弔いの夜
一人残された終は、街道の脇に幾つかの墓標を作った。
一つ一つ、丁寧に土を盛り、その上に清らかな水を手向ける。
最後に、老医師の墓に、彼が愛した薬草の花を具現化して供えた。
「お疲れ様でした。あなたたちの想いは、今、生きている者の足となって町へ向かっています」
彼が静かに祈りを捧げていると、闇の奥から幾つかの気配が近づいてきた。
先ほどの襲撃を確認しに戻ってきた、隣国の工作員たちだ。
「……何者だ、貴様」
黒い装束に身を包んだ男たちが、抜き身の剣を持って終を囲む。
「死体しかないはずの場所に、なぜ生きている者がいる」
終は、墓標からゆっくりと立ち上がった。
振り返った彼の顔には、若者の瑞々しさはあっても、そこにある「眼差し」は人智を超えた重圧を放っていた。
「私はただの葬儀屋です。……ですが、今この場所は、私の管理する『葬儀場』となっております」
終は、手袋を嵌め直し、銀の杖を静かに構えた。
「式場での私語、および暴力は……厳禁ですよ」
「ふん、狂人が。死ね!」
工作員の一人が、電光石火の速さで剣を突き出した。
だが、その刃が終の喉元に触れることはなかった。
終の周囲に展開された『聖域』が、あらゆる殺意を物理的な拒絶へと変換する。
「……な、なんだこの壁は……!? 手応えがない!」
「命を奪うことを生業とするあなたたちには、理解できないでしょう」
終が杖を一突きすると、地面から純白の百合の花が爆発的に開花し、その芳香が工作員たちを包み込んだ。
それはただの香りではない。魂に安らぎを与え、一時的に闘争心を完全に削ぎ落とす「強制的な安眠」の香りだ。
「……くっ、身体が……眠……」
工作員たちは、武器を落とし、その場に崩れ落ちた。
終は、眠りに落ちた彼らを見下ろし、静かに告げた。
「殺しはしません。ですが、あなたたちの主には伝えておきなさい。……『死を弄ぶ策謀は、必ずや自らの魂を腐らせる』と」




