4話『呆気ない死』
【本作の表記】
名前「セリフ」 →登場人物の会話
???「セリフ」 →正体不明の人物の会話
「セリフ」 →主人公の会話
4話『呆気ない死』
[廃村]
王ゴブリン「我、ゴブリンの王なり」
ゴブリンの……王?
驚く程の巨体に…刀…
いやそれよりも…このゴブリン
まさか知性があるのか?!
言葉を喋ってる。さっきまで戦ってたゴブリンと
明らかに様子が違う…対話が可能なのか?
ゆきな「全員!!!丘まで走って!!町に戻ることは私が許さない!」
「!!」
ゆきなさん?!何でわざわざそんなことを…
こんな所に居たら危険が………あ……まさか!
冒険者「どうして?!町に逃げましょうよ!」
ゆきな「ここで倒すしかないの!」
アイリス「ゴブリンには習性があります」
「……つまりは町に逃げたところで…それを追ってあのゴブリンが町に来るかもしれない…って事か」
冒険者「そんな…」
冒険者達が怯えながら、それでも丘の方へ走っていった
何人かは町の方角へ逃げていったが、咎める気にはなれなかった
王ゴブリンはただ静かにその場に座っている
本当に何もわからない
こいつはいったい……
[切り立った丘の上]
冒険者「それで…ゆきなさん…まさかこの素人集団であんなのを倒す気なんですか?」
冒険者B「僕達はただキャンペーンに参加しただけだ!!こんな事になるなんて聞いてない!」
アイリス「キャンペーン?」
ゆきな「軍が報酬を期間限定で盛ったんだね…それで今日は人が多かったんだ」
「でも…実際あの…不可解なあいつを…本気で俺達だけでやるんですか?」
ゆきな「勿論。私達だけじゃ無理だね。多分火力が足りない」
冒険者「だったら!!」
ゆきな「だから応援を要請した。片道の伝達魔法で。」
「…ギルドに…ですか?それとも軍?」
援軍が来る?誰が
アイリス「………まさか」
ゆきな「そのまさかだよ」
……あ!!
[ギルド 酒場]
ゆきなと酒を飲んでいた男と
受付嬢が、町にまで響いた妙な地響きについて
話している
受付嬢「先程の地響き…あれは何だったのでしょう」
???「あぁ…ありゃゆきな達だな」
受付嬢「?」
???「あーめんどくせぇけど用事が出来た」
受付嬢「どうかされましたか?」
???「軍に言っといて貰える?」
???「ちょっくらゴブリン倒してくる」
・
・
・
[切り立った丘の上]
ゆきな「私達じゃアイツはどうにもならない。でも彼さえ到着すれば…私達に勝機はある」
ゆきな「ここまで逃げてきてくれた人なら、冷静に判断できるよね」
冒険者「…わかったよ…要はあの大人しくしてるアイツを刺激しなかったら良いんだろ?」
ゆきな「そゆこと。多分彼は5分で来るはずだよ」
5分…それまで王ゴブリンが何のアクションも起こさなければ、このまま危機を脱せると言うわけだ
……だが本当に…そう上手くいくのか?
アイリス「!!!待ってゆきなさん!!」
王ゴブリンの方を見ていたアイリスが咄嗟に声を上げる
ゆきな「どうしたの?アイリスちゃん」
アイリス「…今すぐ全員戦闘準備を」
「!!」
何が見えたんだ?!王ゴブリンが動いたか?
いったい何が!
切り立った丘の上から
廃村の方を見渡すと
遠くから
ゴブリンの大群が目に入った
冒険者「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
冒険者B「神様…」
小さな個体から大きな個体まで
多種多様なゴブリンたちが群を成して
こちらに迫る。この状況に
冒険者達が再び怯え始める
「あんな量…どうやって……」
真っ直ぐ向かってくる…目測でも数百…
王ゴブリンはこれを待ってたのか?!
ここに来るまで…ジャスト5分って距離だな
どうする?!何が出来る?!
咄嗟にゆきなさんの方を向く
ゆきな「………無理だ」
ゆきな「ねぇ…アイリスちゃん!!……」
しかし、ゆきなさんも冷静さを欠き始めている。
どうしようもない、絶望的なこの状況で、
ただ一人。立ち上がる者が居た。
アイリス「…殺すしかない」
ゆきな「アイリスちゃん!!」
アイリス武器を構え、立ち向かおうとする。
皆がパニックに陥る中、ただ一人。
少女だけが敵に刃を向けている。
アイリスがこちらに問いかける
アイリス「ゴブリンに捕まった冒険者がどうなるか、君は知ってる?」
「?…知らないけど」
アイリス「…ゴブリンはね。人間の女性を媒介に繁殖する…つまりあのゴブリンは全員、人間から生まれたんだよ」
「………は?」
ゆきな「……」
信じられない話だが、あまりにも上手く出来すぎている。まさか…ゴブリンの習性って…
アイリス「単純で…ふざけてる…このまま逃げたら町ごと皆…だから私は逃げるわけにはいかない」
あのゴブリンの大群が示す、本当の恐怖を、
今…ようやく知った
アイリス「今まで傷つけられた人達の悲しみを、もう繰り返させたりしない」
ゆきな「…そんなの…!そんなの…!私だって!」
ゆきなが再び武器を取る。
二人が覚悟を決めた
俺だって…本当の意味で危機感を持てちゃいない……物量以上の恐ろしさをまだ
言葉以外では理解出来ていない。
憎しみなんて…まだ何も知らないけど…
だからこそ見える戦況がある!
