後始末(仲間)
「置いていくのか? ルーフェルを」
「そうだ。もういらねえだろう?」
いらないとは、また随分と素直ではない言葉を吐く。苦笑しながら、グドは黙って南を目指して進むサドの後ろを歩いていく。
あの後、ルーフェルとは別れ、東方伯が死んで混乱に陥った隙を見計らって、領土から離脱して、はや20日である。
佐渡は、ルーフェルを本当は連れて行きたいくせに、自分の欲求を考えた結果、別れるという手段を選んだのだろう。
相変わらず、捻くれている。
「……本当は、好きなんだろう?」
「ないな」
嘘だと思うが口にはしない。
本来なら、あんな面倒なことはせずにさっさと東方伯一人を討っていたはずだ。個人としての戦闘力もさることながら、この男には妙な"力"がある。
それさえ使っていれば、東方伯を討ち倒すことが出来たはずだ。なのに、それをせずに東方伯を殺したのだ。
理由はただ1つ、ルーフェルに殺させたかった。それだけしか考えられなかった。
この男は、孤立することを何よりも恐れている。復讐はしたい。元の世界には帰りたい。命は大事にしたい。
考えていることはきわめて俗な考え――というよりかは、当たり前の考えだろう。
誰だって、死にたくはない。戦場慣れしてるグドとて、それは同じだ。
死に対する恐怖はない。別に死ぬならその時はその時として、受け入れるつもりではあった。
だが、生きている内の楽しみができなくなってしまう。それは受け入れられない。
自らが死ぬ、ということに対して感じるのは、楽しみが減る。そんなつまらない一生で終わらせたくはない。
故に、グド自身は、無様にも生き足掻く行動を嫌ってはいない。生にしがみつく。欲望に縋りつく。人として、当然の反応だからだ。
「まあ、私としてはどうでもいいよ」
「そうだろうな。リスクを説明してまで、お前と戦えればそれでいいとかいう馬鹿は、てめえしかいねえよ」
「戦いこそが喜びだと言っただろう。一族の誇りとしてお前を討つ。そして代償が身体で済むなら安いものだ」
ああ、そうかよ、と男――サドが不機嫌そうに答える。
サド自身は、一人でもいいと思っているのだろうが、結局孤立が怖くて、グドを連れている、というのはルーフェルに対する態度を見ていてようやくわかったことだ。
自らの折られてしまった角をそっと撫でながら、グドは、佐渡の方へと視線を移す。
この男は、ただの強大な力を持ってしまった、憐れな市民にしかすぎないのだ。
「……なんか失礼な考え事してねえか?」
「いいや、別に」
ようするに、一族でもたまにいる、ちょっとひねくれた子供にも近い部分がある
突如浮かんでしまった発想に、表情がにやつくのを抑えきれず、笑い声すら零してしまう。
「分かった。やっぱりお前俺に対して失礼なこと考えてんな?」
「いいや、別に孤立が怖くて私をいやいや連れている甘ちゃんで、敵討ちも手伝う。
さらに、自分の能力のリスクで私をできるだけ襲わないように娼婦で済ませる珍しい男がいるものだと考えてただけだが?」
「オーケー、ぶちのめす」
佐渡が振り返り、フードから手を出す。
「それで、殴るのか?」
「お仕置きをしてやるだけだ」
「それは怖い。分かったか? お前の恩義ある男は、こういう風なこともする男だぞ?」
くすりと笑い、佐渡に後ろを見るように、促す。
佐渡が、怪訝な顔を浮かべながらも、振り返る。そして、何故だ、という顔をした。
「……貴方と、別れるわけには、参りません」
妹と数少なく生き残っていた鍛冶のエルフ達と共に去っていた筈のルーフェルが、立っていた。
「なんで着いてきた? そもそも、どうして俺達が南へ行くと知った?」
「オークマストの方が、貴方の中に戻るまでの短い間に教えてくださったので」
佐渡が、あの野郎、いつの間にと言葉を吐き捨て、自らの身体を忌々しい目で見るが、それだけで済ませた。
それから、ルーフェルの方へと、足を進める。何をする気かは、分からない。
別に何をしようがグドには関係がないことだ。”オークマストと共に”リスクを教えてはいたのだから。
「……オークマストの野郎に聞いてないかもしれんが」
「聞いています。貴方の力の代償も、それで、例外以外の女性を近づけないようにしていることも」
「ならとっとと帰れ」
即座に、サドがルーフェルに対して冷たく言い放つ。力の代償を知りながら、着いてくるなどと言うのか。
東方伯がルーフェルに行ったことを、サドもしかねない。本人が最も恐れている事態。
しかし、ルーフェルはそれで退くような女であるとは、グドは思っていない。
「出来ません。あなたには、恩義がある」
「ただの利害の一致だ」
「いいえ。そんな小さな危険性如きで、私が退くと思いますか? この身を汚されても、死なずにあの男を殺した私が」
サドが、言葉に詰まる。
エルフの女というものは、高貴な身を誇るものだと思っていたが、ここまで言うのかと、グドは楽しんで見ているが、サドはうまい返しを考えなくてはいけない。
”惚れた女を犯す”など、絶対拒否したいだろうに、向こうから迫ってくる。
目の前にサドの好物が置かれているのに、本人はそれを絶対に拒否しなければならない。
ルーフェルが勝手にグドの分まで意趣返しをしてくれているような気分に陥り、とうとう大声で笑ってしまう。
「おい、グド」
「グドよりも、私の話が先です、サド」
逃げようとした矢先、またしても問い詰められる。
これではおそらく逃げ切れないだろう。何度も危険について説明した上で、ルーフェルがついてくることになる。
しばらくは賑やかなことになりそうだなと、グドはサドが折れるのを待つだけにした。




