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ク☆レ☆ゲー  作者: アイ田アイ


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4/10

4話 不均等な契約

 チャリン、という非情な処刑宣告が鳴り響き、軽快でチープな電子BGMがスタートした。



 筐体のデジタルタイマーがカウントダウンを始める。


 俺の脳内スーパーコンピューターは、かつてないほどの熱暴走を起こしていた。



(落ち着け、落ち着け俺。

 相手が未知のシステムであろうと、この宇宙に存在する以上は物理法則の支配下にあるはずだ。

 情報を整理しろ)


 俺はポーカーフェイスを張り付けたまま、眼前の『橋渡し設定』を睨みつけた。



 二本の平行なポール。

 滑り止めとして巻かれたシリコンチューブ。


 その上に横たわる、推しキャラとやらが印刷された長方形のフィギュア箱。


 そして上空で待機する、二本の銀色の爪(アーム)。



(フック設定のように「引っ掛ける」場所はない。

 ならば、あの二本の爪で直接『質量』を持ち上げるしかない。

 箱のサイズと中身の偏りから推測するに、重心(コア)は中央よりやや左下……)


 俺はジョイスティックを握り、アームを動かした。


 ウィーン、という音と共に、アームが箱の重心の真上へと移動する。



 背後で紬が「ごくり」と唾を飲み込む気配がした。



「……計算完了(アンサー・チェック)」


 俺は無駄に洗練された動きで、降下ボタンをターンッ!

 と叩き込んだ。



 頼む、持ち上がってくれ!

  そして真っ直ぐ落ちろ!


 俺の今月の食費(カロリー)のために!!



 俺の切実な祈りを乗せて、二本の爪が降下していく。


 アームが開く。


 箱の左右を包み込む。


 そして、爪が閉じる――!



(よし、完璧な座標だ!

  完璧に重心を捉えて――)


 スキャアァァァァーッ……。



「は?」


 俺の口から、素の悲鳴が漏れそうになった。



 箱の両端を挟み込んだはずの銀色の爪は、まるで茹で過ぎたスパゲッティのような軟弱極まりない握力で、ツルツルとした箱の表面を虚しく撫で下ろしただけだった。



 そのままアームは空気を掴み、間抜けな顔をして元の天井へと上昇していく。



(な、なんだ今の現象は!?

  なぜ持ち上がらない!?

  摩擦係数が足りないのか!?

  いや違う、そもそもあの爪、箱を『握る』だけのトルクが出力されていないじゃないか!!)


 俺の物理演算エンジンが、エラーコードを吐き出してフリーズした。


 物理法則すらねじ伏せる、店側による遠隔魔術。

 こんな暴挙が許されていいのか。

 資本主義は腐っている!



 しかも最悪なことに、アームが撫でた微妙な摩擦のせいで、箱が中途半端に回転してしまった。


 フィギュアの箱は二本のポールの間で斜めに傾き、ガッチリと挟まるようにして固定されてしまったのだ。



 クレーンゲームの知識がゼロの俺でも直感で分かる。


 これは……完全に「詰んだ(死に体)」ではないのか?



 全身から冷や汗が噴き出す。


 終わった。

 俺のハッタリはたったの一手で看破された。

 俺はただのフック設定しかできない素人なのだ。


 あのお嬢様も、俺のデタラメなプレイを見てついに呆れ果て――。



「……っ!  す、すごいです、理人さん!!」


 背後から、鼓膜を劈くような黄色い歓声が上がった。


 振り返ると、紬が両手で口元を覆い、感動で目を潤ませている。



「え?」


「私、分かりました!  一手目は、アームの握力(パワー)とポールの滑り止めの摩擦力を測るための、『査定(テスト・プレイ)』だったんですね!?」


「……は?」


「しかも、わざと箱を斜めにハメ(詰み)ることで、他のハイエナ(屍喰鬼)たちに『この台は終わっている』と錯覚させ、横取りを防ぐための高度な情報戦(ブラフ)……!!  すごい、なんて完璧な盤面支配……ッ!」


……どうやらこのお嬢様の中では、俺の致命的なミスが、神がかった天才の戦術に脳内変換(アップコンバート)されているらしい。


 箱がガッチリ挟まって微動だにしないのは、俺の計算通りの絶対防御陣だと言うのだ。



「……あ、ああ」


 俺は震える声帯を必死にコントロールし、前髪をかき上げた。



「……当然だ。敵の戦力を知らずして、前線に立つなど愚か者のやることだからな。この盤面(フィールド)の因果律は、すべて俺が掌握した」


「きゃあああっ!  素敵です!  さあ理人さん、このまま一気にトドメを!」


 紬は興奮の絶頂のまま、俺の手にチャリン、と冷たい金属の塊を押し付けてきた。


 五枚の百円玉。


 すなわち、連続六プレイの強制労働チケットである。



(嘘だろ……これであと六回も、この動かない箱を撫で続けろって言うのか……!? )


 胃壁が、ストレスでギリギリと音を立てて削れていく。


 カロリーを摂取する前に、俺は胃潰瘍で死ぬかもしれない。


『凄腕の鷲』の化けの皮が剥がれるまで、あと数分。

 俺の人生史上最大の絶望が、すぐそこまで迫っていた。


読んでいただきありがとうございます♪


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