考えろ…!!考えろ!!
何かあるはずだ…!!策はまだ!!!
「!!!」
んな?!…今…!
王ゴブリン「………!」
王ゴブリンが…動いた?!
二人の殺気に気付いたか?!
アイリス「コイツが…何人も冒険者を」
ゆきな「……そう言うことになるね」
俺は……どうする?!ゴブリンは俺に興味を示さない!ここは女性ばかりだ
ゴブリンは正面から俺達の丘を目掛けて………
くそっ!
まず真っ先にアイリスとゆきなさんが狙われちまう!!
あの群れは今ここに引き付けられて真っ直ぐに………
真っ直ぐに………………
一瞬、脳裏に初陣の記憶が過る
囮…作戦…?……最初に3人でやった…
この丘の背には…町がある
ともすれば…本当に助けが来るのなら…
あるいは……
「まってくれ!!」
考えがまとまる前に先に体が動いた
アイリス「?」
ゆきな「どうしたの?」
「戦えない人を…全員町まで後退させましょう」
ゆきな「え、でもそうしたら」
「ゴブリンが町まで追ってくる…ですよね」
そう…そうだ、考えろ!!そして喋れ!
考えながら口を動かせ!!可能性を示せ!!
「その…一つ参考までに…今から来るその人の強さは…どの程度ですか?」
ゆきな「?……まぁゴブリン達を楽々倒せるくらいには…」
「!!!」
アイリス「…もしかして…!」
「さっきやった囮作戦ですよ!!あれを…!俺達三人と、後の冒険者全員でやるんです!!」
「ここでずっと待っていても、例え王ゴブリン相手に粘れても、あの群れが先に来ればゲームオーバー…!」
「でも、ターゲットになる囮を更に後ろ!町の方に下げれば、物理的に時間と距離を稼げる!」
「正直後は賭けですが…本当にその人が滅茶苦茶強い…もしくは軍が動けるなら…!!」
ゆきな「滅茶苦茶な…作戦だね…ほんと…」
アイリス「本当に…無駄な足掻きだね」
ゆきな「正直…私に決めきれる事じゃないけど……一つだけ約束できるのは」
ゆきな「彼なら。あの群れを止められる」
「!!!」
あーそうだ、無茶苦茶なアイデアだ!!
だが…やることは単純…!丘ごと遠くに逃げるのと何ら変わりない!!今必要なのは勝つことじゃない!!
時間を稼ぐ!そしてそのギルド1強いって人に繋ぐ!
全部はこの人の強さ頼みだ!!強くなきゃ困るんだよ!!!……泥臭くてもここまで来たんだ。
一つくらい…異世界に夢見させてくれよ…!!
アイリス「確実に…時間を稼げる。でも代わりに…あの王ゴブリンだけが…」
ゆきな「あの囮作戦なら、君がやった刃役が居るんでしょ?」
「えぇ…それが」
「俺達3人です」
・
・
・
やることはシンプルだ…まず
ゆきな「皆!!今すぐ!真っ直ぐに町に走って!!」
ゆきなさんに冒険者への指示出しをして貰う
指示の内容は単純。町に向かって真っ直ぐ逃げろ。
それだけだ。
これでゴブリンのターゲットが冒険者の方に移ればそのまま時間稼ぎが完了。
俺達は崖の上から王ゴブリンを見張ればいい。
こちらをじっと見つめていやがる…敵意があるのかないのか、本当に何一つ読めねぇ奴だ
群れのゴブリン達がもし、俺達を先に狙えば…いや
それも構わない、他の冒険者達の安全がある程度確約される。
後は俺達を囮に粘ればそれで良い…!
結果がどうなろうと…!!これならば!!
[丘の上 三人が武器を握る]
「群れがまもなく…到着しますね…!」
ゆきな「本当にもどかしい…」
アイリス「…でも…これしかないなら」
この震えは…俺達全員手が震えている。
怖いのか?……いや、今はまだ
武者震いだと思い込もう
5分まで…まもなく……
1分を切る
・
・
・
王ゴブリン「ウォォォォォォォッ!!!」
「んなっ」
とてつもない雄叫びを上げ
ついに王ゴブリンが動き始める
そして真っ先に
飛び上がる……!!
飛んでくる、真っ直ぐに、
丘の上まで!
ドスゥゥゥゥゥンッッ
ゆきな「うっ…そ」
アイリス「……!!」
王ゴブリンが、丘の上に…
俺達の目の前に飛び乗ってきた。
横目には…あぁ群れのゴブリン達が町を目掛けて、俺達を無視して走っていく…
だが…この状況は…!
