第7話【現代シン・寓話】ライオンとネズミ
百獣の王ライオンは、広大な縄張りを統治するために、軍事・防衛AIシステムを導入していた。
AIはドローンと監視カメラのネットワークを使い、侵入者をもれなく感知する。
ある日、ライオンが昼寝をしていると、一匹の小さなネズミがその鼻先を横切った。
センサーが作動し、ライオンの網膜ディスプレイにAIの解析データが表示された。
【微小生物の侵入:ネズミ】
【解析:本個体がライオンに与えうる危害の確率は0%。本個体が将来的にライオンの利益になる確率も0%。排除によるエネルギー消費は0.001キロカロリー】
ライオンが前足でネズミを捕らえると、ネズミは震えながら命乞いをした。
「どうか見逃してください。もし助けてくだされば、いつか必ずあなたのお役に立ちますから」
ライオンはネズミの言葉をAIの音声解析にかけたが、画面の「利益確率:0%」の数値は変動しなかった。
ライオンは前足をどけた。ネズミは急いで草むらへ逃げ去った。
数ヶ月後、ライオンは密猟者の仕掛けた頑丈な網に捕らえられた。
太いロープが体に絡みつき、もがけばもがくほど締め付けられた。
ライオンの防衛AIは、パニックを起こす心拍数を検知し、ログを網膜に映し出した。
【警告:生命危機。ロープの引張強度:1200kg。ライオンの最大筋力での脱出確率:0.4%】
【推奨:体力の浪費を避けるため、心拍数を下げて待機】
身動きの取れないライオンのもとへ、かつてのネズミが歩み寄ってきた。
ネズミはライオンの状況を確認すると、自身の視覚デバイスを起動し、AIの状況分析を仰いだ。
【状況:ライオンが網に拘束されている】
【最適解:ロープの結び目の繊維を一本ずつ噛み切る。所要時間:45分。消費カロリー:15kcal。過去の債務(見逃された事実)の履行による、ライオンとの関係性構築確率:98%】
ネズミは、AIが指定した「強度が最も低下しているロープの結び目」を的確に噛みちぎり始めた。
一本、また一本と繊維が断裂していく。
45分後、最後の太いロープが弾け飛び、網は崩壊した。
ライオンは立ち上がり、自由になった体を震わせた。
網膜のAI画面には【危機脱出。生存確率:100%】とだけ表示されていた。
ネズミはライオンを見上げ言葉をかける。
「小さき者でも、お役に立てると証明できました」
ライオンは何も言わず、ただネズミを見つめた。
AIの予測確率は「0%」から「100%」へと更新された。 二匹の端末には、その同じ結果が静かに表示されていた。




