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1-3-4 骸の門番

サーラとシェリーは「鋏神の神殿」の前に到着した。神殿はどこか異様な雰囲気を漂わせており、石造りの門は年経た荘厳さを保ちながらも、まるで人を拒むかのように静かにそびえ立つ。空気が張り詰め、風さえも足を止めるかのように感じられた。


「門番がいると思ってたけど……」シェリーが周囲を見渡しながらつぶやく。


「静かすぎる。何か変ね……」とサーラも警戒を強める。


周囲を見渡しても、予想していた門番の姿は見当たらない。だが、彼女たちは油断していなかった。サーラは少し緊張しつつも、冷静に周囲を観察し、気になるものを見つけた。


「ねえ、見て。あの巨大な抜け殻……ただの死骸じゃないわ、何かがおかしい」


神殿の前、地面に転がる甲殻類らしき残骸。それは明らかに自然に風化したものではなかった。裂け目の形、破損した痕跡、そこに残る微かな魔力の残滓が、戦闘の痕を物語っていた。


「本当ね。誰かが戦って壊したって感じがする……」シェリーは不安げに言いながらも、いつでも魔法を使えるように準備を整えていた。


「門番を倒して先に進んだ人がいるのか、それとも……」とサーラは考え込んでいた。


その瞬間だった。乾いた音が一つ、地面を走る。サーラが視界の片隅に動きを捉えた。


「シェリー、今何か動いた!」


サーラたちが身構えたのと同時に、巨大な抜け殻がカシャリと音を立てて動き出し、重力を無視して宙に浮かび上がった。二人はその姿に驚愕する。かつてはただの残骸に見えたものが、まるで巨大な蟹のように形を成し、動き出した。二つの巨大な鋏が二人に向かって襲いかかってくる。


「何これ!」シェリーがとっさに魔法陣を展開し、防御結界を張る。


瞬間、鋏が唸りを上げて振り下ろされた。結界がひび割れ、地面が砕け散る。二人は飛び退いて間一髪で回避した。


「これは、ただの抜け殻じゃない……自律機構だ。内部に魔力伝達装置が残ってて、それがまだ動いてるのよ」サーラは鋏の動きを観察しながら言った。「多分、どこかに動力の発生源がある。それを狙えば止められるかもしれない!」


「わかった!でも、どこを狙えばいい?」シェリーは防御を維持しながら、サーラの指示を待っていた。


サーラは目を細め、鋏の動きを読み取ろうと集中する。その視線は鋏の根本──接合部から伸びる魔力の流れを追っていた。


「見て……あの動き。あの球状の反応体から、魔力が転送されて……小型の増幅装置を経由して、そこから接合部へ……!」


シェリーは一度深呼吸をして、風の矢を圧縮・収束させる。「つまり……そこを断てば止まるってわけね?」


鋏が再び襲い掛かってくる。シェリーが横へ跳び、空中で魔法を解放する。放たれた圧縮風の刃が一直線に鋏の根本を撃ち抜き、内部の導管を切断する。しかし、鋏はその場でさらに別の回路を切り替え、動きを維持する。


「ダメ、まだ動いてる!」


「バックアップ回路だ!他のルートに切り替わって継続する仕組みになってる……でも待って、次に魔力が向かうのは──」


サーラの脳内で、魔力の流れがシミュレーションされる。球体から発した魔力は、いくつかの分岐点を経て、再び中央の接合部へと流れ込もうとしていた。


「いま!次の分岐は右側の中継部!そこが開く!」


「任せて!」


シェリーは即座にその位置に向けて風弾を発射する。弾は空中で螺旋を描きながら収束し、中継点に直撃。閃光とともに伝達ルートが焼き切れ、鋏の動きが一瞬、止まる。


「止まった……?いや、まだよ!」


鋏が残されたエネルギーで最後の攻撃を仕掛ける。片刃を振りかざし、二人に向かって突進する。


「決めるわよ!」サーラが叫び、残る一つの魔力流入口に向かって火の槍を構築。制御を絞って内部に浸透させ、点火の瞬間を見計らう。


「いまだっ!」


槍が内部に命中し、遅れて爆発的な炎が中枢を焼いた。その瞬間、魔力の流れが一斉に止まり、鋏は金属音を残して地に崩れ落ちた。静寂。あれほどの激しい機動を見せていた鋏は、まるで魂を抜かれたかのように動かない。


「……これで、もう動かないよね?」シェリーが息を切らしながら訊いた。


「ええ、内部の三系統すべての流れを断ったわ。再起動の余地はない」


サーラは慎重に残骸に近づき、魔力の痕跡が完全に消失していることを確認する。その目には、警戒と同時に確かな達成感があった。


しばらく観察した後、ふと何かに気づいたように目を細める。


「……これ、最初に仕留めた誰かがいたのよね。でも、この魔力伝達装置は生きていた。つまり、その人は正面から撃破したってこと!?」


その言葉に、シェリーも表情を引き締めた。「そんな人がいるなんて信じられないけど……。その挑戦者、まだ神殿の中にいるかもしれない。油断はできないね」


サーラは神殿へと続く階段を見つめる。まるでその奥に潜む者たちの気配を肌で感じるように。けれど恐れよりも、胸に灯るものがあった。


「どんな相手でも、私たちならきっと越えられる。行こう、シェリー。ここからが本当の勝負だよ!」


その言葉に、シェリーはしっかりと頷いた。二人は互いの気配を確かめ合い、静かに、しかし迷いのない足取りで神殿の中へと進んでいく。


鋏の抜け殻は静かに横たわっていた。まるで嵐の前の静けさのように。

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