1-1-12 サーラとカスパー
サーラは冷静を装いながらも、どうにかしてカスパーの注意を引き続ける方法を必死に模索していた。
シェリーは彼の標的であり、カスパーの目的は彼女から情報を引き出すことだと、サーラはすでに悟っていた。
だが、友人の無実を証明するだけでは解決にはならない。
カスパーに思考の余裕を与えないためには、別の方向から揺さぶりをかける必要があった。
「考えてみて、カスパー。もしシェリーが何も知らないとしたら……彼女から手に入れられるはずの情報が、どれほど重要なのか。あなたは本当に確信しているの?」
サーラは落ち着いた声で語りかけた。
カスパーは一瞬、彼女の言葉に戸惑ったように眉をひそめた。
「何が言いたい?」
「あなたは大きなリスクを犯しているわ。シェリーが何も知らなければ、すべては無駄になる。
だけど、もし彼女が何かを知っているとしたら……その情報を引き出すために、私が協力できるかもしれない」
サーラはわずかに視線を上げ、カスパーを真っ直ぐ見据えた。
「だって、私たちは親友よ。
シェリーが気づかないうちに、何か話してしまっているかもね」
カスパーは一瞬考え込むように黙り込み、眉間に皺を寄せた。
その目には疑念と、わずかな焦りが入り混じっている。
サーラは意図的に言葉を曖昧にしていた。確信を与えず、しかし無視もできない程度の可能性を残す。
同時に、彼女は自分の発言が相手に与える影響を、冷静に計算していた。
「つまり……お前も何かを知っている可能性がある、というわけか?」
カスパーは冷たい笑みを浮かべた。
サーラは胸の奥で心臓が大きく跳ねるのを感じながらも、平然と頷いた。
「そうね。だけど、もし私が協力しなければ、あなたは両方とも失うことになる。
何も得られないまま、ただ時間を浪費するだけよ」
「ふん……」
カスパーの視線が、初めて迷いを帯びた。
サーラは、その一瞬の沈黙を逃さなかった。
自分の仕掛けた論理が、確かに相手の思考を絡め取っているのを感じ取っていた。
カスパーは苛立ったように舌打ちし、再び口を開いた。
「お前の言っていることは信用できない。だが、もし何かを知っているなら……」
その言葉を遮るように、サーラは小さく笑った。
「何も知らないと言った覚えはないわ。ただ——あなたが本当にその情報を引き出せるかは、また別の話よ」
その瞬間、カスパーの表情が変わった。
焦りと不安が混じり合い、やがてそれが怒りへと変わっていく。
「貴様……私をからかっているのか!」
怒声が倉庫の中に響いた。
「そんな小娘が、この私を操ろうとするとはな!」
カスパーはサーラに向かって一歩踏み出し、怒りに震える手を彼女へ伸ばした。
その瞬間——
「そこまでよ!」
鋭い声が倉庫内に響き渡る。
サーラもカスパーも反射的に振り向いた。
いつのまにか扉が開かれていて、その影に一人の女性が立っていた。
サーラの姉、アリアだった。
彼女は冷静な表情のまま、確固たる意志を宿した眼差しでカスパーを見据えている。
「何だ……貴様は誰だ?」
カスパーは驚きを隠しきれないまま、警戒の視線を向けた。
アリアは一歩も引かず、静かに歩み寄った。
「私の名前を知る必要はないわ。
あなたが何をしているのかは、もう分かっている。今すぐその子たちを解放しなさい」
「ふん……お前も、この娘たちと同じく無駄口を叩くつもりか」
カスパーは嘲笑を浮かべ、再び腕を振り上げようとした──その瞬間。
カスパーの体がぴたりと止まった。
まるで見えない鎖に絡め取られたかのように、彼の体がきつく締め上げられる。
「私も手伝おうか、サーラ」
静かな声が、倉庫の奥から響いた。
倉庫の奥の影から、リアナが姿を現した。
彼女が手にした魔法の杖を軽く振ると、サーラの拘束は一瞬で解除された。
「お前ら……!何者だ!」
カスパーは咄嗟に呪文を唱えようとした。
だが、その言葉が完成する前に、さらに強い拘束が体を縛り上げた。
リアナの制御魔法は、サーラを拘束していたものとは比べものにならないほど精密で、強力だった。
「大人しくしてもらうわ。これ以上の抵抗は無意味よ」
リアナは静かな声で告げた。
カスパーは悔しそうに唇を噛んだが、抵抗することはできなかった。
サーラは大きく息をつき、リアナへ感謝の視線を向けた。
「ありがとう、リアナ」
リアナは微笑みながら、軽く頷く。
「問題ないわ、サーラ。でも、次からはもっと気をつけて。こういう状況に陥らないようにね」
「うん……わかってる」
サーラは少し苦笑した。
一方、アリアは拘束されたカスパーを冷たい目で見下ろしていた。
「この男は教団に引き渡すことになるわ。彼の行為は重大な犯罪よ。異端審問で厳しく裁かれるべきだわ」
リアナも静かに頷く。
「これがあなたの運命よ。もう逃げ場はないわ」
カスパーは歯を食いしばり、無言で悔しさを噛みしめていた。
サーラは急いでシェリーのもとへ駆け寄り、縄を解きながら彼女の様子を確かめた。
「大丈夫?シェリー」
シェリーは涙を浮かべながら、かすかに頷いた。
「ありがとう、サーラ……あなたが来てくれなかったら……」
「もう大丈夫。終わったから」
倉庫の中には、ようやく静けさが戻りつつあった。
アリアとリアナによってカスパーは捕らえられ、サーラたちは救い出された。
だが、この事件がどこへ繋がっていくのか——その全貌は、まだ明らかではなかった。
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