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5話『ゴブリンの残骸』

【本作の表記】

名前「セリフ」 →登場人物の会話

???「セリフ」 →正体不明の人物の会話

「セリフ」 →主人公の会話


5話『ゴブリンの残骸』


例のゴブリン騒動から数日後。

現場の残骸の片付けを終え、ゴブリンが根城にしていたとされる洞窟へ向かうことになった…のだが


[洞窟へ向かう森の道]


キチガイマン「いやぁほんとはね?こう言うのってもっと計画的に部隊組んで行くものなんだけどさぁ、皆俺の力を過信して1人で行ってこいって言うもんだから」


「1人で行けば良いじゃないですか」

キチガイマン「…いや寂しいだろ。洞窟とか。だから今回の功労者の君達と行こうと思ったってわけ」

「えぇ…」


アイリス「まぁ良いじゃないですか。彼ぐらいの実力者とじゃなきゃこんな危険な所中々行けませんし」

「?…アイリスでも怖いのか?こう言う森は」


アイリス「いえ、怖いってわけじゃなくて」


キチガイマン「ギルドが許さないんだよ。冒険者ってのが元々、軍の手に追えなくなった小型の魔物やら遺跡の発掘を民間に任せようってんで生まれたんだが、逆に言えばそれ以外の事は全部軍の管轄なんだよ」


アイリス「えぇ。ギルドは軍からの討伐依頼を集めて、冒険者に仕事を提供するって役割なんですが、詳細が未知数な遺跡や、軍でも探索が難しいエリア何かはギルドに降りてくる事はないんです」


「冒険者って思いの外不自由なんだな」

キチガイマン「だろ?町の外に行こうにも、いちいち申請が必要で、町同士の移動も毎回毎回大袈裟でよ~…ってか」


キチガイマン「お前なんでそんな事も知らないんだ?」


「え、いやそれはなんと言うか」


アイリス「あ、見えてきましたよ」


アイリスが立ち止まり、指を指す。

その先には洞窟の入り口が見える



[洞窟 入り口前]


キチガイマン「連れて来といて何だか、ここから先は本当にどうなってるか未知数だ。どれだけゴブリンが残ってるかも分からねぇし、もしかしたらこないだのより強いのが居るかも知れねぇ。」

 

「心配してくれるんですか?、でも心配するくらいなら連れてこないで下さいよ…」


キチガイマン「お前らの心配じゃねぇよ!!…中に『人』が居たとして…そいつがちゃんと生きてる保証はないって話だ」

アイリス「……」


キチガイマン「あの数のゴブリンが急に現れたんだ、最近の冒険者の行方不明数を考えてもこの中に人が捕まってるのは確実だ。軍やお前たちはそいつらを助けるために来てるのかも知れねぇがな。」


アイリス「生きていて欲しいと願うのも駄目でしょうか」


キチガイマン「……もちろん、好きにすれば良い。

でも俺は忠告したからな」


アイリス「私に出来ることをやるだけです」


アイリスの雰囲気が変わった…

俺にはまだ実感が無い。

確かにゴブリンには女性を優先的に向かう習性があった。

それが繁殖のための本能で、ゴブリンはこうやって生きてきたんだろう。

でも、俺はこの現実の意味を、まだ言葉以上の理解をしていない。


ゴブリンの…本当の恐ろしさを、

この世界の現実を、俺はこれから見るのか…


覚悟は出来てる…だが

それが足りてるかは…今から分かる

「助けにいきましょう。俺達はその為に来たんですから」


キチガイマン「………じゃあ報酬はがっぽりと貰わねぇとなぁ!まぁいずれにせよ、中の様子確認して軍に報告しなきゃいけねぇわけだし、さっさとやるぞ」



[洞窟内部 入り口付近]


