世界を紡ぐ最後の弔辞
「……本当に、大丈夫なの? 私が眠っても、明日は来るの? 太陽はまた、芽を照らしてくれるの?」
少女の震える声に、終はこれまで見送ってきた幾千の故人たちに捧げてきたものと同じ、至高の微笑みを向けた。
「ええ。私が保証しましょう。一〇二年という月日を、私は無数の別れの中で過ごしてきました。そのすべてが、新しい出会いの苗床となりました。……あなたが遺すこの森は、あなたの死後、これまで以上に力強く輝くでしょう」
終は銀の杖を高く掲げ、これまで旅の中で集めてきたすべての遺品――アルビオンの宝珠、ハザムの砂、人魚の真珠を共鳴させた。
『具現化の儀:創生と終焉の円環』
聖樹を包んでいた黒い霧が、一瞬にして黄金の花吹雪へと変わった。森全体が神聖な光に満たされ、枯れ果てていた枝からは新しい緑の芽が、爆発的な勢いで吹き出す。それは「死」を燃料にして「生」を爆発させる、亜神の葬儀屋にしか成し得ない奇跡であった。
終は鞄から、かつての現世で最高の格式を持つ葬儀の際にだけ用いた、絹の袱紗を取り出した。彼はそれを聖樹の幹に優しく触れさせ、最期の弔辞を述べた。
「これより、原初の聖樹、ならびに世界精霊の解脱式を執り行います。……参列者は、過去から未来へ続く、この世界のすべての生命です。……お疲れ様でした、お母様。あなたの子供たちは、もう立派に育っています。安心して、お休みください」
終が鎮魂の調べを奏でると、聖樹の巨大な身体が、根元からゆっくりと光の粒子に変わっていった。それは崩壊ではなく、巨大な祝祭のようであった。少女の姿をした精霊は、終の隣に降り立ち、その瑞々しい頬に一筋の涙を流しながら微笑んだ。
「……ありがとう。葬儀屋。……死ぬって、こんなに温かくて、眩しいものだったのね……」
彼女の身体が完全に光となり、天空へと昇っていく。それに呼応するように、世界中の聖樹の分身たちが一斉に輝きを放ち、蓄えられていた過剰な魔力が大地へと還元されていった。歪んでいた世界の均衡が、終の一振りの杖によって、あるべき形へと戻された瞬間であった。
終は光の粒子が舞う中、銀の杖を静かに下ろし、深く腰を折って一礼を捧げた。その背中には、世界を救った英雄としての高揚はなく、ただ、難儀な仕事をやり遂げた葬儀屋としての、静かな矜持だけが宿っていた。




