1-2-20 王たる少女
ミラベラ・スカーレット──人呼んでミーナは、王宮に仕える誇り高き貴族の家系に生まれた。
彼女の一族、スカーレット家は代々、歴代の王家に仕え、剣をもって忠誠を示してきた名門中の名門。その血には、幾多の戦乱をくぐり抜けた戦士たちの記憶が流れており、幼きミーナにとって剣は単なる武器ではなく、己の魂そのものであった。
幼少の頃から彼女に与えられた教育は、王宮の子女らしい優雅な礼儀作法や舞踏だけではなく、厳格な武術訓練と軍学であった。薄明かりの中で父から教わった初めての一太刀、母に叱咤されながら繰り返した型稽古、そして兄との打ち合いで流した涙と血。すべてが、今のミーナを形作る礎となっている。
「戦いこそが人を強くする。それを忘れるな」
それが、ミーナが幾度となく耳にした家訓であり、スカーレット家の信条だった。王宮の廊下を彩る緋色のタペストリー、武具の納められた石造りの訓練場、無言で彼女の成長を見守る衛士たちの眼差し……それらすべてが、幼い心に「強さ」の価値を刻み込んでいった。
そんな環境にあって、ミーナはただの名家の令嬢では終わらなかった。剣を握った瞬間から、彼女の才能は周囲を驚かせた。俊敏な動きに加え、冷静に相手の間合いや癖を見抜く観察眼。そして、感情に流されず、勝機を確実に掴みにいく胆力。彼女の剣術は、まるで舞のように優美でありながら、赤く燃える意志を宿していた。その剣技は、やがて「スカーレット・ストライク」と呼ばれ、剣士たちの間で恐れと称賛をもって語られるようになった。
「私にとって、女王になるのは当然のことよ」
そう言い放ったミーナの声には、迷いは一片もなかった。女王選定戦への参加──それは、スカーレット家の威光を世に知らしめる機会であると同時に、自らの「力」をこの世界に証明するための絶好の舞台だった。
彼女が狙うのは、選定戦における最強の象徴「獅子の剣」。かつて王の剣として数々の戦場を制したという伝説を持つその武器は、力と威厳の象徴であり、誰が女王にふさわしいかを語る上で最も重みを持つ存在だった。ミーナは確信していた。「あの剣は、私の手で振るわれるべきだ」と。
日々の訓練は、彼女にとって息をするのと同じほど自然なものであった。他の子供たちが遊びや社交に時間を費やすなか、ミーナは誰よりも早く起き、誰よりも遅くまで剣を振っていた。疲れたなどとは決して口にしない。傷を負っても、倒れても、彼女は立ち上がる。それが、戦士の誇りであり、王に仕える者の覚悟だからだ。
時折、窓から外を眺めると、青空の下で笑い合う平民の子供たちの姿が見えた。だが、ミーナはその光景に羨望を抱くことはなかった。「あの子たちは守られる者。私は守る者」――その境界線は、彼女にとって越えてはならない一線であり、責任だった。
「この戦いで私が女王にならない理由なんてない。私が最も強いのだから」
その言葉にこそ、ミーナのすべてが集約されていた。彼女にとって選定戦とは、他者を打ち負かすための舞台ではない。それは、自分自身と、スカーレット家の誇り、そして「力とは何か」という問いに対する答えを刻む場なのだ。
鋭く研ぎ澄まされた眼差しで前方を見据えながら、ミーナは今日も剣を手に取る。女王という座は、名声のためでも、栄誉のためでもない。真の力を持つ者が立つべき場所──それを証明するため、ミーナは闘いの道を歩み続けるのだった。
ミーナとエレイン。
二人の少女は、生き方も信じるものも異なりながら、女王選定戦という舞台でそれぞれの信念を胸に進んでいく。
目指す魔法デバイスは違い、戦う理由も交わらない。だが共通しているのは、その戦いが彼女たちにとって、ただの試練ではなく、自らの未来を懸けた覚悟の証であるということ。誇りと宿命を背負い、彼女たちは迷いなく戦場へと足を踏み出す。
勝利の先にあるものを信じて。
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