35話『嵐の前夜』
35話『嵐の前夜』
結論は出た。
俺の記憶を閉ざす
魔王の記憶を開く
俺の記憶を現世で開く
だが問題は………
アルピス「…そもそも行けるんですか?異世界」
グラルト「あぁ。手段としては納得できるが、現実的にそれが可能かってのが
問題だろ」
グラルト「まぁゆきな達が実際に異世界から来れてる以上は、少なくともあっちからは来れるんだろうが」
ゆきな「現世帰還はどうなのかな?」
「…正直、俺もそれはハッキリしてません」
魔王「この約束を作ったのは君だろう?女神様。どうなんだい?」
マヤ「……一応、現世に帰る手段はある」
魔王「ほう」
ゆきな「おぉ!!」
アルピス「!!!!」
「…!」
グラルト「…ちょっと歯切れ悪いな」
マヤ「…現世帰還だけなら出来るんだけど…ちょっとリスクがあってね」
「リスク?」
マヤ「…ほぼ確実に片道切符になるってことだね」
「……」
「俺一人であれば…まぁなんとかなる話だ……」
そもそもこの約束を作った当初は異世界へ戻る必要は無かったからな。
今回だってこのまま現世での生活をリスタートすれば済む話だが…
グラルト「一人で帰ったならな。だが記憶喪失になるなら、当然向こうでの介護役が必要になるだろ?…それは誰が行く?」
アルピス「片道………異世界転生……!」
グラルト「お前ちょっとワクワクしてね?」
アルピス「してない!!」
マヤ「ほんとは私が付いときたいんだけど……帰りのゲートにも莫大な魔力が必要だから、私が魔力のない現世に行っちゃうと、ただでさえ難しい異世界への帰還が余計に難しくなちゃうんだ」
グラルト「…?なぁ…じゃあなんで魔力の無いはずの現世からは人が来るのに、
こっちからは誰も行ってないんだ?その話だとこっちからの方が余程行きやすそうだが」
アルピス「確かに。懸念点が魔力だけなら、こっちで異世界旅行とかあったって」
グラルト「だからそれはお前が行きたいだけだろ」
ゆきな「実は異世界から現世に転生してる人がいたりしてね」
魔王「これは素朴な疑問だが、いくら女神とは言え異世界から現世に渡れる様な強大な魔法を個人が使えるのかい?」
マヤ「…現世との繋がりが強いあの街で女神の使ってるゲートを横から不正利用するつもりなので…ゲートの精度自体は信用してもらえれば」
「…そのアクセス自体にコストが必要って話ですか」
マヤ「そうだね。バレないようにするって工夫も必要になるからね」
魔王「それじゃあ君は元々は正規利用で彼を現世に帰すつもりだったのかい?
異世界の存在を知る人間を女神がそう易々と現世に返してくれるのかな?」
マヤ「…実は」
魔王「いや、今は良い。この話は後でしよう」
「?」
魔王「帰還が可能だという事がとりあえずハッキリしたんだ。今度決めるべきは
誰が付き添うかという話だが…」
アルピス「…あっちで怪物に襲われる事を考えると、魔力なしでも戦える人が必要になりますかね?」
ゆきな「あはは。あっちに怪物はいないかなぁ」
魔王「だが視点としてはかなり鋭い。魔力なしで強敵と戦うリスクは十分にあり得る…そうだろう?女神様」
マヤ「…女神達が現世と行き来できる以上、バレた時に追われるリスクは十分あります」
グラルト「それじゃあ、生身でもある程度戦闘出来て、あっちの知識がある人間が必要になるが」
マヤ「最悪の場合現世からこっちに帰れなくても困らない人がいいね」
ゆきな「じゃあ…私が行こうか?」
ゆきな「私なら、日本の事も分かるし」
ゆきな「それなりに戦えるから」
「!!」
アルピス「確かに…僕より知識でアドバンテージが」
グラルト「……!」
魔王「私は異論ないよ」
ゆきな「じゃあ、決まりだね」
この場では取り敢えず、ゆきなさんが付き添って
現世に帰る計画になった。
作戦の決行は10日後。
十分な準備をした上で実行する事になった。
・
・
・
数日後、グラルトさん達に馬を借りて
俺とマヤさんはアイリスの様子を見るために、一度町に戻ってきた。
エルフの森を通過出来たから、かなり時短で動くことが出来た。
馬を貸してくれたグラルトさん達は
それぞれ事情があって町には顔を出せないらしい。
まぁ…うん…詮索はしないでおこう。
[アイリスの病室]
アイリスが眠っていた場所に
アイリスは居なかった……
「?!……あ、もしかしてもう退院したのか…?」
マヤ「……でも…違和感があるね」
「?」
マヤ「…………」
