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32話『夢見る少女じゃ居られない』

32話『夢見る少女じゃ居られない』


時は魔王城奇襲の少し前まで遡る


[エルフの森北部 グラルト国までの道]


グラルト国はエルフの森を抜けてすぐの場所にあるらしく、

森を通れば陸路でもそれなりに早く進む事が出来るようだ。

ルナさんはあまり街から出た事がなく、この森の事は知らなかったらしい。


まぁそんなこんなで今は二手に分かれて魔王城を目指している。

過去と現在のグラルト国を知るルナさんとユカリさんが空路で

偵察を行い、俺とマヤ、そしてこの破天荒なアカネの三人は陸路で

グラルト国を目指している。


ウルト城に魔王がいるとして、危惧すべきは具体的に建物のどの位置に

いるかがわからない事だ。ルナさんやマヤの魔力探知であれば

建物の外からも分かるようだが、それはあくまでも魔王が魔力を

有している事が条件。捕らえられているゆきなさんの魔力が見えない事は

確定しているが、魔王の正体に関しては全くの未知数だ。それに

魔王城に他の魔物や人間が居るとも限らない。単純に魔力探知に頼り切るには

ノイズが多すぎるのが現実だ。そう言った訳でルナさん達には先回りして

貰っている。


マヤ「ねぇアカネちゃん」

戦闘を歩くアカネに、後ろからマヤが話しかける。

徒歩旅に疲れたのか、それともテンションが上がっているのか

マヤはこうやって定期的にアカネに話しかけている


アカネ「今度はなんだ」

マヤの質問責めに疲れたのかちょっとめんどくさそうに返す


マヤ「この森さ、すっごく魔力濃度が濃いけど、なんでアカネちゃんの爆破で引火しないのかな?」


確かに気になるな…魔法で出した火は魔力に引火するって話だが


アカネ「?お前月の女神だろ?知らないのか?」


マヤ「??」

不思議そうに首を傾げたマヤが何故かコチラに顔を向けてくる

「いや知らないっすよ」


アカネ「アンタのあのルミナス何ちゃらって技と一緒だよ、あれ月の女神のあんた専用の技だろ?ウチのも花の女神の技だよ」


マヤ「へー…なるほど」


「なんでマヤが知らないんだ?一番詳しそうなのに」


マヤ「記録に無いんだよ。花鳥風月の血統自体はある時期までそれなりにありふれてたけど、私のルミナスグラビティみたいな専用技はたった一人が継承してきた物だから二つとして存在しないんだ」


アカネ「…あー、じゃあつまり、大昔に表から消えた花の技は記録が残ってないと、だからアンタらも知らないのか」


マヤ「あ、多分それは私が特異なだけ、私19だし他の300年以上生きてる女神なら当たり前に知ってると思うよ。私の先輩も花の女神だったけど、多分知ってたんじゃ無いかな」


アカネ「ちぇ、じゃあ女神に不意打ち出来ねぇじゃん。…ん?19?!」


「驚くよな。やっぱ」


アカネ「女神って全員3桁以上のババア集団だと思ってたよ」


マヤ「それ言ったらエルフも同じじゃない?」


アカネ「はっ、甘いな、エルフは時間感覚が狂ってるんだよ、

実際の時間と肉体の時間が乖離したのがエルフなんだ!

