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『古典にAIを導入してみた 〜僕らは賢くなったのか〜』  作者: 山田りく


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第9話【現代シン・寓話】田舎のネズミと町のネズミ

 ある日、田舎の静かな畑に暮らすネズミのもとへ、大都会のタワーマンションに住む「町のネズミ」が遊びにやってきました。


 田舎のネズミは、自分のスマートフォンに搭載されている「健康管理アプリ」の指示に従って、最高のごちそうを用意しました。大自然で採れたばかりの麦の穂や、新鮮な根っこの山です。


 田舎のネズミの画面には、青い文字で満足そうなデータが表示されていました。


【今日のメニュー:無農薬オーガニック食材】

【栄養バランス:完璧。ストレス度:ゼロ。寿命予測:健康にあと3年生きられます】


 しかし、これを見た町のネズミは、スマホの画面を見つめながら鼻で笑いました。


「おいおい、なんて質素な食事なんだ。都会の僕の家には、こんなアプリの数字なんか吹き飛ばすくらい、見たこともない美味しいものが溢れているよ。一緒に都会へ来いよ、本当の『豊かな暮らし』を教えてあげるから」


 田舎のネズミは都会への好奇心に勝てず、町のネズミと一緒に大都会へと向かいました。


 到着した都会の家は、天高くそびえ立つ高層マンションの一室でした。部屋の大きなテーブルの上には、人間たちがパーティーの後に残していった、最高級のチーズ、焼き立てのパン、甘いケーキが山のように積まれていました。


 田舎のネズミが驚いてスマホをかざすと、新しいデータが次々と画面に映し出されます。


【検知:高級フランス産チーズ、特製チョコレートケーキ】

【脳内幸福度:測定不能(最高値)。直近の贅沢度:10,000%】


「すごい、夢みたいだ!」


 田舎のネズミが大喜びでケーキにかじりつこうとした、その瞬間でした。


 バチン!という大きな音とともに、部屋の自動ドアが開き、獰猛な「巨大な猫」が部屋になだれ込んできました。それと同時に、二人のスマホの画面が真っ赤に染まり、激しい警告音が鳴り響きました。


【緊急事態:捕食者が接近中! 死亡確率:98%】

【大至急:テーブルの端にある小さな隙間へ退避してください!】


 二匹はごちそうを放り出し、死に物狂いで走り、壁の狭い隙間へと滑り込みました。心臓は破裂しそうなほどバクバクと波打ち、恐怖で全身の震えが止まりません。


 しばらくして猫が去り、ようやくあたりが静かになりました。


 町のネズミは、まだ震えている田舎のネズミの肩を叩いて言いました。


「ふう、危なかったね。でも都会じゃこれが普通さ。さあ、猫はいなくなったから、またあのごちそうを食べに戻ろう!」


 しかし、田舎のネズミは首を激しく横に振りました。彼は自分のスマホの画面に表示された、最悪の数値を凝視していたのです。


【現在のストレス度:限界突破(寿命が3か月縮まりました)】

【総合判定:どれほど贅沢な食事があっても、命の危険と隣り合わせでは幸福度はマイナスです】


 田舎のネズミは、カバンをしっかりと握りしめて言いました。


「僕は田舎へ帰るよ。都会の贅沢なケーキは美味しいけれど、僕のスマホが『これ以上ここにいたら死んでしまう』って言っているんだ。僕は、豪華じゃなくても、ビクビクしないで安心して食べられる田舎の麦の穂のほうがいい」


 田舎のネズミは、きらびやかな都会の夜景には二度と目を向けず、静かな故郷へと走って帰っていきました。


 彼のスマホの画面には、いつもの【ストレス:なし。生存確率:100%】という緑色の優しい文字が、静かに、そして暖かく点滅し続けていました。

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