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33話『魔王のススメ』

33話『魔王のススメ』



[ウルト城]


自分は回復魔法が効き辛いからと言い張る

アルピスにマヤが女神専用の回復魔法を施すと

全治数ヶ月と診断されたはずのアルピスの足は簡単に治ってしまった。


アルピス「!!」


マヤ「どうかな…?多分これで治ったと思うんだけど」


アルピス「凄い!…僕は体質で回復魔法が利き辛いのに…マヤさんは回復魔法が得意なんですね」


マヤ「あ、いや…今使ったのは女神用の回復魔法。」


アルピス「!!…………」


マヤ「女神はさ…普通の回復魔法が利き辛いんだよね」


アルピス「じゃあ…僕は…本当に…」


マヤ「うん。…根絶したはずの…風の女神の…末裔ってことになるね」


アルピス「……元々孤児だった僕血に…そんな過去が…」


マヤ「……」



グラルトとゆきなが窓から外を眺める。

数百年前に崩壊した国を一望している二人の傍には

雑に拘束された魔王が座らされている。

魔王との本格的な対話が終わるまでは、

メモルヴァメモリーを使われるリスクを警戒し、

オールーリスやメモルヴァメモリーを用いた見張を

する事になっている。


魔王「…良い景色…とは言えないだろう」


グラルト「ここはお前が滅ぼしたとばかり思ってたが」


ゆきな「……まさか魔王も転生者だった何てね」


グラルト「…名無しの転生者君はあの赤毛のマヤって女神が転生させたらしいが、

ゆきなと魔王もそうなのか?」


魔王「…いいや」


ゆきな「私も違う人だったよ」


ゆきな「前に吸血鬼…ルナちゃんにマヤに導かれた転生者って言われたけど

…あの人がマヤだったんだね、しかも私より年下だって言うんだからビックリだよ」


グラルト「なるほど、じゃあ二人は別の女神から連れて来られたのか」


魔王「…参考までに、君は何と名乗る女神に導かれたんだい?」


ゆきな「うーんとね、確か花の女神の」


ゆきな「スズって人だったかな」


魔王「…そうか」


魔王「…彼女はそんな名前だったな」






[グラルト国 元隔離エリア』


370年前に患者を隔離していたエリア、かつてルナは

城を抜け出し、この隔離エリアの前に立ち、そして現実を目の当たりにした。


ルナの人生を大きく変えたあの惨劇。ユーリとの洞窟での生活。

その全てのがこの場所で始まった。

後悔は数え切れない。でも再びこの地に立てた事を今は純粋に嬉しく思っている。



ルナ(………)


ルナ(もう……何百年も前になる……)


ルナ(狂欲病を患った国民がこの場所に隔離されて…溢れて………)


ルナ(グローリーさん…側近兵さん……ユーリ…)



ルナ「私…帰ってきたよ…」




アカネ「…………」


アカネ「…ユカ姉…ウチらも…帰れるかな…いつか…」


ユカリ「帰るよ。絶対」




[ウルト城 会議室]


かつてユーリウルトやグローリーが政治を行っていた部屋で、数百年ぶりの会議が執り行われた。参加者は俺と、マヤ、グラルトさん、ゆきなさん、アルピスさん、

そして魔王の6人。

今回の会議の内容は至ってシンプルで、魔王に関する情報の整理を行う。その間

ルナさんとエルフ姉妹には引き続き外で探索と見張をお願いしている。…まぁ本人達にはそう伝えているが、実際には嫌な話を聞かせないために配慮したかったってのが全員の認識だろう。思わぬ情報で傷つけてしまうかも知れない。この場所にはそれだけの意味がある。

グラルトさんもルナさんには自分の名前は伝えないで欲しいと言っていた。

この人の過去に何があるのかなんて正直まだ分からないが…グラルトウルトという名を聞いて何も思わないなんてありえない…魔王の話が終わったら今度こそこの人とも

話がしたいところだ。



グラルト「つまり…魔王は今、そのメモルヴァメモリーって力の反動で記憶喪失ってわけだ」


マヤ「魔王として…この城に居たのもほんの6年程度…って事何だよね」


アルピス「しかし…それでは…数百年続く魔王君臨の歴史と辻褄が合わないのでは?」


そう…辻褄がまるで合わない。

もし本当に魔王の正体がアイリスの言っていた8年前に出会い、6年前に失踪した転生者のお姉さんなのであれば

この世界に伝わる魔王の伝承とは何一つ噛み合わなくなる。

だがそもそもこの歴史にも違和感はあった。ギルド図書館や街の文献には

曖昧な情報しか記されていなかった。具体性のない曖昧な情報か

目の前の魔王を信じるか…正直そこの答えは明白だ。


ならば…考えられるのは


マヤ「……魔王なんて最初から居なかった…だから容易に魔王になれた……?」


アルピス「!!」


アルピス「伝承が嘘だったと?!」


グラルト「いや…確かにそれなら…筋が通るようになる…」


グラルト「それどころか…不明な要素が全て女神や軍の隠匿で説明が出来るようになる……違うか?」


マヤ「えぇ……少なくとも私はそう考えます」


グラルト「流石、元女神様…!…しかし…本当に何も知らなかったのか?女神何だろ?」


マヤ「いやぁ19年しか生きてない新人女神なもんで……

あまり情報を貰えてないんですよね」


アルピス「……神秘性が……」


「しかし…ともすれば…この魔王の話が見えてくる」


ゆきな「…吸血鬼…ルナさんの話や…アイリスちゃんの事、女神の話も…全部繋がって見えるね」


今回の話し合いで見えてきた情報はつまり…


魔王の目的は自分が何者かを知る事で、

そして女神を倒す事だった。


その為にメモルヴァメモリーのツガイと

4人の女神と4つの力を探して居た…


流れとしては


魔王は8年前に転生し

2年間アイリスの世話になった末


ウルト城へ向かう。


その道中エルフ達との接触があった後


魔王を名乗り、ウルト城を拠点にした。


それから数年の潜伏と情報収集の中で

グラルト国の過去を知り

ユーリさんとルナさんの事を認知


俺達が王ゴブリン…ユーリさんを殺害したタイミングで

ルナさんに接触し吸血鬼に変えることでルナさんの延命…


そして町を襲わせた…?