おかげでウチの自認は2…いや19歳だ。」


マヤ「数百年生きてたら一緒じゃん」


アカネ「黙れクソガキ」


「…よくわからねぇなそこの感覚」

単純な長命ってよりは時間感覚…いやそもそもの肉体だけが

乖離している…本人の感覚としては自分以外の時間が加速してる

ってイメージなのかな。

でもこの人エルフ以前に女神だからどっち由来の長命かわかんねぇな


…ってか

「それで、なんでアカネの爆破技は森に魔力に引火しないんだ?」


アカネ「だー!!それは」


マヤ「女神の魔法体系が他と違うからだね」


「?」


すぐにでも詳細を聞きたかったが、事はそうは行かないようで、

話が盛り上がりそうなこのタイミングで、空から偵察に向かっていたルナさんが一人で帰ってきた。ユカリさんは現地で偵察を続けているらしく、

急ぎで帰ってきたルナさんの口からは実に端的に情報が述べられた


ルナ「魔王の魔力が探知できませんでした」


「!!!」


アカネ「…本当に目が良いんだな。ウチも女神なのに全然見えねぇぞ」


マヤ「練度と個人差があるからね…それとこれでハッキリした」


「魔王は…転生者だ」


アカネ「じゃあ外から見つけての奇襲は難しいな、ユカねぇが何か手掛かりを見つけりゃ良いが」


ルナ「それだけじゃありません!今さっき、魔王城に」


「?」


ルナ「二人が突入していくのが見えました!」


マヤ「二人?」


アカネ「誰だよ」


ルナ「…一人は全く覚えが無いんですけど…もう一人は…何となく顔に覚えがあります…確か軍の騎士の人で…中世的な人でした!」


「!!アルピスさんか!」

しかし何故?軍が先に動いたのか?…二人という事はヴァルキリー元帥の線が…いやそれはない。ルナさんがヴァルキリー元帥を忘れていない事は俺が一番知っている。

じゃあもう一人は…


マヤ「…入ったのが誰であれ、彼らが接敵したタイミングであれば、魔王の所在がわかりやすくなるかもしれない」


アカネ「じゃあ決まりだな。パッパといくぞ」


ルナ「では皆さん私に掴まってください!」


「…流石に三人は難しく無いですか?」


マヤ「大丈夫!私は走って行くから!!」


「え」


マヤ「走るから!!」



その後

ほんの数分足らずで魔王城へ到達、地上ではマヤとユカリが合流し

たった数十秒の作戦会議を行った


[魔王城前]



マヤ「とりあえず魔王の無力化が最優先、さっき入ったって二人組がもし私達の敵だったらそっちの対処も必要だね」


ユカリ「でも魔力が無い相手に拘束魔法は…」


アカネ「…アンタの重力操作も合わせりゃ一時的に抑えるくらいならいけるんじゃねぇか?」


ルナ「連携技ってやつですね!」


「連携…」

確かに、ドレイン系拘束魔法は俺でも突破出来るくらいには転生者には無力だった。

マヤのルミナスグラビティで身動きを封じれば…いやまて、それ以前の問題がある。

そもそも魔王が攻撃を回避したらどうする?中の様子もわからないんだ。

もっと確実に、魔王の注意を引いて隙を作って確実にハメる技…ははっ!

そんな便利な事ができる奴が…いるじゃないか!!



「アカネ!!それとルナさん!!」


アカネ「んだ」


ルナ「?」


マヤ「どしたの」


「とっておきの作戦。思いつきました」



[魔王城 奇襲]


あらゆる可能性を考慮して

例え中でどんな事が起きていても、確実に隙を

生み出すためにルナさんの羽で二人組がいる最上階に

俺とアカネが向かい、乱れ花火で場を乱して

もし魔王がメモルヴァメモリーを使った時は俺が相殺する。

そしてマヤとユカリさんには地上から侵入しバックアップを担当してもらう


限られた情報の中で出来うる事を全力でやる。

実に俺達らしい戦い方じゃないか



その後は早いもので、即座に魔王の制圧に成功。

ゆきなさんの救出と先に行っていた二人組が別ルートで

ここへ向かっていたアルピスさんとキチガイマンだった

事が分かった。


それから俺たちは魔王を囲みながら

互いの情報共有を行なった。

キチガイマンの本名や、アルピスさんの正体、

ここまでの経緯…正直驚いたが

それ以上に二人の方がよっぽど混乱していた。

それもそうだ。俺が連れて来たのは月の女神と

暁のヴァンパイア、そしてエルフの姉妹だ。

二人にしてみたら訳のわからないメンツだろう。


互いに聞きたい事は山ほどあるが…今は最低限の情報共有さえ出来れば

問題ない。


本題は…



[魔王城]


魔王「それで…いつまで私を拘束してる気かな」


マヤとユカリさんにギチギチに縛られた魔王が椅子に座らされている。

魔王は「レディを怪力ゴリラとして見ないで欲しい」と抵抗していたが、

残念ながらこの拘束を自力で引きちぎった女の前例があるせいで

ユカリさんは無言で縛っていた。


マヤ「貴女が信頼を得るまで…かな」


アルピス「知ってる事…話すなら今ですよ」


魔王「…メモルヴァメモリーで見れば良いじゃないか」


「……まだ見ませんよ」


マヤ「彼、優しいでしょ?乙女の心を無闇に見ないんだよ」


アルピス「…後でその力の事も教えて下さいよ」


今、魔王の見張りにはマヤさんとアルピスの3人でついている。もちろんただの見張りじゃない。情報を引き出すためだ。


その間ルナさんとエルフ達はグラルト国の様子を見ているそうだ。


肝心のキチガイマン…いや、グラルトさんはゆきなさんの側についてる


魔王「優しい配慮ありがとう。でも私からは何も出ないよ?」


魔王「だから早く知りたいなら能力を使うことをおすすめするかな」


「見せる気があるなら今話しても一緒でしょう?」


「良いですか。俺達からの要求はわずか2つ」


「アイリスの解放と情報の開示」


「この二つだけです」


魔王「…アイリスちゃん」


アルピス「…貴女は僕には何もせずアイリスさんにだけ呪いをかけたそうですね」


マヤ「…何か彼女に特別な理由でもあったのかな?……まさか彼女も女神とか」


魔王「ハハッ…私が知る限り、彼女は普通の人間のだよ…そう…何の変哲もない…ただの少女だ」


魔王「安心してくれ。呪いはもう解除した。君達が帰った頃には目覚めているよ」


魔王「呪いと言っても…ただの夢双病だけどね」



「…尚更…アイリスにだけそんな事をした意味がわからない。」


魔王「君は……自分の名前を覚えているかい?」


「?…………?」


マヤ「!!……………」



魔王「私は…忘れてしまったよ…」


魔王「私たちは共に、日本と言う国で生まれた。


君は帰りたい世界の名を…友の名を覚えているか?」


「……ニホン?……」

…違う日本だ!そう…俺のいた世界の生まれた国だ!!

