14話『王ゴブリンとヴァンパイア』
【本作の表記】
名前「セリフ」 →登場人物の会話
???「セリフ」 →正体不明の人物の会話
「セリフ」 →主人公の会話
14話『王ゴブリンとヴァンパイア』
[夢双病まで…残り一ヶ月]
数百年間の時を過ごした洞窟が軍に見つかり、
もう2度と歩けない程に足を痛めたルナを抱えて
必死に森の奥深くへと逃げていたゴブリンの王ユーリは、
突如として現れた月の女神マヤを名乗る
赤い髪の女と邂逅する。
[森の奥深く]
互いに見知らぬ言語で会話を試みる両者。
ルナはマヤの言葉を理解していないが、
ユーリはかろうじてマヤの言葉を理解している。
マヤ「ルナちゃんも、私と同じ月の女神の血を引いているはずだよ」
ユーリ「月の女神…?なんだそれは」
マヤ「あれ、知らなかったの?私てっきり女神の血だから匿ってるのかと…」
マヤの言葉を侮辱と捉えたユーリは咄嗟に攻撃に移す。
ドゴォォォォォン!!!とマヤを目掛けて拳を振り上げる。
マヤは咄嗟に攻撃を回避し、ユーリの拳は地面を抉る
マヤ「え、っちょっとまって!!急におそわなぁぁぁうわぁぁぁ!!!」
ユーリの猛攻を必死に避けるマヤ。
拳は全て直前で外れるが、その勢いは全て
地響きを響かせる程の高威力である。
ルナを守る事に必死なユーリにとって、
危険因子の排除は防衛本能だった。
マヤ「待て待って待って!!!!敵じゃない!敵じゃないよ!!!」
両手を前に突き出し、マヤが降参の姿勢を取る、
抱えていたルナからも静止され、ユーリの攻撃は
マヤの眼前で停止する
ルナ「ちょっとユーリ?!どうしたの?!」
ユーリ「今こいつはルナを侮辱した!!」
ルナ「良いよ!!良いって!気にしてないから!
ほら!何か話してるみたいですし…話聞こうよ」
ルナの言葉に、ユーリは拳を収める
ユーリ「……そうだな」
マヤ「あぁ…やっと落ち着いてくれた」
安心してマヤはため息と脱力、安堵の声を漏らす
マヤ「でもあれだね、今のままじゃ会話がちょっと不便だね。グラルト語の翻訳魔法…は無いから今作るね」
マヤが目を閉じ、両腕を軽く広げ脱力する。
ユーリ「??」
マヤ「はいできた!!いやぁやっぱり私は天才だですな」
ルナ「え!急に聞き取れるようになった!」
全自動の翻訳魔法をほんの数秒で構築したマヤは
ルナ達とのグラルト語での会話が可能となった。
マヤ「グラルト語ってこんな感じかぁ…結構可愛いアクセントだね」
ユーリ「……ミューズとか言ったな。ミューズ国が何のようだ?数百年も経ったのに未だにルナが欲しいのか?悪いが俺は」
マヤ「え?あー…なるほどね。違うよ、いや違わないけど、私は違う」
ルナ「?」
マヤ「………私は君達にチャンスを与えに来た。女神だからね」
ユーリ「チャンスだと?」
マヤ「そ。君たちこのままだと女神か、冒険者に殺されちゃうよ?もしユーリ君が先に死ねば…ルナちゃんはどうなるかわからない」
ユーリ「………」
ルナ「つまり何が言いたいんです?」
マヤ「世界はゴブリンの王を恐れ。そして君を求めているんだ。ルナちゃん」
マヤ「もう気付いてるんじゃない?ルナちゃんの血は単なる国の王族の血じゃないことくらい」
ユーリ「………あぁ」
静かに応える。
ルナ「え?」
マヤ「ルナちゃんは私の遠い親戚で…私から見たらご先祖様?的なポジションで、…つまり特別な血を引いてるんだ。人より寿命が長くて、魔法も得意で、何より魔力の流れが鮮明に見える!!」
ルナ「!!」
マヤ「あ、やっぱ心当たりある感じ?」
ユーリ「…だからミューズ国はルナを欲しがったのか?」
マヤ「そ、でも同時に危険視もした。だから当時のお偉いさんは派手にやらかした」
ユーリ「やらかしだと?……まさか」
マヤの言葉に、ユーリはあの日の惨劇を思い出す。
今この瞬間、ユーリの中で全てのピースが繋がった。
マヤ「まぁ、そこからは貴方のご想像通りに。
私は昔の事なんて何にも知りません」
ルナ「……貴女にとっては過去の…知りもしない歴史の話かも知れませんが……私達にとって…あの日々は、確かにそこにあった…紛れもない現実でした」
ユーリ「つまりだ。お前は結局。何が言いたいんだ?」
確信に迫る言葉を話す瞬間、先ほどまでの飄々とした女神は
声色を変えユーリに忠告する
マヤ「逃げるなら今だよって事。後数日もすれば
君達が置いてったゴブリンが暴徒と化し町を襲う。
かつてグラルト国がそうなったように、今度は君達の撒いた種により一国が滅ぶ。」
ユーリ「……」
マヤ「もちろん君はルナちゃんの件でマークされてるから討伐対象。
でも私的に殺されてほしくはない。だから今こうやって最後のチャンスを教えてる。」
ユーリ「……ゴブリン達を止めれば…全て丸く」
マヤ「ならないよ。なるはずがない。だって君はそうする意味がない。君は町が滅ぶのを横目に2人だけの楽園を築けば良い。私もそれにもちろん協力する」
月の女神が、ゴブリンの王に悪魔のような甘言を囁く。
ユーリ「……なんだと?」
マヤ「最後にもう一つ。襲われる町の名前はね」
マヤ「ミューズ国だよ」
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2人だけで逃げる事も出来た。
ミューズ国。もし全ての元凶がこの国だったら?