アルピス「しかし何故?…救うだけなら…わざわざ罪を背負わせるような事する必要が…」



魔王「ははは……必要な行程だったのさ。

メモルヴァメモリーを見つけるには。これが一番早かった」


魔王「最も転生者が集まるあの町で、夢双病を広める事には意味がある。……普通の人間にとって、この病はただ眠り続けるだけのものだが…」


魔王「唯一…メモルヴァメモリーを持つ物だけにはバグが発生する。…後は…君なら分かるはずだ」


魔王が指を差し、全員の注目が俺に集まる。


「……俺だけ…ルナさんの記憶を覗き見て…それで…」


魔王「何故ここが分かった?どうやってきた?」


「…場所は…アイリスの記憶から…後は…ルナさんのサポートで……あ!!」


魔王「これ以上私に喋らせないでくれよ?…せっかくの魔王らしい立ち回りが…恥ずかしくなってくる」


マヤ「へー……じゃあご丁寧に筋道を……」


グラルト「…ゆきな拐ったのも似た理由ってわけだな」


ゆきな「あはは……」


アルピス「……?」


魔王の話にはまだ謎が多く残っている


そもそも何故メモルヴァメモリーを持っているのか


どうやって転生に至ったのか


メモルヴァメモリーはなぜ2つで1つなのか


これだけの情報をどこで仕入れてきたのか



エルフ姉妹がやけに詳しかったのも魔王の入れ知恵だろう


しかし…マヤでさえ知らなかった事を何故??


肝心の魔王本人が「何処で知ったかを忘れた」とか

言ってやがる………正直埒が明かない。


今の魔王は記憶を閉じている状態だ。つまり、俺が

記憶を開けば魔王の曖昧な記憶は少なくともハッキリするだろう


…開く力を使うだけなら…中身を見るわけじゃないんだ、ズルじゃないだろう



「開きましょう。魔王の記憶を」


魔王「…見ないんじゃなかったの?」


「開けるだけなら…特に関わりの浅いあんたと俺だ。万が一中身が見れたとてアイリス絡みだけだろ」



魔王「……そうとも限らないかもしれない」


「何?」


魔王「………私の記憶を開いた反動は計り知れないって事さ」


魔王「君は……自分を見失ってまで私の事を知りたいの?」


グラルト「知りたいのはお前の持つ情報だ。今さら何言い出しやがる」


グラルト「それに開く力の反動なら当然開く反動が来るはずだろ。

失うはずがない」


魔王「…どうだろうね」


アルピス「…失ったとして後で貴女が彼の記憶を戻せば済む話では?」


マヤ「……こればっかりは…魔王の忠告を聞いた方がいいよ」


ゆきな「?」


マヤ「…もしかして、反動はどちらを使ってもセットで返ってくるんじゃないかな」


魔王「…」


グラルト「なっ」


マヤ「私の仮説だけど。メモルヴァメモリーは元々1つの力だった。今の形を見ていると開く、閉じる、奪う、与えるの4つに分かれているように見えるけど」


マヤ「実際には開く奪うと閉じる与えるの2つの力に分かれただけで

4つの個別の力ではないから、例えば魔王の力は二つを別々に使ってる訳じゃなくて、魔王の持つAのメモルヴァとして一括りで、だから魔王が能力をどう運用しようと」


マヤ「魔王への反動は、そのままAのメモルヴァとして返ってくる…」


グラルト「…だとすると、もし開くだけでも、開く奪うの両方の反動がくるリスクがある…ってわけか」


魔王「…流石じゃないか」


アルピス「ですが、魔王が彼をわざわざ求めたって事は、反動を無効化して

記憶を取り戻す術があるからですよね?」


マヤ「魔王の力は、閉じる力と与える力」


マヤ「この力の反動は単純で、記憶に鍵をした上に

存在しない別の記憶を植え付けられる事になる」


マヤ「…でも、彼の開く力、奪う力であれば魔王の記憶を開けた上に余分な物は消して…元通りに出来る」


マヤ「だから魔王はツガイを探していた」


魔王「私の記憶はあくまでも閉じているだけで、完全な忘却ではない。」


魔王「だが奪う力によって奪われた記憶は完全な忘却だ」



ゆきな「…一度奪われた記憶は…完全復元が…」


魔王「断言するが、私に君の記憶を取り戻す術は無い」


マヤ「……不可逆の…記憶喪失」


グラルト「…」


アルピス「そんな…」


魔王「少なくとも、これは君の問題だ。」


魔王「私としては己を取り戻せるなら取り戻したい。」


魔王「君たちにしても私の持つ記憶は欲しい」


魔王「だが、その為には彼の記憶を賭ける事になる」


魔王「…私は君にこれを勧めない」


魔王「…己を見失うのは本当に辛いからね」



リスクを踏んで利益を得るか


リスクと利益を回避するか


…どうすればいい


魔王のこの言葉の真偽を確かめる為には

記憶の開封は絶対。反動の話が嘘かどうかを

確かめる術は試す他ないと言う事


選択肢があるようで何もないじゃないか


俺に、自分を捨てる覚悟があるのか?







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