20話『風の騎士』
20話『風の騎士』
[魔王城]
魔王がゆきなの記憶を覗く。
それはとても長いようで、短い
ほんの一瞬の出来事。ゆきなは
ハッとして意識を取り戻す
ゆきな「………………」
ゆきな「………!!」
ゆきな(今…今一瞬なにが)
魔王「…え///……あは…え、」
顔を両手で隠しながら軽く取り乱している
魔王「ゆきなちゃん……いや、悪気は無かったんだけどね」
魔王「……素敵な思い出だね」
ゆきな「……何を」
魔王「でもそっかぁ…そう言うことだったんだね……」
ゆきな「わ、私に何したの?!」
魔王「オールーリスの弱点…知っちゃった」
ゆきな「?!」
魔王「………ごめんね。お詫びに良いこと教えて上げる」
魔王「メモルヴァメモリー。私の力だよ。今はツガイが居なくて寂しいんだけどね」
ゆきな「…なにそれ」
魔王「………オールーリスと一緒だよ。弱いとこも全部」
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[夜 町外れの隠れ家]
街から外れた、誰も知らない隠れ家に
松葉杖で足を引き摺りながら、鎧を脱いだ私服のアルピスがやって来た。
入り口をノックして、返事が無かったので無理やりドアを
ガチャガチャしていると痺れを切らした家主が扉を開ける
アルピス「探しましたよ。」
キチガイマン「……!アルピス君」
王ゴブリン騒動の後から数週間行方をくらませていた、
ギルド最高戦力、キチガイマンと呼ばれる男と扉越しに邂逅する。
その姿は何処か以前の様な覇気を感じさせない少しやつれた姿をしている。
何でここがバレた?と言いたげに一瞬驚いた様な顔で目を開いて目を見合わせた後
再び目線が外れる。
アルピス「……何があったか知りませんけど。とにかく来て下さい」
真剣に顔の方を見て訴えるが、キチガイマンはずっと目を逸らしている
キチガイマン「……軍には行かないぞ」
アルピス「……行くのは軍じゃありません」
キチガイマン「?」
アルピス「……私の足は…まぁ見ての通りこんなですが」
キチガイマン「……大丈夫か?」
松葉杖で自立するアルピスの足を思わず見てしまい、
そのままゆっくりと目線を上げる。この時初めて二人は目を見合わせた。
その隙にアルピスはキチガイマンに話を始める。
アルピス「…………ゆきなさんが魔王に拐われました」
キチガイマン「?!」
アルピス「……私達を庇って身代わりになりました」
アルピス「…敵はニホンジンと…転生者を探していました」
他の誰からも出るはずの無いゆきなの正体に関する言葉が意外な人物から
飛び出した事に一瞬驚いた後、少し残念そうに呟く
キチガイマン「………何だバレたのか」
アルピス「やっぱり知ってましたか。まぁ私も詳細をまるで知りませんが」
アルピス「………私のお願いは…1つです」
キチガイマン「…勿論助けには行くぞ」
適当に履いている様で、信頼感を感じる言葉。
会話を長引かせたくない彼が、相手の真意を汲み、
先に救出の意思を見せた。しかしアルピスは
その言葉に何一つ表情を変えない、ただずっと真っ直ぐに、
まるで、孤独や不安のどん底から空に向けて手を伸ばす様に
アルピスは目を見て彼に語る。
アルピス「僕を守って下さい」
キチガイマン「…………?」
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[夜 星のみえる丘]
予想外の言葉と、珍しく真剣な顔で自分に頼み事をする
アルピスを見て、流石のキチガイマンも話を聞く事を選び、
隠れ家から少し歩いた先にある、星空の良く見えてそよ風が心地良い
彼のお気に入りスポットにやって来た。
景色を見ながら、ゆっくりと地面に座る。
キチガイマンはあぐらを、アルピスは三角座りをしている。
二人は星を少し眺めた後、キチガイマンから問いかける。
キチガイマン「で、さっきの要求だが、ありゃなんだ?
