朝凪の街と次なる一歩
儀式を終えた終が都の地上に出ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
永遠に止まっていた運河の水が、潮の満ち引きと共に勢いよく流れ始め、都の壁に苔が付き、道端には名もなき花が咲き始めていた。死が戻ったことで、この街にようやく「時間」という名の生命が吹き込まれたのである。
「……死があるからこそ、花は咲き、風は吹き抜ける。……正しく終わりを告げることは、これほどまでに豊かなのですね」
終は港のほとりで、鞄から一冊の古い帳面を取り出した。そこには、都の人々から託された「本当の人生」の記録が記されている。
人魚たちの名を書き加えていると、背後で光の玉が、今度は南東の深い森の奥を指して、静かに、しかし重々しく点滅した。
『次は、聖樹の墓場だよ。……かつて世界を創ったとされる古い精霊が、自らの死を認めることができずに、世界そのものを道連れにしようとしている』
「おやおや。今度は世界規模の供養ですか。……葬儀屋の仕事というのは、どうしてこうも大掛かりなものばかりなのでしょうね」
終は独りごち、都の住人から譲り受けた真珠の数珠を鞄に仕舞った。
二十歳の身体に、一〇二年の達観を宿した青年は、新しく始まった朝の潮風に背中を押されながら、次なる弔いの地へと歩み出した。
その背中は、どんな神や精霊よりも頼もしく、静かな威厳に満ちていた。
彼の葬送の旅は、万物が正しき眠りにつくその日まで、止まることはない。




