黄金の種子と旅の黄昏
儀式が終わり、聖樹がそびえ立っていた場所には、一本の小さな、しかし黄金に輝く若木が芽吹いていた。それは精霊が自らの意志で残した、新しい世界の核であった。
終はその若木の前に跪き、鞄から一冊の古い帳面を取り出した。そこには、この世界の創生から続く、最も古く、最も気高い名前が書き加えられた。
「……死は、すべての終わりではありません。それは、次に語られる物語の、最初の一行なのです」
案内役の光の玉が、かつてないほど穏やかな、そしてどこか寂しげな光を放ちながら、終の周りをゆっくりと回った。
『終、君はやり遂げたんだね。この世界を縛っていた「死の拒絶」という呪いを、君の葬儀が解き放った。……でも、君の仕事はこれで終わりじゃない。君が見送ってきた魂たちが、今度は君に、新しい地平を見せようとしているよ』
光の玉が指し示したのは、これまで辿ってきた街道の先ではなく、空の彼方、星々が瞬く境界線であった。
終は銀の杖を手に立ち上がり、衣服についた光の塵を丁寧に払った。
「おやおや。次は星の葬儀ですか? さすがに一〇二年生きた私でも、宇宙の礼法は勉強不足かもしれませんね」
終は独りごち、今回の旅で手に入れた潮騒の鈴を鞄に仕舞った。その音色は、精霊が還った空へと高く、清らかに響き渡った。
二十歳の身体に、一〇二年の達観を宿した青年は、新しく生まれ変わった森の息吹を胸に、次なる、そして最後になるかもしれない弔いの地へと歩み出した。
彼の歩みは、どんな王の行進よりも重厚で、どんな聖者の祈りよりも深く、この世界の土に「生きた証」を刻み込んでいく。
彼の葬送の旅は、万物が正しき眠りにつき、新しい太陽が昇るその瞬間まで、決して終わることはない。




