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1-1-6 王宮の仕事

『次は、王国の魔法産業の最新動向についてお伝えします。


王国経済を力強く支える中核産業──魔力コア技術。

魔力コアは魔法を発動するためのエネルギー源であり、各種魔法デバイスに搭載され、私たちの生活を支えています。


近年は多コア化による小型化と省エネルギー化が進み、王国の主要テック企業はより高性能でコンパクトな魔力コアの開発競争を繰り広げています。

最新世代のコアは従来より大きく性能が向上し、ピアスや指輪、さらには付け爪といったアクセサリー型の魔法デバイスも一般に普及し始めました。


こうした技術革新により、魔法デバイスは日常生活に欠かせない存在となりつつあります。


一方で、高出力を必要とする用途では大型コアの研究も続いており、王国の魔法技術は幅広い分野で進化を続けています。


さらに王国はこれら魔力コアデバイスを国外へ輸出しており、その高い性能は近隣諸国でも高く評価されています。

魔法デバイスは今や王国を代表する輸出産業の一つとなり、国際市場でも確かな存在感を示しています。


王国の魔法技術は、世界の未来を支える力として期待されています。


──なお、来る選定祭に向けた特別番組も順次配信予定です。新たな時代の幕開けに、どうぞご期待ください』


明るく整えられた声が、少しの揺らぎもなく語り終える。

最後の一文だけが、必要以上に軽やかだった。


アリアは深いため息をつき、再生を終えた魔法の鏡を見つめた。


王宮が国民に向けて配信している映像は、表向きは最新ニュースや娯楽番組として、国民の生活を豊かにするためのものとされている。

だが、王宮の魔法エンジニアであるアリアは、その背後にある意図を知っていた。


鏡の表面には、まだ微かに光が残っている。

その向こうで、同じ調子の声が、別の番組を語り始めていた。


どの内容も整っている。

整いすぎている、と言っていい。


ニュース内容を監視する仕事も、女王急逝後の混乱の中で彼女に与えられた任務の一つにすぎない。


「これじゃプロパガンダ、よね……」


アリアは独り言のように呟いた。


王国の秩序を守るためとはいえ、その方法には疑問を感じずにはいられない。

だが今は、それを口にする余裕もなかった。


ふと、窓の外に視線を向ける。


王宮の外壁の向こう、遠くの街並みに、色の動きが見えた。

旗のようなものが掲げられている。人の流れも、いつもより多い。


ここからでは音は届かない。

だが、あの動きが静かなものではないことだけは分かる。


「……もう、始まっているの」


誰にともなく、呟く。


喪に服す時間は、どこにも用意されていなかった。


彼女は振り返り、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。

思考は、女王が亡くなった直後の混乱の日々へと戻っていった。


—-


女王が急逝したとき、王宮は完全な混乱状態に陥った。


すべてのプロジェクトは中断され、王国全体が一瞬停止したかのようだった。

女王はこの国の象徴であり、その不在が何を意味するかは誰もが理解していた。


現場から戻ったアリアを迎えたのは、張り詰めた空気だった。

廊下では重臣や警護の兵士たちが慌ただしく行き交い、顔には隠しきれない焦りが浮かんでいる。


その中にあって、誰一人として「死」という言葉を口にしなかった。


彼女は次々と上司に呼び出され、女王の死に関する公式発表についての協議に立ち会うことになった。


何が真実で、何が偽りなのか──誰も明言しなかった。

ただ一つ、はっきりしていたことがある。


女王の死因を隠す、という方針だった。


「女王は儀式中の事故で亡くなったと発表する」


それが上層部の決定だった。

王国を守るための霊的浄化の儀式、その最中の事故死という公式見解。


そしてその決定と同時に、次期女王選定の準備が急ピッチで進められることになる。


混乱を鎮めるためには、新しい象徴が必要だった。


その説明は理解できた。

理解できたが──納得は、できなかった。


「……こんなに早く」


言葉は、最後まで形にならなかった。


翌日、彼女は再び王宮へ呼び戻された。

次期女王選定に関わるプロジェクトチームへの参加命令だった。


選ばれた理由は単純だ。

魔法エンジニアとしての実力、そして女王の死に直面しても冷静さを保っていたこと。


アリアは王宮でも有能な技術者として知られていたが、この任務が王国の未来に関わるものになるとは、その時は十分に理解していなかった。


プロジェクトの内容は、次期女王候補者の選定とそれに伴う準備。

その中でアリアが担当することになったのは、女王を決める魔法決闘の技術支援だった。


決闘用の魔法装置の整備。

試合を管理するシステムの構築。

そしてトラブルを防ぐための監督。


仕事自体は彼女にとって珍しいものではなかった。

だが、今回は規模が違っていた。


それから数日間、アリアは王宮と自宅を行き来しながら、ほとんど休みなく働いた。

すべてが急ピッチで進められていたのだ。


王宮の会議室では、重臣、企業代表、教団の高官たちが集まり、候補者の名前が次々と飛び交っていた。


その声は活気を帯びていた。

だがその活気は、どこか場違いなものに感じられた。


誰もが次を見ている。

誰も、直前に失われたものには触れない。


その様子を見て、アリアは次第に理解していく。


この選定は、単なるお祭りではない。


表向きは国民に希望を与える祭典。

しかし実際には、王国の各勢力がそれぞれの利益を巡って暗躍していた。


企業は自分たちの候補を王座に就けるためロビー活動を行い、教団もまた独自の影響力を行使しようとしている。


そしてアリア自身も、その仕組みの一部になっていた。


その事実に、彼女はわずかな無力感を覚えずにはいられなかった。


—-


「何も、終わってないっていうのに……」


アリアは再び魔法の鏡に映りこむ自分の顔を見つめ、静かに呟いた。


鏡の中では、再び明るい声が流れ始めている。


『王国は今、新たな時代へと歩み始めています』


その言葉が、違和感もなく繰り返される。


外では、人の流れが増え続けていた。

誰もが何かを待っているように、あるいは何かに押し出されるように。


今の自分にできるのは、技術者として仕事を全うすることだけ。

だが、女王の死に関する疑念は消えない。


あの日。

目の前で女王が引きずり込まれた、あの魔法陣。


何かが隠されていることは、明らかだった。


「でも、今は……」


アリアは深く息を吸い、静かに椅子から立ち上がる。


今はまだ、真実を追う時ではない。


だが、いずれその歪みは、表に現れるだろう。


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