「くっそ」
王ゴブリンだけが、明らかに他と違う挙動をしている。他の有象無象達が、大人しく習性に従う中
コイツだけがこちらを無視してくれない
アイリス「!!」
アイリスが王ゴブリンに飛びかかる
しかし、王ゴブリンが腕を振りかぶり、
その風圧によって弾かれる
続けてゆきなさんの遠隔の弾幕魔法で攻撃
しかしまるで効いていないように見える
ゆきな「嘘でしょ」
アイリス「うぅ…っ」
王ゴブリン…何なんだこいつは!!
王ゴブリン「何故戦う?貴様らは何が目的だ」
「?!」
また…喋った…!
目的なんてお前達を倒すために決まってんだろ!!
戦う理由なんて…
「生きて帰る!!その為に!!俺はお前達と戦う!!」
剣を握り、王ゴブリン目掛けて走り出す。
二人でも歯が立たなかったんだ
俺に何が出来る??
いや……もう考えるな!!
5分はたった…あとほんの数秒粘れば…!それで良い!!一秒でも時間を稼ぐんだよ!!!
意味なんて知るか!!生きるんだ!帰るんだよ!
その為には死ぬ気でやんなきゃいけねぇんだよ!!
「一撃を!!食らうか?!避けるか!!選びな!ゴブリン!!」
無駄な足掻きだ、当たるはずがない
アイリスが既に体勢を立て直してる
ゆきなさんの弾幕攻撃が再開した
二人だけで十分時間は稼げる…
俺のこの攻撃には何の意味もないかもしれない…
だが…まだ結果なんて決まっちゃいない
王ゴブリン「無駄だと…何故理解しない?戦う意味は…どこにある?」
真っ直ぐ走る、直線で向かう
正直、それが今の精一杯
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
技名なんてない雑な攻撃、剣に振り回されてる
王ゴブリンの足を必死に切る
ダサい。情けない。これが現代人の限界…
でもまぁ…勇気だけは…あったかな
「ウッブッッ」
王ゴブリンが俺を蹴り上げる
地面が一瞬…空に感じる
うわ…これ死んだ…
今度は分かる…これ…マジで死ぬ奴だ
アイリス…ゆきなさん……
ごめん………
・
・
・
アイリス「!!!!」
ストンッ
ゆきな「回復魔法!!回復魔法!!」
「……うっ…」
なんだ…?…今…何で…二人に抱えられて……
王ゴブリン「貴様……!!」
アイリス「君が守るのは私の背中ですよ?前は…
守らなくて良いんだよ……ばか」
ゆきな「ナイス男気!!でも無茶はいけないな!」
???「でもまぁ!!カッコ良かったぜ」
ぼやけた視界、こもる聴覚。
力は入らない。うっすらと世界を、生を感じる。
そして今…おぼろげに見える、見知らぬ背中
「………?」
誰だ?……誰か居るのか……?
男の背中…?
まさか……この人が…
???「後ろのゴブリンはもう全部殺ってきた」
???「後はこいつだけだな」
ゆきな「任せたよ…キチガイマン」
キチガイマン「…お前くらいはちゃんと名前で呼んでくんない?」
アイリス「…!!」
王ゴブリン「お前がぁ!!!!お前がそうなのか!!」
ゆっくりと、真っ直ぐと、男はゴブリンに歩み寄る
キチガイマン「…存在ばかりが有名になるってのは難儀だよな…誰にも名前を覚えて貰えねぇ」
キチガイマン「ゴブリンにも名前ってあったのか?…あ、名乗らなくて良いよ!!俺も名乗らねぇから」
飄々と、緊張感の感じられない立ち振舞い…
ふざけた呼ばれ方と…その風貌に相反して…
この人の背中からは
明確な殺意を感じる
男は腕を前に突きだし、手を広げ
そして唱える
キチガイマン「「「「オールーリス」」」」
瞬間。
辺りに散らばっていた全ての武器が宙へ浮かぶ
俺の剣、アイリスのナイフ、冒険者が落とした武器、ゴブリン達の石器、王ゴブリンの刀……
全て…文字通り全ての武器が宙を泳ぎ
ゴブリンの王に牙を向く
後ろにはゴブリンの残骸……あの群れが辿った結末を…今眼前に…見つめる
王ゴブリン目掛け…無数の斬撃が…飛ぶ
足、腕、首
断末魔なのか血飛沫なのか、今聞こえてる音の正体がわからない。
激しい攻撃による静かな殺意。
ゴブリンの王は呆気なく死んだ……
『オールーリス』彼がそう呼んだ力は
全ての物を自在に操る能力だと
ゆきなさんは言っていた………
[現在公開可能な情報No4]
『ゴブリンの王』
5m近い巨体に刀、そして明らかな
知性を感じさせる。呆気なく
殺されてしまったが未だ目的は不明




