第11話【現代シン・寓話】欲張りな犬
一匹の犬が、肉屋から大きな骨付き肉を盗み出し、口に咥えて走っていた。
犬のスマートフォンには、生活満足度を測定する「資産管理アプリ」が起動していた。画面には、青い文字で満足そうなデータが表示されている。
【現在の所持資産:骨付き肉(サイズ:大)】
【資産価値:最高。あなたの幸福度は現在、地域トップクラスの95%です】
犬はさらに安全な場所で肉を食べようと、川に架かる一本の丸太橋を渡り始めた。
ふと下を見ると、穏やかに流れる川の水面に、もう一匹の犬が自分とまったく同じように、大きなお肉を咥えてこちらを見つめていた。
犬のスマホのAIが水面をスキャンし、画面に新しいデータを表示した。
【検知:前方の水中に未知の個体。本個体と同等、あるいはそれ以上のサイズのお肉を所持】
【予測:もしあのお肉を奪い取ることができれば、あなたの総資産は200%に倍増します。幸福度は上限を突破するでしょう】
【シミュレーション結果:理論上の最大幸福度】 【注意:対象取得の成功率は未算出】
「あいつの肉も手に入れて、もっと幸せになってやる!」
犬は欲張って、水中の犬を威嚇するために大きく口を開け、「ワン!」と激しく吠え立てた。
その瞬間、ポロリと口から骨付き肉がこぼれ落ちた。
お肉はまっさかさまに川へと落ち、激しい水しぶきをあげて、深い川の底へと沈んでいった。
水面が激しく波立ち、映っていた犬の姿もお肉も、一瞬ですべて消え去った。
犬のスマホの画面が真っ赤に染まり、非情なエラーログが流れる。
【警告:所持資産の完全な紛失】
【原因:実体のない『幻のデータ』を追い求めた結果、手元にあった『確実なデータ』を喪失しました】
【現在の幸福度:0%。総資産:ゼロ】
犬は悲しそうにクンクンと鳴きながら、何も残っていない川面をいつまでも見つめていた。




