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1-1-11 傀儡魔法

サーラは街中を駆け抜けながら、頭の中で先ほど導き出したルートを反芻していた。

彼女の計算では、シェリーは学校から家に帰る途中、比較的寂れた通りで何者かに攫われた可能性が高い。


やがてその通りへ辿り着くと、サーラは歩調を緩め、周囲を注意深く観察しながら足を進めた。


やがて路地裏に足を踏み入れたとき、不意に人の気配が肌をかすめた。

サーラは息を潜め、慎重に身を低くしながら奥へと進んでいく。


「これは……間違いない」


薄暗い路地の奥、倉庫のような建物の中から、微かに聞こえる声。

それは紛れもなく、シェリーのものだった。


サーラは一瞬、胸の奥で張り詰めていたものがほどけるのを感じた。

しかし同時に、彼女が危険な状況に置かれていることもまた明らかだった。


「ここからは一歩間違えれば命取りだ……気をつけて」


ネフィリスが耳元で低く囁く。


サーラは小さく頷き、意を決して倉庫へと近づいた。


扉に手をかけ、音を立てないよう慎重に押し開ける。

薄暗い光が外へ漏れ出す中、彼女は息を潜めて中の様子を窺った。


そこに見えたのは、椅子に縛り付けられたシェリーの姿だった。


友人の無事を確認して一瞬安堵したが、すぐに違和感が胸をよぎる。

シェリーは必死に身をよじらせ、こちらへ向けて何かを訴えようとしていた。


「シェリー……?」


サーラはそっと囁いた。


しかしシェリーは苦しそうにもがきながら、必死に何かを伝えようとしている。

口が塞がれているせいか声はほとんど出ない。それでも、その目は明らかにサーラへ警告を送っていた。


サーラが一歩踏み出した瞬間──


床のどこかで、かすかな魔力の軋みが走った。


次の瞬間、全身が重い力に拘束されたような感覚に襲われた。

まるで見えない糸に絡め取られたかのように、手足がぴたりと動かなくなる。


「何……これ?」


「見たな、小娘」


冷たい声が、サーラの背後から響いた。


振り向こうとしても、体がまったく言うことを聞かない。

かろうじて首だけを動かすと、黒いコートを羽織った男がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。


鋭い目つきと冷たい笑み。

その表情だけで、彼が敵であることは明白だった。


「誰……あなたは?」


サーラの問いに、男は薄く笑った。


「私はカスパー。お前が知る必要のない名前だが、特別に教えてやろう」


カスパーは無関心そうに肩をすくめながら、サーラを見下ろした。

その目は、まるで彼女の存在など取るに足らないものだと言わんばかりだった。


「シェリーをどうするつもり?」


サーラは叫びたい衝動を押さえ込み、必死に冷静さを保とうとする。

直感が警鐘を鳴らしていた——この男は危険だ。


「その質問に答える理由はないな。だが、どうせお前には何もできない。教えてやるか」


カスパーは冷ややかに笑った。


「お前の友人、シェリーは私にとって大事な“道具”だ。企業連合の重役の娘という肩書きは、それだけで十分価値がある」


「シェリーはただの学生よ。重要なものを持っているはずがないわ!」


サーラは必死に反論した。


「はずがない、か。お前は友人のことを何も知らないんだな」


カスパーは肩をすくめる。


「彼女が直接それを持っているわけじゃない。だが、彼女を使えば私の目的は達成できる。それだけだ」


サーラの胸に焦燥が広がる。

シェリーはただの人質ではない。何かの手段として利用されている。


だが、何を狙っているのかはまったく見えない。


「抵抗しない限り、お前に危害を加えるつもりはない。だが、もし邪魔をするなら……」


その言葉にサーラの背筋が凍った。

この男は本気だ。


しかし今は、彼女もシェリーも身動きが取れない。


その時だった。


サーラの肩にいつもいるはずのネフィリスが、静かに地面へ降り立った。


黒猫は一瞬カスパーを鋭く睨みつけ、無言で身を低くする。


「ニャー……」


低く唸るような威嚇。


だがカスパーは一瞥しただけで笑った。


「ただの猫か。まあ、どうでもいい。せいぜい逃げるがいいさ。助けになどならないだろう」


だがサーラは、ネフィリスがただの猫ではないことを知っている。

彼は友人であり、彼女を守るために存在する魔法AIだ。


(ネフィリス……逃げて。誰かを呼んで……)


サーラは心の中で祈った。


ネフィリスは一瞬サーラを見上げると、まるでその意思を汲み取ったかのように、音もなく倉庫の隅へ駆け出した。

黒い影が出口へ向かう。


だがカスパーは、それをまったく気にも留めなかった。


「さて、話はここまでだ」


カスパーは再びシェリーへ視線を向けた。


「お前たち二人がどう抵抗しようと、私の計画を止めることはできない」


サーラはネフィリスが逃げたことを確認し、胸の奥にわずかな希望を抱いた。


だが、助けが来るまでには時間がかかる。

その間にカスパーが何をするのか──想像するだけで恐ろしかった。


「待って!シェリーに手を出さないで!」


サーラは叫んだ。


「もし彼女が何か知っているなら、私が代わりに聞き出すわ!」


咄嗟に出た言葉だった。

時間を稼がなければならない。


ネフィリスが誰かを呼んでくるまで、少しでも──。


カスパーは一瞬、興味深そうに眉を上げた。


「お前が?面白い提案だな。だが、信用できる理由があるのか?」


「私はシェリーの親友よ。

彼女が他の人には話さないことでも、私には話してくれるかもしれない……」


自分の声が震えているのを感じながらも、サーラは続けた。


「お願いだから、シェリーを解放して」


カスパーは不敵な笑みを浮かべた。


「面白い考えだ。だが、お前が嘘をついているなら──覚悟しておけよ」


サーラはその言葉に震えた。

それでも必死に耐える。


シェリーを救うためには、何としても時間を稼がなければならない。


そのとき、彼女の脳裏にネフィリスの姿が浮かんだ。


(お願い……早く助けを呼んで)


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