ユーリはずっと考えてた。
私達をこんな目に合わせた全ての元凶が、もし
本当にミューズ国だったなら、
私達が逃げれば…復讐は叶う
でもユーリはやっぱり。何処までも人間だった。
だから愚かな行いもしてしまう。
彼は再び私を洞穴の洞窟に匿い、
ユーリ「皆を止めてくる。そして和平の道を探す」
そう言い残して、一国の王として出ていった。
そして数日が経ったけど
未だにユーリは帰ってこない
[夢双病まで…残り10日]
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洞窟の入り口の方から足音がする
誰か来る……?
???「ここか。」
外の光の逆光ではっきりとした姿は見えない。
シルエットと声から察するに女性である事だけがわかる。
その人は、自力で立ち上がることさえままならない、
地に伏せたルナの前に立ち、ゆっくりとしゃがみ込む。
ルナ「……ゆーり…?」
意識が朦朧としている。
???「君が…ルナかい?月の女神の血を引くと言う」
ルナ「!!」
誰??…グラルト語?……翻訳魔法?
???「驚いた?ごめんね。自力で習得したから、正直まだ自信無いんだけど」
???「君を助けに来たよ。ルナ・ウルト」
ルナ「!!」
自力で習得したと言う拙いグラルト語で、ゆっくりとルナに語りかける。
???「こんな所に居る人に、こんな話するのもおかしな話だけど、
この300年は幸せだったろ?…でも、残念だけど」
???「もう今日でおしまいだ。」
間を置いてはっきりとした言葉で、目を見て伝える。
???「ユーリは死んだよ」
ルナ「…………嘘だ」
???「その足、もう歩けないだろ?血もゴブリンの物が混ざって、女神の力はかなり落ちている」
ルナ「ユーリは死んでない!!!必ず帰ってくる!!絶対!!絶対に!!!」
力の入らないはずの体でその人に必死にしがみつこうと体を動かし、必死に叫ぶ。
???「すまないがこれが現実だ。」
???「…………君は………彼が居ない世界で生きたいと思うかい?」
ルナ「!!……そんなの……そんなの……………辛いよ」
???「あぁそうだ辛い事だ。」
???「でも君は……責務があるはずだ」
???「ユーリウルトを未来へ連れていく。
君だけには忘れないでほしい。彼との過去や、思い出を」
ルナ「………」
優しく、囁く
???「私と取引をしないか?……君のその足を治す変わりに…ほんの少しの間だけ……私に協力してくれないか?」
ルナ「……何をしたら良いの?」
???「……夢双病を流行らせてほしい」
???「君は吸血鬼になる。そして人に噛みつく。
それだけで良い。」
???「正直狂欲病で苦しんだ君にとっては最悪の提案だが」
ルナ「?」
???「詳細は知らないのか?じゃあ好都合だ。」
吸血鬼?…夢双病?私にはわからない……
もう何も……ねぇユーリ……お願い…帰ってきてよ
ユーリを奪った奴が憎い…
何でこんなことになったの…どうして……
???「君は今から私の能力の応用で吸血鬼になる。
君の中の狂欲病を刺激して、吸血鬼に変える。」
???「ただ知っての通り、この病は欲を肥大化させ、
理性や記憶さえ書き換えてしまう。
このままじゃ君の幸せな思い出まで吸血鬼化の副作用で
狂わされてしまうだろう」
???「だから君の記憶の…一番大切な記憶に鍵をかける。
誰にもこの思い出は傷付けさせないよ」
ルナの頭にそっと手を乗せ、じっと目をみる。
ようやくルナはこの人の姿を、はっきりと見つめる
女は優しそうに微笑み、自らの力を行使した
???「この記憶を見ている君へ。
これが私の。魔王の力だ」
魔王「『メモルヴァメモリー』今この子の記憶に鍵を締めた。」
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これが…夢双病?…一瞬だったような、数百年も経ったような…不思議な感覚…
これは夢?夢だ。夢なんだ。
知らない誰かの…悲しくて…それでいて幸せな…
「ゆ………め?」
朦朧としているようで、ハッキリとした意識の中に、光が差し込む。
目を開くとそこには血を吹き出し倒れ混む…ルナと
ギルドに駆けつけたヴァルキリーの姿
ヴァルキリーはルナに斬りかかり、ルナは首元から血を流している。
自分の血を必死に飲み込んで、首を無理やり繋ぎ止めている。
だが、息も絶え絶えで、血を流し、吐き出しながら、必死に生にしがみついている。
ルナ「ガァァァッッッッッ」
トドメを指す直前のヴァルキリーが、こちらの目覚めに気がつき
攻撃の手を一瞬止める
ヴァルキリー「良かった間に合ったようだね」
すぐに武器を構え直し、トドメを刺そうとする。
涙目で、必死に抵抗を試みる暁のヴァンパイアと
全滅の危機に駆けつけた最高戦力の背中
本来歓喜すべきこの光景を眼前に、
俺は訳もわからぬ涙を流していた。
[現在公開可能な情報No14]
『女神の血』
ルナとマヤが引いているとされる特殊な血統因子。
長命かつ、魔術に長けている事が特徴で、個人差はあれど
特異な魔力探知を有している。
女神の血と呼ばれるこの血を求めて、370年前
ミューズ国はルナを欲したとされる