何で今一瞬思い出せなかった?…それに名前の事も…

確かに言われてみれば…俺はこの異世界に来て一度も

自分の名前の事を考えた事がない…でもなんで俺はこんな…

魔王も同じなのか?…俺と魔王だけが持つ…記憶に関する共通点…


まさか


マヤ「…メモルヴァメモリーの……副作用」


魔王「流石女神様…!察しが良いね。…アルピスちゃんにも分かりやすく言うと」


魔王「私と彼は記憶を操る能力を持っている。これがメモルヴァメモリー。…本質はオールーリスと同じだ」


アルピス「それとこれに何の……!!」


魔王「気づいたね」


アルピス「…因果応報の…ペナルティ…!」


魔王「オールーリスは他者を傷付けた時、全自動の因果応報が返ってる。……ならば記憶を操作した時…メモルヴァメモリーはどうなるかな」


魔王「誰かの記憶を閉ざしたなら?」


魔王「もし」


魔王「誰かの記憶を奪ったなら?」


魔王「一体どんな因果が私達に還えると思う?」


「……記憶の…喪失…」


…確かに……違和感はずっとあった…

グラルトさんにも、ヴァルキリーにも一度指摘されてる…

俺は俺の名前をまるで覚えていない…それどころか

名前その物への意識が薄れている。そもそも他の記憶も、

日本で過ごした記憶も何と無く薄れているような…


俺にとって重要な物じゃないのか?

大事だと感じる感覚ごと抜け落ちているのか?


今俺が…ハッキリと思い出せるのは……


正直マヤとの出会いでさえ…曖昧だ…確かあの日は…クリスマス!!

俺は友達と…


そもそも…俺は何で死んだんだ??


……


一番…ハッキリと思い出せる一番古い記憶は…


着ぐるみのクマに風船を渡された…


アイリスと…会った時…?



魔王「君は私ほど、過剰には使っていないから…異世界での記憶なら残ってるはずだ。」


魔王「私の記憶は能力を使う度に閉ざされ…付与された」


魔王「記憶喪失の人間に存在しない記憶が植え付けられるような物だ」


魔王「…私が少しずつ私じゃなくなってくみたいだよ」


魔王「私は…自分の記憶を開きたい。その為にツガイと、

日本を知る者を探していた」


魔王「君だって同じさ。君の力は開く力と奪う力」


魔王「私達は互いの干渉で初めて記憶が甦るんだ」



魔王「……私は…いったい誰なんだろうね」


マヤ「……」


アルピス「……」


魔王「私は重要な情報を大量に握っている。だがもはやそれを何処の誰から得たのかをまるで覚えていないんだ。」


魔王「一時をメモを残したりもしたが、その在処さえいつしか忘れてしまった」


魔王「そんな私が唯一思い出せる古い記憶はね…」


魔王「アイリスと名乗る少女に…救われた思い出さ」






[アイリスの眠る病室]


時刻は朝。


カーテンを靡かせ

風が病室へと流れ込む


美しく清々しい朝日に照らされて

少女が一人、夢から目覚める


アイリス「………?」


アイリス「……ここ…は?」


体をゆっくりと起こし目を擦るアイリス

ゆっくりと視力を取り戻すその目の前には


ヴァルキリー「やぁ。お目覚めかな。眠り姫」


鎧こそ着ていないが、その姿には確かな威厳を感じる。

穏やかな笑顔とは裏腹に、その目はしっかりとアイリスを捉えている


アイリス「貴女は……軍の…」


ヴァルキリー「元帥のヴァルキリーだ。先の戦いではご苦労だったね」


ヴァルキリー「君はあの戦いの後唯一夢から目覚めず、

数週間の間ここで眠っていたんだ」



アイリス「……!!…」


ヴァルキリー「まだ動ける状態じゃないだろう」


ヴァルキリー「まぁ…私も暇じゃないから…手短に…」


アイリス「??」


ヴァルキリー「ゆきなの……いや」


ヴァルキリー「転生者について知っている事を話して貰おうか」


アイリスが辺りを見回すと

数人の兵士がアイリスを取り囲んでいる。



ヴァルキリー「君の身柄はこちらで預からせて貰う」



ヴァルキリー「君は…私達にとって……きっと誰よりも重要な存在になりうる」



ヴァルキリー「……お話をしようか……アイリス」




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