ゆきなを助けろが要求じゃないのか?」
アルピス「頼まなくても、きっと貴方ならすぐに動くでしょ」
キチガイマン「……まぁな」
キチガイマン「何やかんや色々あったけど、ゆきなは大事な仲間だからな」
キチガイマン「……それで、何でわざわざお前の護衛なんだ?立場ならお前の方が……」
キチガイマンがアルピスの方を向く。アルピスはずっと星空を眺めていて
そんなアルピスの横顔を眺める。アルピスの目には星空が写っていて、
彼の目を見れば空を見ずともこの景色の美しさがわかるようだ。
ほんの少しの無言の後、アルピスは珍しく優しい声で心中を語る。
アルピス「………どうしても、知りたくなったんです」
キチガイマン「?」
アルピス「この世界には僕の知らない事で溢れていると…最近痛感しました。
……そしてそのどれもが閉ざされた情報で…元帥にも忠告を受けたほどです」
キチガイマン「……お前、いったい何を見てきたんだ」
アルピス「……さぁ…分かりません…まだ、なにも…」
アルピスが姿勢を崩し、足を伸ばして、そして寝そべる。
右手を空に伸ばして、まるで月を掴み取るかの様にゆっくりと握りしめる。
そんな彼をキチガイマンは含みのある表情で眺めるが、その顔は星空の逆光で
アルピスからはよく見えない。今のアルピスにはこの星空だけが見えている。
アルピス「女神様が居たとして…それは本当に美しいのか…僕が見た女神は…翼のはえた悪魔でしたよ」
アルピス「だから…この目で見てみたいんです。」
アルピス「…その為に貴方に守ってもらいたい」
キチガイマン「…?お前には立派な上司が居るじゃねぇかよ」
アルピス「……覚えてますか?…いや…忘れててほしいな…」
呟くように言葉を漏らす。その言葉はよく聞こえない。
キチガイマン「?……今日のお前…なんかいつもと違くねぇか?」
アルピス「鎧を脱いだから身軽なんですよ。それに僕は、
最も自由な風の騎士ですから」
キチガイマン「何だそりゃ……ってかお前なんで俺の居場所分かったんだよ、まさかヴァルキリーか?」
アルピス「…ゆきなさんから聞いてました」
キチガイマン「アイツ…!漏らすなよ勝手に!」
アルピス「貴方が言うことですか」
キチガイマン「………まぁ…うん」
アルピスが体を起こし、足を伸ばした姿勢で座る。
両腕を後ろの方について、体を支えている。
アルピスが彼に視線をやると、今度は彼の方が星を見ていて目が合わない。
アルピス「……そろそろ教えて下さいよ…オールーリスって一体何なんですか?」
キチガイマン「………その話は気が向いたらな」
アルピス「???」
キチガイマン「………あー……そうだ、返事まだだったな」
アルピス「…?」
キチガイマンが目線を向けて、この星空の下でようやく二人が目を合わせる
キチガイマン「良いぜ。守ってやる」
アルピス「!!」
キチガイマン「ただし交換条件が2つある」
アルピス「…良いでしょう、それは勿論構いません」
キチガイマン「1つ。俺の秘密を漏らさない事。
特に軍な、絶対言うなよ」
アルピス「それはもちろん!…この事だってバレたらただじゃすまないでしょうし…」
キチガイマン「そして2つ!」
アルピス「ゴクリ」
キチガイマン「ちゃんと俺の名前を覚えること!」
アルピス「…?あ、確かに言われてみれば…多分誰も知らないような…」
キチガイマン「ちゃんとあるぞ?人間だもの」
アルピス「じゃあ教えて下さいよ」
キチガイマン「……」
キチガイマン「グラルト・ウルト。」
グラルト「何の変哲もない、ただの名前だ」




