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1-3-6 第六戦決着

サーラたちが神殿の奥へと歩を進める中、不意にその視線がルナの左腕へと引き寄せられた。そこにある巨蟹の腕輪は、淡い銀光を帯び、精緻な造形を保ちながらも、どこか沈黙した気配を宿している。本来であれば圧倒的な力の気配を放って然るべきそれが、妙に静かで、応答を拒むかのように感じられた。


「この腕輪……何か変だね」


サーラは足を止め、わずかに思案するような間を置いてから、ルナの腕へと視線を据えた。


「変?どういうことだ」


ルナが怪訝そうに問い返す。サーラは腕輪の前に手をかざし、呼吸を整えながら解析の術式を静かに紡いだ。微細な魔力の波が腕輪を覆い、その内部構造と流れをなぞるように広がっていく。


やがて、サーラの表情に確かな変化が浮かんだ。


「やっぱり……この腕輪、魔力が明らかに少ない。普通のデバイスなら、もっとはっきりとした反応があるはずなのに……これじゃ、まるで殻だけが残ってるみたい」


「殻だけ……?」

シェリーが小さく首を傾げる。


「うん。たぶん、本体は別にある。この状態じゃ、本来の力は出せないと思う」


ルナはその言葉を受け、改めて腕輪へと視線を落とした。わずかな沈黙ののち、静かに口を開く。


「なるほど……つまり、この腕輪に力を戻すには、その本体を見つける必要がある、ということか」


「うん、そう思う」


サーラが頷いた、その直後だった。


「……静かに」


ルナの声が低く落ちる。視線が鋭く周囲を走り、空間のわずかな歪みを捉える。

床の上を、何かが滑るように動いていた。風にも似た微かな気配が、足元を掠める。


「何かいる……!」


サーラが反射的に身を引き、シェリーも慌てて周囲へ視線を走らせた。床を滑る気配を追おうとするが、捉えたと思った瞬間にはすでに位置を変えている。


「速い……どこ!?」

「見えない、全然追えない……!」


二人が動きに振り回される中、ルナだけは足を動かさなかった。視線を低く据え、呼吸を整え、影そのものではなく、その揺らぎの中心を見極めようとしている。


そのとき、サーラがはっと息を呑んだ。


「……違う。影じゃない」


一瞬の静寂ののち、言葉が落ちる。


「影が近づくたび、腕輪の空気だけが歪んでる。

そこに魔力が通ってるんだ……繋がってるよ、それ!」


ルナの視線がわずかに鋭さを増した。

足を止めたまま、腕輪と空間の歪み、その重なりを一つに結び直す。


「……なるほど」


短く吐き捨てるように呟き、次の瞬間、空気の一点がわずかに揺らいだ。


「そこだ!」


一瞬の歪みを捉え、ルナはナイフを放つ。刃は空気を裂き、迷いなく影の中心へと突き立てられた。乾いた音が神殿に響き、確かな手応えが返る。


『くっ……』


かすかな声が、闇の奥から漏れた。


それまで散っていた影が、その場で収束を始める。床に広がっていた闇は次第に一点へと集まり、やがて吸い寄せられるように腕輪へと流れ込んでいった。銀の表面に微かな揺らぎが生まれ、空気が変わる。


次の瞬間、低く響く声が、神殿の奥からではなく、腕輪そのものから発せられた。


『見事なり。貴様、戦士としての資質を持つに足る』


ルナは息を呑み、腕輪を見つめる。銀の表面に、刻まれるようにして文字が浮かび上がっていく。その変化は、まるで意志を持つ存在が応答しているかのようだった。


『私は巨蟹の守護者。名はカールスティール。貴様を我が主として認め、共に力を振るうことを誓おう』


静かな宣言が、空間に定着する。


ルナはしばし動かず、その言葉を受け止めていた。これまで積み重ねてきたものが、ようやくひとつの形として結実した瞬間だった。彼女はゆっくりと左腕を握り、その重みを確かめる。


腕輪はもはや沈黙していない。確かな応答を伴い、主を認めた存在としてそこにあった。


「……これが、本来の力か」


短く吐かれた言葉に、迷いはなかった。


サーラとシェリーも、ようやく息を緩める。

「良かったね、ルナ。これで、巨蟹の腕輪はあなたのものだよ」


「ありがとう。お前たちのおかげだ。本当の力に辿り着くことができた」


ルナは簡潔に礼を述べ、すぐに視線を前へと戻す。


「だが……ここで終わりじゃない。むしろ、ここからが本番だ。お前たちがこの先も進むなら、その覚悟は持っておけ」


サーラは静かに頷き、わずかに口元を引き締める。


「うん。私たちは辿り着くよ。どんな試練でも、仲間と一緒に越えていく」


その瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。


神殿の奥から、かすかな風が流れ込む。

張りつめていた空気がわずかに緩み、その中に新たな均衡が生まれていた。


異なる道を歩んできた三人は、いま同じ方向へと歩み出す。

まだ確かな形を持たぬまま、それでも確かに結ばれたものを胸に抱きながら。


ルナの腕に宿る光は、静かに、しかし確かな強さで、その先の道を照らしていた。


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