マヤ「……珍しい魔力を持った人が近くにいるよ…多分ここに誰か…来る」
コツコツと足音がする
少しずつ…近付いてくる
・
・
・
病室に誰かが入ってくる
??「……?」
??「誰も居ない…?」
コツコツと足音が遠ざかっていく
[ギルド]
病室に近づく誰かの気配を察知し咄嗟に窓から抜け出して事なきを経た。
とりあえず今はギルドまでやってきた。とりあえず酒場で軽食を
取りながらさっきの出来事を振り返っている。
「さっき、何で逃げたんだ?ナースさんが来たんじゃないのか?」
マヤ「…さっきのは多分。軍のエルフだよ」
「えっ」
「……?」
マヤ「エルフ特有の魔力の流れを感じた。こんなとこに居るエルフは軍くらいだよ」
「…そもそも軍にエルフが居るんだな」
マヤ「……この国の軍は…女神とズブズブだからね」
「………?!」
「あ…いやまぁ…筋は…通るのか?…元はミューズ国だし…」
正直あまり考えて来なかったが、冷静に考えるとこの街は
女神との繋がりがあって当然だ。
大昔にミューズ国として栄えて、女神を求めてたってか過去がある上に
ミューズって名前がなくなった今でも俺やゆきなさんみたいに
転生者がこの街に集まってる以上…まぁそういう場所なんだろうと察しはつくが
「いやだとしても!!そういう事はもっと早くに!」
マヤ「……アイリスちゃんは…軍に拐われた可能性がある」
「………」
「そうか」
何故?今確かにそう疑問符が浮かんだ。
だが、まぁそうか…夢双病の騒動で…
転生者云々がバレてんだ
軍にしてみたらアイリスは重要参考人。
身柄押さえられてて当然……ではあるのか?
マヤ「それで?…どうする?」
「そりゃ勿論」
「助けに行く」
軍が本当に女神と繋がりがあるなら…
俺達はあのヴァルキリー元帥と戦うことになる。
正直、一番恐ろしい存在だ。
[アイリスの自宅]
これから現世に帰る事になるので、改めて
持ち物の整理をしている。とは言え、俺が持っていたのは
スマホと財布だけだった訳で、そのスマホも充電がすでに
切れてしまっている。一瞬、現世に帰らずともスマホの写真でも
見れば記憶が開くんじゃないか?とか思い浮かんだけど、
この異世界で充電する方がよっぽど難しいかな?と思い
これは諦め。写真で記憶開くのは現世に帰ってから為そう。
そういえば…財布には身分証があったよな
学生証なら名前がわかるんじゃないか?
持ち物を整理していると、気づけば隣にマヤがいた。
だから俺はこの異変を…二人で見つめた。
アナログ媒体。何気ないありふれたプラスチックのカード。
高校の学生証。
『高校名 市立なぎさ高等学校
生徒氏名 *>** ●▲■』
マヤ「…何これ」
「…マヤにも同じように見えてるのか?」
マヤ「…うん。なんか…名前のとこにノイズみたいなのが走ってて全然読めない」
マヤ「これってデジタルカードとかじゃないよね!?」
「…そんなハイテクなカードあるわけ…」
「ただの学生証だよ…これ」
・
・
・
[元帥室]
ヴァルキリー「あははっ!!それじゃあ君!出会ったばかりの男を自分の家に住ませてたのかい?!」
アイリス「…そんなに可笑しいことなんですか?」
ヴァルキリー「年頃の少女が見知らぬ男を家に泊めるのは流石におかしい事だよ」
ヴァルキリー「もしアルピスが男相手に同じ事をしたら数日は説教だ」
ヴァルキリー「君も彼だから大丈夫だっただけで……君の危機管理は大丈夫かい?」
アイリス「?」
コンコンと誰かが外からノックする
ヴァルキリー「入れ」
ミキ「し、失礼します」
ヴァルキリー「……君が来たと言う事は……」
ヴァルキリー「………帰ってきたのかな?」
ミキ「確証があるわけではありませんが」
ミキ「男女が2人…アイリスさんの病室に現れました」
アイリス「!」
アイリス(彼と…ゆきなさん?…いや、でもゆきなさんは吸血鬼に拐われて…???)
ヴァルキリー「………」
ヴァルキリー「………月の女神が居るのかな」
ミキ「……?」
ヴァルキリー「あぁ。知らなくて良いんだ」
ヴァルキリー「ただ、もしこう名乗る奴が居たら、真っ先に警戒するんだ。」
ヴァルキリー「月の女神に私達の常識は通用しない」
ミキ「…?」
ヴァルキリー「……包囲網を敷こうか」
ヴァルキリー「行方不明のグラルトウルトの捜索も継続」
ヴァルキリー「……アルピスにも早く復帰して貰いたいね」
ヴァルキリー「さぁ…ネズミを暴こうか」




