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第八六話【ハンナは賢いお嫁さん】

温泉村から東へ徒歩一日ほどの場所にあるタロン村。

そこの新人村長であるトニーがフリーダム野郎でしょっちゅう村を抜けるため、その幼な妻のハンナは多忙だ。

とある世界では非合法の年齢だが、この世界では待機期間をきちんと守れば合法だ。

イエスなんとかノーなんとかである。

コルスの梃子入れによって婦女子も読み書きが出来るようになり、少女たちは様々な知識を得るようになっていた。



村を豊かにするためには、複数種の特産品が必要である。

村周辺に自生している林檎の品種改良に、林檎酒の醸造。

林檎酒は温泉村のそれより少し辛めの味わいにしている。

いわゆる、ドライシードルだ。

林檎はまだ小さめで酸っぱい。

とある異世界風に言うと、紅玉の酸味を更に強くしたみたいな感じ。

銅貨二枚で三個買える値段だ。

この林檎を銅貨一枚で一個の値段にするのが、当面の目標であった。

ハミルの街の若様から許可が下りたので、養蜂にも力を注いでいる。

将来的にチーズやバターなどの乳製品の生産にも力を入れる予定だ。

一村一品目ではなくて、一村多品目がコルスの基本構想なのだから。



林檎の収穫期は大車輪で全員が忙しい。

冬支度も視野に入れなくてはならない。

紅葉が日々益々色濃くなる今日この頃。

幸い、村が若いから、村民も若手が圧倒的に多い。

それに、防衛隊兼何でも屋の斥候隊が頻繁にやってくる。顔はアレだが、気のいい連中だ。

実戦力はけっこう多い。

ハンナは村の女性陣代表で面倒見もいいので、既にロリおかん的な立場を得ていた。

どことなく、ショタおかんなコルスに似ている。

気立てがよく献身的でよく働き、知恵も回る嫁。

トニーには過ぎた妻だと皆が言う。

まあ、その通りだ。

彼女は狩りも上手い。

兎や鹿もハンナにかかればイチコロだ。

彼女が本気になったら、トニーがどこに行こうと隠れようと逃げようと無駄である。

生体トニー探知機は高性能故に。


幼い少女はその天性の才能を開花させようとしていた。

トニーのフリーダムさが役に立っているのが微妙だが。



女装したコルスがハミルの街やオーファーアイセルの街などで地道(本人談)な宣伝活動を行った結果、商隊や行商人がちょこちょこ村を訪れるようになっている。

無論、彼らのような奇特なあきんどを逃す手はない。

ハンナは交渉の才覚に於いて、急速にその才能を開花させつつあった。

夫の補佐も的確なのだろう。

たぶん。

無邪気な笑顔と咄嗟の機転と粘り強い交渉力。

おっちょこちょいで人情にあつく同性に慕われやすい夫を支える賢女。

タロン村はその名を高めつつある。

『計算通りだな。』とニヤリと嗤う、どこぞの異世界転生少年の思惑など知ることもなく。



「すまねえ、悪気はなかったんだ! ケニーが夜の店で綺麗所を集めたっていうからよ、ちょっと顔を見せただけなんだ! 信じてくれ! お、おい、ハンナ! なんだ、そのメイスは! お前の腕力でなんでそんな武器が……アラルコン村の戦士に使い方を教えてもらっただと! ま、待て! は、話せばわかる! や、やめ……。」



どうやら、粗忽な男には学習能力があまりないようだ。





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