれぐれも作戦通りに」


全員が静かに武器を取り、構える。


大階段の天窓から月光が指す。

飛散したガラス片。


窓の向こう、宙に浮かぶ

羽の生えた魅惑の女


???「はじめまして。運命の子達よ」


???「私は暁のヴァンパイア…又の名を」


暁のヴァンパイア「月の女神 ルナ」

[現在公開可能な情報No9]

『スマホと言う魔道具』

主人公が異世界に持って来れた数少ない現代アイテムの一つ。

電波は届かず、充電も出来ない為今は、写真を見返して

ホームシックを紛らわせるに使っている。

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