大きく入り組んだ洞窟だ。

あの王ゴブリンが住んでいたと考えると少し窮屈な気もするが人間サイズで考えると十分な広さだ。


中はゴブリンが住んでいたからか、独特な臭いがする。

湧き水が川のように流れている場所があり、その隅には花も咲いている。

しかし…本当に彼らにそんな知性があったのか。

不思議だ。


それにしても、こんな洞窟で急に襲われて俺は戦えるのか?正直自信がない。


アイリス「…魔力の臭いが」


キチガイマン「あぁ。クセェ。完全に狂ってやがる」

魔力が…臭い?…


「え、魔力ってそういうもんなんですか?!」

魔力って臭いとかあるのか……

じゃあこの妙な臭いが…魔力?でも、普通じゃなさそうだな


キチガイマン「分かってると思うが、かなり籠ってるから、燃焼系の魔法は厳禁だ。普通のランタンか松明にしとけよ」


アイリス「引火…しますもんね」

「……そういうもんなんですか…?」

ガスが充満してる的な…?そう言うイメージなのか?

松明が大丈夫って事は、普通の火と魔力の火は別物なのか?

うーん…


[洞窟 分かれ道]

ほんの少し歩いた先に分かれ道を見つけた

左右2本の道。どちらもかなり大きな穴に見える


キチガイマン「道が分かれたな。アイリスちゃん。君ならどうする?」


アイリス「そうですね…」


アイリスが洞窟の外壁を見つめる、手で触れてみたり

しゃがみ込んで二つの穴を見比べて、地面の石を

拾い観察をしている。


これで何かわかるのだろうか

俺にはどちらも普通の穴にしか見えないが…


アイリス「おそらく、左側が例の王ゴブリンの部屋です」


キチガイマン「ほう。その心は?」


アイリス「一見すると二つの穴に大きな違いはありません。ですが左側の穴は外壁が少し削れている様に見えます。実際、地面には多くの破片らしき石が転がっています。」


「確かに…!言われてみれば右の洞窟は左側ほど石が散らかってないな」

王ゴブリンのあの巨体が通るにはかなり窮屈な道だ、無理に通れば穴を削る事になるはず


キチガイマン「なるほど、確かに良い仮説だ。」


キチガイマンがもう一つの通路を指差す


キチガイマン「じゃああっちの方はなんだと思う?」

「…普通のゴブリンの部屋ですかね?」


アイリス「私もそう思います。こちら側は壁よりも地面が抉れています。」


キチガイマン「あぁ。日常的に、それも頻繁に歩いてなきゃあり得ない。

おそらくはゴブリン達の生活の足跡だろう」

生活の足跡…ゴブリンの知性という奴がますます分からなくなってきた。

それに、王ゴブリンがいた可能性が高い方…

破片こそ散乱しているが

地面自体はあまり抉れていないな…


キチガイマン「さぁ、次は君に質問だ。」


キチガイマン「君は、どっちから探索したい?」


「…俺は」

どちらも見る事になるんだ、なら今は


「最も確実性の高い、王ゴブリンの部屋に行きましょう」


キチガイマン「うっし!」


アイリス「了解」



[分かれ道の先]


