瑠璃色の監獄
大砂漠アマルでの熱砂の記憶を背に、結城 終が辿り着いたのは、海の上に白い石造りの建物が浮かぶように並ぶ水の都レノーアであった。
運河には清らかな水が満ち、太陽の光を反射して宝石のように輝いている。行き交う人々は皆、瑞々しい若さを保ち、その肌は真珠のように滑らかだ。だが、この都の美しさには、葬儀屋の鼻を突く「停滞」の臭いが混じっていた。
「……流れるべき水が、一箇所に留まり続けている。これは、生の循環が止まった街の匂いですね」
終は鞄から、かつての現世で海辺の葬儀に用いた、汚れの目立たない濃紺の外套を取り出した。亜神の魔力が宿るそれは、湿気を排し、常に持ち主の足元を乾燥した状態に保つ。終は銀の杖で石畳を鳴らし、都の中心にある大聖堂へと向かった。
案内役の光の玉は、水面を叩くように激しく明滅し、運河の底を指し示している。
この都には、かつて人間と人魚が共存していたという伝説がある。人魚たちは歌声で海を鎮め、人間は彼らに地上の産物を提供していた。だが、ある時期を境に人魚たちは姿を消し、代わりに都の人々は「老いることのない美貌」を手に入れた。
しかし、それは恩恵などではなかった。老いないということは、死ねないということ。この街の住人たちは、数百年もの間、同じ容姿のまま、魂だけが磨耗していく生き地獄に囚われていたのである。
一〇二歳まで生き、人生の「畳み方」を知っている終にとって、これは死よりも残酷な刑罰に見えた。終は運河の底から聞こえてくる、何千もの啜り泣きに耳を傾け、銀の杖を強く握りしめた。




