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1-1-9 要注意入国者

アリアは慌ただしい朝をなんとか切り抜け、ようやくデスクに腰を下ろした。

今日もまた、彼女の前には一山の書類が積み上がっている。


その中で特に目を引いたのは、今朝同僚から手渡された封筒だった。

表には、太い手書きの文字で「要注意入国者リスト」と書かれている。


アリアは封筒を開き、中の資料を取り出した。

数枚の紙が挟まれており、どれも簡潔にまとめられている。

彼女は最初のページをめくり、静かに目を通し始めた。


—-


1. カスパー・ヴァンホーレン


 • 国籍: 未確認(偽造パスポート多数所持)

 • 犯罪歴: 複数の企業に対するセキュリティ侵害、詐欺、魔法技術の窃盗

 • 魔法の専門分野: 幻影魔法、操り魔法


写真の中のカスパー・ヴァンホーレンは、どこか軽薄な微笑を浮かべていた。

しかし、その能力を見る限り、その印象がまやかしに過ぎないことは明らかだった。


彼は幻影魔法と操り魔法を巧みに使い分け、複数の企業から貴重な魔法技術を盗み出している。

特に厄介なのは、偽造身分をいくつも使い分けながら企業に潜り込み、内部の人間すら気づかないうちにデータを抜き取っていた点だ。

多くの場合、情報が消えて初めて侵入の事実が発覚するという。


「これだけの犯罪歴があって、まだ捕まっていないとはね……」


アリアは小さく呟き、無意識に眉をひそめた。

資料に並ぶ手口の巧妙さから、相当な知能犯であることが伝わってくる。


—-


2. リュドミラ・ザルコワ


 • 国籍: 東方の高山地帯、ルルヴィナ王国

 • 犯罪歴: 教団に対する毒物事件、精神崩壊を引き起こす魔法の使用疑惑

 • 魔法の専門分野: 毒、腐敗、精神的圧力


リュドミラ・ザルコワは、写真の中で冷たい目をこちらに向けていた。

その名は、教団内部ではすでに恐怖の象徴として囁かれている。


数年前、教団内で複数の高位司祭が不可解な病に倒れ、やがて精神的に崩壊してしまう事件が起きた。

公式には原因不明とされているが、その背後にリュドミラが関与しているのではないかと疑われている。


彼女の魔法は、単なる毒ではない。

腐敗魔法によって肉体を蝕むだけでなく、精神そのものに圧力をかけ、相手を徐々に追い詰めていく。

被害者が異常に気づいた頃には、すでに手遅れになっている場合が多いという。


「教団に彼女が関わっているとなれば、厄介ね……」


アリアは資料を見つめながら呟いた。


「被害者が自覚する頃には、もう逃げ場がないなんて」


—-


アリアは静かにページをめくる。

次の資料に目を落とした瞬間、わずかに手が止まった。


そこには、暗い背景の中に佇む男の写真があった。


—-


3. ヴァシリー・シヴァロフ


 • 国籍: 北方の大国、グリムロス帝国

 • 犯罪歴: 暗殺、魔法研究所に対する侵入未遂、影の魔法の不正使用

 • 魔法の専門分野: 影の魔法、暗殺術


ヴァシリー・シヴァロフ。


その名はすでに一部の情報機関の間で囁かれている。

暗殺者として、極めて危険な存在だ。


影の魔法を操る彼は、他者に気づかれないまま距離を詰め、標的を確実に仕留めることで知られている。

その痕跡はほとんど残らない。


数年前には、魔法研究所への侵入未遂事件も記録されていた。

その際も影を利用して警備の目を逃れたが、最終的には目的を果たす前に姿を消している。


ただし──

彼が何を狙っていたのか、その動機はいまだに明らかになっていない。


「この男が動く時は……」


アリアは写真を見つめながら、胸の奥に生まれた不安を押し込めた。


「何か重大なことが起きる気がする……」


—-


アリアは資料をゆっくりと封筒に戻した。

そして、机の上で指先を組みながら、冷静に状況を整理する。


ここに並んでいる魔法使いたちは、単なる犯罪者ではない。

それぞれが独自の能力を持ち、王国全体にとって脅威となり得る存在だ。


ただし、名前がリストに載った時点で、たいてい遅い。本当に厄介な者は、姿を見せる頃にはすでに何かを終えている。


彼らが何を狙っているのかは、まだ見えない。

だが、その行動が王国内の重要機関に影響を与える可能性は十分にある。


「慎重に行動しないと……」


アリアは深く息をつき、資料を手に立ち上がった。


自分が関わる女王選定プロジェクトにも、もしかすると、彼らの影が落ちてくるかもしれない。


その脅威が王国の未来にどのような影響を及ぼすのか。

それを見極めるのも、自分の役目だ。


そう思いながら、アリアは静かに歩き出した。


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