キチガイマンが先頭へ、次にアイリスが進み、俺が最後尾を担当する。ゴブリンの習性上、真っ先に狙われるアイリスを俺達で囲み守る。

正直危険と分かっていてアイリスを連れてくる事に最初は抵抗があったが、

どうやら発信器になってゴブリンが寄ってくるから、こう言う探索に限ってはかえって安全らしい。

一応はアイリスも強いからなんとかなるって考えたらしいが…


だがまぁこれじゃ、襲われるなら真っ先に俺かキチガイマンか……


ガサッ

背後から物音


グワッ

何かが飛び出す

「…はっ…?!」


刹那

先ほどの分かれ道の影から刃が飛び出す


初撃をかわす。だがこれは間違いなく運。

二撃目が来る


マズいっ何も出来ないっ


武器を構える余裕もなく

よけれる確証もない


ガクッと

足を挫き倒れた時


俺の頭上に刃が振りかぶる


「「「オールーリス」」」

その声と共に

眼前で攻撃が止まる。


敵は武器をガタガタと振るわせているが、

空中に固定されて動かせないようだ。


アイリス「!」


アイリスが太もものホルダーからナイフを取り、

動けなくなった敵を即座に倒す


敵の正体は…

「ご、ゴブリンか…」

咄嗟だった…気付けなかった…何も出来なかった…


攻撃が止む瞬間、聞こえたあの声、あの言葉。

王ゴブリンの時と同じ…もう一度眼前で見た、

これがこの人の…全ての物を自由に操る力…


キチガイマン「おいおい尻餅ついてんじゃねぇか!おら、立てるか?」

ヘラヘラと笑いながら手を差しのべる


「あ、ありがとう…ございます」

手を取り、立ち上がる


キチガイマン「で、どうよ!俺の十八番!!」

「え?」


アイリス「万物を操ると…ゆきなさんが」

「……」

いくら何でも万能過ぎる…この人と協力すれば魔王なんか簡単に……

でも何故これだけの力を誇示しながら、未だに魔王を倒していないんだ?……


キチガイマン「そう!最強の力だ!…と言いたいところだが、流石に弱点が弱点でな」

「弱点……?」

魔力の制約?回数制限?…考えられるものなんていくらでも


キチガイマン「まぁ教えないけどな!弱点だし!」


アイリス「弱点見せても勝てるんじゃないですか?見せて下さいよ早く。弱いとこ見せて下さい」


キチガイマン「え、なになにこの子怖い助けて」




[ゴブリンの王の部屋]


ほんの少し、洞窟を進むとすぐにそれらしい

部屋に出た


「…!あれって」  


アイリス「!」


キチガイマン「あぁ着いたな。やっぱ思った通り。

ここが王ゴブリンの部屋…そしてあれが…玉座だ」


王が居たであろう空間には、色々な物が散乱している


キチガイマン「……正直最悪なパターンだ。あれを見ろ」

彼が指を指した先には簡易的な牢屋があった。中には鎖が散乱しており、

中に人の姿は無く、捕まっていた痕跡だけが残されている。


キチガイマン「1人分しか鎖もスペースも無い」

「1人しか捕まってなかったとかですか?」

アイリス「……」


キチガイマン「それはあり得ない。あいや、小さなゴブリンの群れならそれも良くある話ではある。1人を拐ってボスだけが関係を持つってのが一番ベタだ」


アイリス「…でも、あの群れは明らかに…」


キチガイマン「あぁ。あの規模は1人の人間にどうこう出来るものじゃない。」


キチガイマン「…ゴブリンは一度で大繁殖出来るように母体を作り替えるなんて話もあるが…」


アイリス「ゴブリンは…極端に寿命の短い生態をしています。」


キチガイマン「…あぁ。だからチビの期間なんざ良くて2週間…つまりは」

「……あの日のゴブリンの群れは、人間一人で…どうこう出来る規模じゃない…」

母体を作り替えるだって?…出てくる情報が…どれも…おぞましい物ばかりだ


キチガイマン「群れの規模から察するに、確実に複数人拐われている。繁殖が娯楽になった群れ程恐ろしいものはないからな。」

「じゃあ…もしかしたら…右側には、さっき選ばなかった方には人が…!!!」




[ゴブリン 生活区]

