表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/68

1-2-19 完璧な少女

エレオノーラ・フォンターナ──人呼んでエレインは、名門貴族にして企業連合の支援を受ける名家の令嬢として、この世界に生を受けた。


華やかな社交界と経済界をつなぐ家柄に生まれた彼女の周囲には、常に富と格式があった。きらびやかな衣装、冷たく磨かれた大理石の廊下、絵画のように整えられた庭園。何一つ不自由はなかったが、エレインはその優雅な檻の中で、自らの意思という翼を閉ざされた鳥のように、ただ静かに息をしていた。


父は完璧を求める男だった。社会的影響力を重視し、娘の存在もまた家の「資産」として扱った。エレインに求められたのは、常に「最高」であること。学問においては誰よりも成績を上げ、礼儀作法においては一分の隙もない所作を身につけ、魔法の分野では圧倒的な才覚を示すこと。彼女が幼いころ、魔力の波長を自在に操り防御魔法を組み立てたとき、父は初めて彼女に笑顔を見せた。それは祝福ではなく、将来への投資が実ったという満足の微笑だった。


エレイン自身、防御魔法においては他に並ぶ者がいないと自負している。魔力の展開速度、構築精度、術式の持続性、そのすべてが研ぎ澄まされていた。だが、彼女が手に入れた技術は、自ら望んだものではなかった。日々の訓練と試験は、いつしか彼女にとって日常というより義務の連続となり、「なぜこれをしているのか」という問いを持つ余裕すら奪っていた。


「私はもっと強くならなければならない。それが私の役割だから」この言葉は、彼女が幼少期から幾度となく心の中で繰り返してきた呪文のようなものだった。自分の意志よりも、家の期待、父の言葉、周囲の視線。それらが彼女を動かしていた。


そんなエレインが目指すのは、伝説の魔法具のひとつ──「白羊の盾」。それは、絶対的な守護の象徴であり、どんな攻撃も跳ね返す力を持つとされる神秘の盾だ。彼女にとってその盾は、家の威信を守るための道具というだけではない。抑圧された日々の中で、唯一「自分が自分として立つための拠り所」でもあった。この盾さえあれば、私はもう誰かのためだけに生きなくていい。そんな思いを、彼女は深く胸に秘めていた。


選定戦への出場は、表向きには父の推薦と企業連合の後押しによるものだったが、エレインの中にはわずかながら、自分でこの道を選びたいという意志も芽生えていた。それは、静かで小さな炎のような決意だった。彼女は戦いを好まない。争いを望まない。けれど、だからこそ、守ることに意味を見出した。戦う者たちの背後で、ただ静かに、しかし確実に守り続ける──それが彼女にとっての「強さ」の定義だった。


しかし、女王選定戦は理想だけでは乗り越えられない。容赦ない攻撃、時には命を奪い合う場面さえある実戦の舞台。エレインは自分の信念と、目の前に立ちはだかる現実の狭間で、幾度も揺れ動いた。「私は本当にここで戦えるのだろうか」「この戦いは、私の意志なのか、それとも誰かの期待に応えるだけなのか」そうした問いは、彼女の心を何度も揺さぶった。


けれど、最後に彼女を奮い立たせたのは、他ならぬ「白羊の盾」だった。


「私には、この盾が必要なのよ。これを手にすることで、私は私自身を守れるのだから」


その言葉には、初めて彼女自身の願いが込められていた。家の名誉のためでもなく、父の期待に応えるためでもない。自分のために、自分の未来のために戦う。そう決意した瞬間、エレインの魔力は一段と澄んだ輝きを放ち始めた。


いざ戦場に立てば、彼女の防御魔法はまさに鉄壁。流れるような展開式と幾重にも折り重なる障壁は、攻撃の波を受けても微動だにしない。誰もが「絶対に破れぬ壁」として畏れるその魔法は、エレインにとって唯一、自分の存在を肯定できる「証」でもあった。


まだ彼女は、自分が本当は何を望んでいるのかすべてを理解しているわけではない。だが、確かなのは、あの白羊の盾を手にしたとき、エレインは初めて「自分自身」を守れる気がしているということだった。


そして今、エレインは静かに戦場を見つめている。その目に宿るのは恐れではなく、揺るがぬ意志。かつて誰かに与えられた役割ではなく、彼女自身が選んだ道の上で、エレインは初めて自由を感じようとしていた。

ブクマでサーラたちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