29話『狂欲病』
29話『狂欲病』
[エルフの森]
マヤ「狂欲病はね、良く言えば人の願いを叶える力なんだ」
マヤ「人の欲、夢、願い。それを全て全自動で叶えてしまう力」
マヤ「女神は…本気でこれを善行だと信じていた」
マヤ「でも…この力は結果的に人の願いを狂わせて、欲を暴走させる」
マヤ「当たり前に持った三大欲求。誰かを愛する心。
長く生きたいと願う心、……どんな願いも狂わせて叶えてしまう」
マヤ「………これが女神の罪。狂欲病の正体だよ」
「……つまり……ゴブリンや…吸血鬼は、その欲が形になった存在で……それは女神がもたらした厄災だと…?」
マヤ「………」
何故女神はこんな事をする必要があったんだ?…意味がわからない…これが善行?
確かに、良く言えば人の願いを叶える力だ。ならば
これは神らしく効率的に願いを叶えるための工夫だとでも言うのか?
それに、グラルト国を襲ったあの厄災の正体が本当に女神の罪だったとして、
何故魔王は今そんな街にいるんだ?…もしかして魔王の正体は女神なのか?
声は女だった…マヤが俺に渡したメモルヴァメモリーが女神側の力だったとしたら、
ルナさんを吸血鬼に変えられた事、魔王がメモルヴァメモリーを持っている事、
今グラルト国にいる事。その全てに納得が行く。
「…でも、いったい何のために」
思考を凝らしすぎて、思わず声に出てしまった。
これを聞いたからか、拘束していたエルフが喋り始める
アカネ「…女神が女神を欲しがったからだよ」
ユカリ「ちょっと!アカネ!」
アカネ「この月の女神は…信用できる…いや、この男なら信用できる」
ユカリ「アカネ?…」
アカネ「その話は、1女神がポロポロ漏らして良い話じゃねぇだろ?…まさか裏切ったのか?女神を」
マヤ「……」
アカネ「ははっ想像以上だな」
アカネ「エルフも元を辿れば狂欲病の成れの果ての女神被害者だ。ウチらはずっと女神から逃げる為に故郷を捨てて今日までいくつもの森を転々として来た。だから今日アンタと初めて会った瞬間は正直絶望したぜ」
ユカリ「…」
……女神が女神を欲しがった?………
それにこのエルフの言葉が本当だとすれば、
エルフの正体はゴブリンやグラルト国と同じ
ルーツを持っているという事だ。
かつてグラルト国はルナさんと言う月の女神が居たから襲われた…
ともすれば浮上するのはエルフの国にも女神が居る可能性…
いるのか?この森に。もう一人の女神が
マヤ「私は、貴方達の様な女神被害者を助けようとして女神をクビになった。だからなんだって感じかもしれないけど…信用してくれると助かります」
ユカリ「…もしかして貴女は、私達がなんでこんな目にあったのか、私達も知らない様な事を知ってたりするの?…正直当事者って感じはしないけど」
マヤ「私は…女神やエルフどころか、普通の人間基準でもかなり若い方だから、当然現実として見てきたわけじゃ無いけど」
マヤ「…知識として、当然過去の事は知っています」
マヤ「…当時の女神は、各地に点在する失われた女神の血を求めて、見つけては回収や交渉を繰り返し、決裂した時には強行手段に出ていました」
「…」
アカネ「…」
ユカリ「…続けて」
マヤ「女神の正体はつまり、この世の美しい物の名を冠した神の娘の血筋を引く人間で」
マヤ「かつて世界は4つの力と4人の女神によって創られました。」
「ちょ…ちょっと…!!話が、話が急に壮大になりすぎて…正直頭が」
マヤ「?…これはもうさっき話しましたよ」
マヤ「花鳥風月」
「…!!」
さっき話してた…花の女神とかの…話
マヤ「この四人の女神の血が、女神にとって重要な物だった」
マヤ「でも…鳥は既に根絶され。花は本来の力を失い、
風と月は共に長年行方不明だった」
マヤ「でも数百年前に、偶然孤児として、月の女神がある国で見つかった」
「……ルナさん!!」
ルナ「Zz………」
マヤ「…その時の月の女神は捕えることが出来ずに、結局私は数百年後に見つかった別の月の女神から生まれました」
マヤ「……本当に…何が美しいんだか…」
アカネ「…へー…じゃあそこで寝てる悪魔の翼も…仲間意識沸いちゃうじゃん」
ほんの少しの間を開けて、さらに伝わりやすいトーンでアカネが語る
アカネ「月の女神の…マヤ?だっけ。協力してやるよ」
アカネ「あんた、女神に恨みがあるんだろ?…なら協力してやる」
アカネ「だからこの拘束魔法を解いてくれ」
ユカリ「え。協力?!…あんた、何考えて!ここに居たら、魔王が匿ってくれるんだよ?!」
マヤ「あらら…やけに詳しいと思ったら魔王が情報源だったのか」
「……頭が痛くなってきた」
明らかに女神を恨んでるエルフが魔王と繋がりがあるなら、
魔王女神説の仮説が一気に崩れちまう。…くっそ…ただの雑談のつもりが
こんな壮大な話に発展するとは思わなかった。マヤは相変わらず重要情報をポロポロと…!しかしまぁ、これもあの時メモルヴァメモリーを使わない事を選んだ結果か。
自分の選択だ、後悔はしない様にしなくちゃな。
マヤ「それじゃあ二人は…この拘束を解いたら魔王の事を教えてくれるってことだね?」
ユカリ「…本気で魔王を倒す気?」
「…それはわからない。会ってみるまでは」
帰るために…現世に帰るために、魔王を倒そうとしていたはずが、今じゃこんなに歯切れの悪い事しか言えねぇなんてな
マヤ「…拘束を解く条件が1つ。」
マヤ「エルフにも女神が一人居るでしょ?…力は無くても良いから…戦力が欲しい。その人も…仲間に入れさせて欲しい」
二人のエルフが、マヤの提案に目を見開く
ユカリの方はすぐに何か言いたそうにアカネの方へ視線をやるが
当のアカネは視線をマヤから逸らす事なく、まっすぐと見つめている。
一瞬浮かべていたアカネの驚いた様な目は、すぐにニヤリと笑みに変わって
大きく笑いながら喋り始める。
アカネ「あはは!!…だったら尚更…私の拘束を解くんだな」
ユカリ「アカネ!!」
この場に居る全員の注目が
アカネ一人に向けられる。
それは草木でさえも、静寂を作り出し
そよ風と月光がアカネを照らす。
アカネ「私が花の女神」
アカネ「その血と力を引くエルフだよ」




