第10話【現代シン・寓話】キツネとツル
ある日、キツネがお隣さんのツルを自宅のディナーに招待しました。
キツネは、ツルに喜んでもらおうと、自分のスマートフォンに入っている「おもてなし料理アプリ」に命令を入力しました。
「今日のお客さまに、一番おいしいスープを、一番きれいに見える方法で用意して」
アプリのAIは、キツネの言葉をそのまま受け取り、カンペキな計算結果を画面に表示しました。
【今日のメニュー:特製濃厚ポタージュスープ】
【盛り付けの最適解:平らな浅いお皿に入れると、スープの色彩が最も美しく引き立ちます】
キツネは「AIが言うなら間違いない、ツルさんも喜んでくれるぞ!」とワクワクしながら、平らなお皿にスープをなみなみと注いでツルの前に出しました。
キツネはペロペロと美味しそうにスープを飲み干しましたが、ツルはクチバシが当たってしまい、スープをすすることが全くできません。
ツルのスマホのAIが、目の前の状況をスキャンして悲しいデータを表示しました。
【スキャン結果:お皿の深さ 5ミリメートル / クチバシの長さ 20センチメートル】
【判定:物理的に摂取不可能。現在の獲得カロリー:ゼロ】
キツネは、ツルが全くスープを飲んでいないことに気づき、驚いてスマホを見つめました。
「あれ? ツルさん、どうして飲まないの? AIが一番良いお皿を選んでくれたのに……」
ツルは怒ることもなく、静かにスマホの画面を閉じると、「ごちそうさま。今度は私の家へお招きしますね」と言って帰っていきました。
数日後、ツルの家を訪れたキツネは、お腹をペコペコにしてテーブルにつきました。
ツルもまた、自分の料理アプリを使って、とても香ばしいお肉の料理を用意していました。
ツルは前回のキツネの様子を見て、「キツネさんは、お皿と食べる人の体の形を合わせるのが苦手なんだな」と気づき、アプリにこう入力していました。
「前回と同じ考え方で、私にとって一番食べやすい方法で料理を出して」
ツルのアプリのAIは、ツルにとってのカンペキな計算結果を出力しました。ツルが料理を入れて持ってきたのは、口が細くて底がとても深い、ガラスの壺でした。
ツルは長いクチバシをスッと壺の中に差し込み、美味しそうに料理を食べ始めました。
しかし、当然キツネは顔が大きくて壺の中に頭が入りません。キツネのスマホのAIが、慌てて目の前の壺をスキャンし、画面が真っ赤に染まります。
【スキャン結果:壺の口の直径 3センチメートル / キツネの顔の幅 12センチメートル】
【判定:頭部が進入不可能です。お肉の獲得確率:0%】
キツネは、お肉のいい匂いを嗅ぎながら、お腹を鳴らすしかありませんでした。
ツルは食事を終えると、キツネに悪気がないことを知っていたので、優しくスマホの画面を見せました。そこには、二人のアプリが起こした計算のズレが映っていました。
【エラーの原因:AIへの命令不足】
【解説:『一番おいしく、きれいに』という命令だけでは足りません。『相手の体の形に合わせる』という条件を入れ忘れたため、お互いにすれ違ってしまいました】
キツネはハッと気づき、頭をかきました。
「そっか! AIに『ツルさんのクチバシの長さ』を教えるのを忘れていたよ。ごめんね、ツルさん」
ツルもクスッと笑いました。
「私も、キツネさんの顔の広さを計算に入れなかったわ。お互いさまね。さあ、今度はお皿を入れ替えて、一緒に食べ直しましょう」
二人のスマホの画面には【今回の学び:相手の条件を計算に入れること】という文字が、今度は優しく、暖かく点滅し続けていました。




