引導の聖域と、奇跡の修復
「『聖域展開:安らぎの葬送』」
黄金の光が、惨劇の地を優しく包み込む。
散乱した遺体から立ち昇っていた黒い霧が、光に触れた瞬間に清らかな雫となって消えていく。
そして終は、もう一つの権能を振るった。
「失われたものが、志半ばで消えることを、私は望みません」
彼は地面に散らばった薬瓶の破片に手をかざした。
『供物の顕現』
本来は無から有を生み出す力だが、亜神の権能は「欠けたもの」を補完することも可能だった。
砕けたガラスが、巻き戻る時間のように吸い寄せられ、中身の治療薬が奇跡的に再構成されていく。
数分後、そこには完璧な状態で修復された、数箱分の治療薬が揃っていた。
「さて、配送人が必要ですね」
終は、馬車の残骸の下で、辛うじて息を繋いでいた一人の若い護衛兵に目を向けた。
彼は重傷だが、老医師たちが命懸けで庇ったため、即死を免れていた。
終は彼の傷口に手を置き、聖域の光を注ぎ込む。
「若者よ。起きなさい。あなたには、戦友たちが遺した『希望』を届ける義務があります」
「……あ……う……」
護衛兵が、信じられないという顔で目を開けた。
全身を焼くような痛みが引き、力が入らなかった足に熱が戻る。
「……俺は……仲間たちは……?」
「彼らは、もう旅立ちました。……ですが、最期まであなたと、この薬のことを案じておられましたよ」
終は修復された薬箱を護衛兵の手に預けた。
「この街道を真っ直ぐ進みなさい。町までは、彼らが道案内をしてくれるでしょう」
「道案内……? 俺一人で、また賊に襲われたら……」
「独りではありません」
終が指を鳴らすと、護衛兵の周囲に、柔らかな青白い光がいくつも灯った。
それは、今まさに昇天しようとしていた護衛たちの魂が、最期の力を振り絞って顕現した「導きの火」だった。
「彼らが、敵の潜む影を照らし、安全な道を示してくれます。……さあ、行きなさい。彼らの死を、『無駄な終わり』にしないために」
護衛兵は、涙を拭い、薬箱を背負って立ち上がった。
「……恩に着ます、葬儀屋の旦那!」
彼は、先導する光の群れを追って、闇に包まれ始めた街道を駆け抜けていった。