ゴブリンが生活に使っていたエリア。


僅かな願いを裏切って、

無惨にも積み重ねられているのは人の死体だ。

死後数日と言った所か、不思議なことに異臭はない。


思えばゴブリンの死体からも臭いはしなかった。

体が作り変わる話が本当になら、この人達はきっと……


アイリス「そんな……」

呆然と立ち尽くす


キチガイマン「チッ遅かったか」

しゃがみ込み、遺体の様子を見る


「何人…居るんだ…いったい、これ」

…呆然と立ち尽くす


ほとんどの遺体は服を着ておらず、

お腹の膨れた遺体も混ざっていて

部屋のすみには冒険者の証が散乱している。


乱雑に、強制的に、そうやってここに閉じ込められたのだろう。

ゴブリンに…そんな力や知性が…本当に……


「…」

どうやら人間は無力だったらしい。


今始めて俺は現実と言う奴を直視している


キチガイマン「一度引き上げて軍と合流するぞ。

もうここにゴブリンは居ない。ここからは軍の管轄だ」




[王の間]


その後軍と合流した後、再び洞窟内に入り

遺体の回収と、探索を行った。 


落ちていた何気ない装備を拾おうとしたら

軍人に触るなと止められてしまった。


何か情報の手がかりになりそうな物は見つから無いかと同行したは良いものの、これでは見つけても拾えそうもないな


ため息を付きながら、

王の部屋を後にしようとした時、偶然にも、

玉座の裏の隙間から1冊の本を発見した。


「?」

なんだこれ?誰かの遺品?…


何かの手がかりになるかもしれないと思い

咄嗟に手を伸ばそうとしたが…

誰かの視線を感じたので、

伸ばしかけた手を誤魔化してその場を離れた。


軍人に釘を刺された後だ…下手に拾えないな。

仕方ない、惜しい事だが無闇にリスクは踏めない。

今回は…誰にも気付かれない事に賭けて

見逃すしかない…か


キチガイマン「…………」



[探索の後 町]

全ての任務を終え、町に戻った後、

アイリスは用事があるからと言って先に帰ってしまった。


そしてキチガイマンは……………


「…思ってた人と違ったな…」


ふざけた呼び名で誤解していたけど

案外ちゃんとした大人だった。

ゆきなさんもそうだけど、飄々としている様で

根っこには芯が通って見えた。


そういえば、

本来この仕事ってギルドには回ってこない物なんだよな?でも、

じゃあなんであの人は危険な仕事を任されてるんだ?



[ギルド 正門前]


事後処理を終え、ギルドを後にしたタイミングで

キチガイマンに声をかけられた


キチガイマン「おつかれさん!!」

「あ、お疲れ様です」

不意に陽気なテンションで話しかけられて少し驚いたが、咄嗟に軽い会釈で返した。


キチガイマン「ちょっとだけ話そうぜ、もちろんプライベートで」

「え?まぁ良いですけど」


彼曰く近くに良いところがあるとの事で

今から連れていってくれるそうだ

道中は何気ない会話…というか半分愚痴を聞いた。

依頼が大変だとか、呼び名が酷いだとか


キチガイマン「楽しそうに戦うからキチガイマンって、酷くねぇか?」


「ギリギリ悪口ですね」


キチガイマン「ガッツリ悪口だろ!!」

町外れの人気の少ない平野で、夕日に照らされながら男二人で談笑している


キチガイマン「毎回しんど過ぎて笑ってねぇとやってらんねぇんだよな」

どうやらこの人にもこの人なりの苦労があるらしい


「そう言えば本当の名前はなんなんです?」


キチガイマン「うーん、それは先に君が名乗った後で教えてやる」


「…俺の名前?」

立ち止まり、風を浴びる。


無言の間、静寂の中ゆっくりと日が沈む


キチガイマン「…やっぱ後でいいや」

「?…はい?」

そう言えば、俺異世界に来てから誰かに名乗った事…


強い風が一瞬髪を揺らして


その後すぐに


風が止んだ


キチガイマン「君さ、外から来た人でしょ」





[現在公開可能な情報No5]

『冒険者ギルド』

軍の手に負えなくなった小規模な探索、討伐の依頼を民間に委託するために

作られた団体で、ギルドの掲示板では軍からの依頼や町民からの依頼を受注する事ができる。

男性冒険者の数は訳あって少ない。

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