15 兄を切る家
アーネスト・ウォードが警備詰所へ呼ばれたのは、その日の午前だった。
呼び出しは形式上は丁寧だった。
――旧ハートウェル邸跡地より発見された地下図面、および役場保管庫への夜間侵入未遂について、確認したいことがある。可能であれば任意で出頭願いたい。
任意。その二文字を見て、アーネストは手紙を握り潰しかけた。
「行かなければいいわ」
エレノーラが言った。彼女は朝から首元に何もつけていない。そのせいで、かえってそこばかり目立っている。真珠の重みが消えた場所を、何度も指で触っていた。
「任意でしょう。行く必要なんて」
「行かなければ、逃げたと言われる」
セドリックは書斎の机の前に立っていた。椅子には座らない。座ると老いが出るのを嫌っているのだろう。
「行って、余計なことを言うな」
「父上」
アーネストは手紙を机に置いた。
「昨日の件は、私だけでは」
「何の話だ」
アーネストは父を見たが、父の目は、もう息子を見ていなかった。使えるか、使えないかを見ている。
「役場の保管庫へ行かせた者は、父上も」
「私は何も知らん」
「父上が、別の火を起こせと」
「言っていない」
早かった。返事が早すぎた。
アーネストの口が少し開く。言葉が出る前に、セドリックは続けた。
「お前は昔から早まる癖がある。図面の件もそうだ。十五年前も、もっと慎重にやれと言ったはずだ」
「十五年前」
ヘンリーの声に、書斎の中の三人が振り向く。
入ってこない。ただ、開いた扉の枠に手をかけて立っている。そこにロレッタはいない。
「今、十五年前と言いましたね」
「聞き間違いだ」
セドリックが言う。
「いいえ」
ヘンリーはゆっくり首を横に振った。
「聞き間違いではありません」
「ヘンリー。お前は朝から何をしていた。掲示板など見に行く暇があるなら、家の中で」
「家の中で、私は一体何をすればよかったと?」
「黙っていろ」
「それは、もう役目が終わったそうですので」
セドリックの眉が動く。アーネストは舌打ちする。
「お前はずっと、黙っていればよかったんだ」
「兄上」
「何度言わせる! お前は知らなかった。何も知らなかった。そう言っていれば、まだ被害者でいられた」
「兄上は、私を被害者にしておきたかったのですか」
「そうだ!」
アーネストは即答する。そして、すぐに気づいたらしい。だがもう遅い。
ヘンリーは扉の枠から手を離した。
「なぜ……」
「その方が都合がいいからだ」
セドリックが低い声で言った。
「アーネスト、もう黙れ」
「嫌ですよ」
アーネストは父を見た。
「私だけが警備詰所へ行くのですか。私だけが問い詰められ、私だけが名前を出され、私だけが」
「お前が動いただろう」
「父上が決めたじゃないですか」
「証拠はあるのか」
その一言で、アーネストは黙った。
証拠。十五年間、彼らが誰かに突きつけてきた言葉だった。今、それがこちらを向いている。
エレノーラは椅子に沈み込む。
「やめて。お願いだから、ここで争わないで」
「母上」
ヘンリーは呼んだ。
「母上は、十五年前に何を見ましたか」
「見ていないわ」
「真珠は」
「知らない」
「昨夜は、父上が渡したと」
「言っていないわ」
「母上」
「言っていない!」
エレノーラは耳を塞ぎかけ、途中で手を下ろした。耳を塞いでも、真珠はもう戻らない。
セドリックはアーネストへ手紙を押しつける。
「行け。聞かれたことにだけ答えろ。保管庫の件は知らない。従者が勝手にやった。図面も、昔の覚え違いだ。地下室の存在など、誰も確かなことは分からない」
「小箱が出ています」
ヘンリーは口を挟む。
「祖父の覚書も、裏帳簿も、母上についての手紙も」
「お前はどちらの家の人間だ」
「分かりません」
ヘンリーは答える。セドリックが初めて言葉を失った。
「分からなくなりました。昨日までは、分かっていたつもりでした」
「ヘンリー」
「私はウォード家の人間です。ですが、ウォード家が何をしたのか、私は知らない。知らされなかった。それを役目だと言われた。では、私は何のためにこの家にいたのですか」
「家のためだ」
「家が、人を殺しても?」
エレノーラが短く息を呑む。アーネストは机を叩いた。
「殺したとはまだ決まっていない!」
「では、誰が地下に埋められていたのです」
「知らん!」
「なぜ火をつけたのです」
「俺ではない!」
アーネストは怒鳴った。そして、また失敗した。
ヘンリーは一歩、書斎へ足を踏み入れる。
「誰が、火を」
「言葉の綾だ」
セドリックが遮る。
「アーネストは混乱している。旧邸の発掘と昨日の放火未遂で、疑われている。まともな状態ではない」
「父上は、兄上を切るのですか」
「何を馬鹿な」
「今、そう聞こえました」
廊下の向こうにはロレッタがいた。彼女は書斎の扉の外で足を止め、中へは入らない。だが、聞いている。ヘンリーがそれを知っているかどうかは分からない。
アーネストは父と弟を交互に見た。
「いいだろうさ」
彼は手紙をつかんだ。
「行きますよ。行って、聞かれたことに答えます。ただし、私だけの話にはしません」
「アーネスト」
セドリックの声が低くなる。
「それが家のためになると思うな」
「私を捨てる家のために、なぜ黙る必要が?」
「お前はまだ捨てられていない」
「今、捨てかけたでしょう」
アーネストは笑う。それは短く、乾いていた。
「父上。私は父上に似ています。だから分かります」
セドリックは答えなかった。
アーネストは部屋を出ていく。廊下でロレッタと目が合う。
「何を見ている」
「何も」
「嘘だ」
「では、見ています」
ロレッタは静かに答えた。
「ウォード家の方々が、何を選ぶのか」
アーネストは吐き捨てるように笑い、歩き去った。




