妙な悪魔態度
「センリョク フソクニツキ ソウソウ ニ キカンセヨ」
飛鳥は、悪魔電報を右手に考え込む。
昨日届いたものだ。
一か月前に届いた別の電報を左手に取る。
「センリョク フソクニツキ ソウソウ ニ キカンセヨ」同じ内容だ。
戦況は悪化しているのだろうか。
僕が地球に飛ばされてから地球時間で17年経過している。
2年前に魔法が使える年になって、何とか一族に連絡することはできた。
その時には帰還を急かされることはなかったのだけれども。
本来ならば飛鳥は、転生後15年間蓄積した魔力の一部を使って、フォ-ムレスに帰ることが出来たのだ。半年前までは。
帰還に必要な魔力が足りないのだ。涼と彼の母を再生するのに半分以上使ってしまった。だからこの要請にはこたえられないのだ。
フォ-ムレスに連絡を取ったが切羽詰っている感じでもなかった。
だから魔力を大きく消費してもまた気長に貯めればよいとそう考えたわけだ。
飛鳥はフォ-ムレスと地球とをつなぐ細い経路をしかめっ面で覗き込む。
経路は青白くうっすらと光っており、時々浮遊する白い粒子のようなものが出てくるのが見える。
「はぁ」
この経路を広げればより大きな魔力のものを通過させることが出来る。
飛鳥のような上級魔族が通過するには、魔力を投入して一時的に空間(時空の裂け目というと分かり易いだろうか)を広げる必要がある。
細く形成されている経路を再び覗き込む。
飛鳥が覗き込んでいるものは一族から届けられた帰還用の魔道具だったのだが、装置の魔力蓄積部の魔力は空だった。
「なんで、空で送ってくるかな」と、半ば愚痴のようにつぶやく。
やはり戦況がよくないのだろう。
それにあちら側は、僕に帰還のための魔力があると思っているようだ。
実際あったのだ。半年前までは。
涼らとの契約により、飛鳥には、先に消耗した魔力が戻ってきている。
じわじわとゆっくりとだが、確実に。
それでよい、急ぐ必要はない、とそう思っていた。
そのほうが契約者にとっても安全であるし、何しろ確実だ。
それに、涼らに負担を強いるわけにはいかない。しかし、ここにきての帰還命令。
「ふぅ」と小さくため息をついて、その魔道具の側面を撫でるが、飛鳥の視線はここにはなかった。
『じりりりり、ちん』
時計の針は午前四時を指している。
涼は、やれやれと、いつもの口癖を口にし、ストレッチ、筋トレを行い、走り込みに出かけた。
外は未だ薄暗い。
そのまま公園にまで走り(公園までは約五キロ程度だ)、公園を一周する。
その際に、砂場で遊んでいる少女に声をかける。
「ういっす」
少女は軽く会釈をし手を振る。よくみるとかわいいな。
本来なら誰もいるはずのない時間帯の公園に少女がいることにも慣れてきた。まあ、生きている人間ではないけど。
涼も少女に笑みを返してそのまま走って家に戻る。
「さてと」
牛乳とプロテインを合わせてシェイクし、先日作ってあったごぼう、人参、エリンギの炊き込みご飯のラップしものを冷凍庫から出して電子レンジで温める。
そして食パン3枚に、カロリ-メイトだ。
飛鳥が吸収していくため、普通より多く食べている。元々小食だったが、胃が大きくなったのか、このくらいなら普通にいける。
たまに黒い何かが部屋にスッと現れ、そのままうろうろした後に消えた。
ちなみに『これ』は親父の霊っぽい何かだと思われる。
ただし、意志の疎通が図れないし、家を勝手にうろうろしているだけである。
親父そのものではなくて、執念とか、想いがそのまま残っているだけなのかもしれない。
軽くシャワ-を浴びた後、一応行ってきますと声をかけると、『うんうん』というような動作をしてくれるーーそんな気がする。
「涼~おはよう」
飛鳥が玄関のドアの外で待っていた。
「相変わらず、お気楽そうだなぁ」
「涼、背中が大きくなったね」
確かに最近そんな気がする。
十分なトレ-ニングを行い、十分にカロリ-を取得しているからだろう。飛鳥に要求される以上に食べている。
「人間族は、努力しただけ実るよね。ここの世界でも」
飛鳥曰く、向うの世界の人間族の位置づけはそんな感じらしい。
悪魔族やら、竜族やらは、この世に誕生した時から強い奴は強いらしい。
あとはテクニックや慣れの問題で、若いうちから出力自体は大きいようだ。
それに対して、人間族というのは最初から強いとかそういうのはないらしいが、鍛錬すればするほど強化されていく、ということらしい。
まあ、他の種族に対して脅威となるほど強くなることはないようだが、たまに現れる英雄が、尋常じゃない鍛錬を行うことにより、他の種族への対抗力として存在するとかしないとか。
「よくわかってないけど、人間族は他の三大種族の基本なんだ」
「悪魔、龍、獣の種族は亜人とも評価できる」
飛鳥が、自分の故郷についてやけに饒舌だ。
普段は、この世界に関連する話や俺の訓練の話が多いのだが。
飛鳥が突然立ち止まり、俺を向く。
「どした」
いや、何でもないよん、とまた歩き出した。
うーむ、怪しい……




