第八五話【トニー、その勇敢なる者】
「もしもし、村人その一のコルスさん。」
「なんです、村人その二のケニーさん。」
「最近、売り込みに来る何人もの冒険者の対応をさせられて大変なんですがね。」
「オレも貴族様や大手商会の代理人たちを相手にしているんだ。おあいこだよ。」
「中でも女性冒険者が妙に積極的でね。両隣に座られて囁かれると、大変困る。」
「冒険者は安定しない職業だし、二〇代半ば以降は焦り出す年齢になるからな。」
「肉体的接触は困る。」
「まあ、そうなるな。」
「けっこう来るんだ。」
「けっこう来るねえ。」
「後さ、私はあちらではモテなかったのに何故かこっちでは新婚の妻帯者になるんだが、売り込みに来る娘さんやらお姉さんたちの勢いが何故か熱い。」
「そりゃ、元とはいえ、帝国の公爵の娘たちを嫁さんにしたんだ。優良物件と思われているんじゃないか?」
「アヘヒロさんの方が有望だろ。」
「彼は生粋の帝国の人間だし、既にかなりの嫁さんがいる。旨味がないのさ。」
「うわあ。」
「誘惑に乗るなよ。」
「乗らないよ。そもそも、トキタさんが運ぶ手紙でしか嫁さんたちとやり取り出来ていない状態なのに、なにをどうしろと? ま、彼女たちは可愛いものさ。誘惑の件は乗ったらとんでもないことになるし、そもそも乗る気はないよ。トキタさんがすべて把握しているだろうし。」
「出来ないなあ。」
「出来ないねえ。」
「その内、亡命貴族の娘たち専用の旦那様になったりして。」
「妙なことを言わないでくれ。ただでさえ、コルスは予言者っぽいところがあるんだから。」
「悪い悪い。そうそう、駅舎がぼちぼち出来るし、街道もメルクリン村までは開通した。ハミルの街への街道工事は雪が降るまでにして、それ以降は冬祭の準備がある。林檎の収穫も始まっているから忙しくなるぞ。」
「街道はハミルの街までだよね。」
「そうだ。本来は国家事業だからな。帝国が羨ましいよ。」
「皇帝の一声で国が動くんだからねえ。」
「愚昧な専制君主が統治すると、あっという間に傾くがな。」
「今は大丈夫なんじゃないかな?」
「アヘヒロからは、あっちの貴族にならないかと誘いを受けている。」
「ふうん。」
「反応が薄いな。」
「だって、受けないんだろ。」
「まあな。受けられんなあ。」
「アヘヒロさんは万が一で声掛けしているのかな?」
「そんなとこだ。なんせ、帝国期待の星だからな。」
「ところで、石鹸開発は進んでいる?」
「難しいな。消毒液はドワーフやリーネたちが呑みたがるし。」
「リーネさん……。」
「リーネも、出会った頃はあんなにはっちゃけてなかったんだがな。」
「コルスを信用しているからだよ。」
「……そういうことにしておこう。」
「じゃあ、冬計画は林檎の収穫と林檎酒の醸造、林檎の蒸留酒の更なる改良、エールの醸造、果実の砂糖煮や肉、腸詰め、魚介類の長期保存型燻製作り、野菜の塩漬け作り、特産品の見直しと改良、温泉村や周辺地域の宣伝活動、そんなところかな?」
「ではそれを基本計画として、付け足せるものは途中で付け足そうか。」
「それと、冬祭ではコルスの女装姿を見たいとの嘆願書が届いている。」
「は?」
「トニーが血涙を流しながら、東奔西走して集めたという噂もあるね。」
「なにやってんだ、あいつ。」
「需要があるってことさね。」
「まあ、別にかまわないが。」
「では女装決定、と。よかったね、トニー。」
「へ?」
物陰から、見慣れた姿の男が現れた。
隠れていたトニーが素早く走り去る。
少しして、まるで轟くような喜びの雄叫びがここまで聞こえてきた。
あれは魂の遠吠えなのかもしれない。
それから阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえて、辺りは再び静寂を取り戻した。
嗚呼、トニーがどんどんオチ要員になってゆくのです。




