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百二歳で大往生した葬儀屋、異世界で亜神として二度目の人生を始める〜最強葬儀屋、銀の杖で世界を安らぎの葬送に染め上げる〜  作者: 榎木丈


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乾いた忠義と銀の天秤

 迷宮の最深部、黄金の棺の前に、一際巨大な体躯を持つ騎士の亡霊が立ち塞がった。かつての将軍、ハザムである。彼の眼窩には青白い炎が宿り、数千年磨き抜かれた剣気けんきが終の皮膚をピリピリと突いた。彼の持つ大剣は錆び付くこともなく、かつて戦場を蹂躙した殺意を今なお鮮明に保っている。


「……止まれ。ここから先は、聖王の眠る聖域。生者、死者を問わず、立ち入る者は灰となれ」


 ハザムの声は、喉を通らずに直接脳内へ響く。それは強固な意志の残滓であり、この迷宮そのものを支えるいしずえでもあった。終は慌てることなく、ヴィンスより譲り受けた銀の天秤を取り出し、空中に浮かべた。


「将軍、お疲れ様です。……この天秤で、あなたの『忠義』と『疲弊』を量ってみましょう。あなたは自らを律し、この場を守り続けてきた。しかし、その皿の重みは、すでに正しき均衡を失っている」


 天秤の右皿に、将軍が守り続けてきた数千年の歳月と忠誠を載せる。皿は一気に沈み込み、迷宮の床が悲鳴を上げた。だが、左皿に載せるべき彼の「心の安らぎ」は、塵一つ存在しなかった。ハザムは、自分が何のために立っているのかさえ、もはや忘却の彼方へ追いやり、ただ「拒絶」することだけを自己の定義としていた。


「無意味だ。我らには感情など不要。ただ、王への忠誠があるのみ。……去らぬなら、斬る」


 ハザムが巨大な大剣を振り下ろす。その一撃は岩をも砕く威力を秘めていたが、終は銀の杖を軽く一閃させるだけで、その剛剣を受け流した。

聖域展開サンクチュアリ・オープン安らぎの葬送(レスト・イン・ピース)


 黄金の光が迷宮全体を祝別しゅくべつするように包み込む。聖域の力により、数千の骸骨兵たちの動きが止まった。彼らを縛り付けていた、乾ききった命令の鎖が、光に触れて微かに揺れる。


「将軍、あなたが守っている王の魂は、もうここにはいらっしゃいません。……彼は数千年前に、あなたたちへの感謝を胸に、光へと還られました。……今、ここであなたたちが戦う相手は、侵入者ではなく、自分自身の『未練』ではありませんか?」


 終は固有能力である『未練の解読リーディング・レクイエム』を起動した。天秤が共鳴し、ハザムの脳裏に、かつて王と共に駆け抜けた砂漠の風、祝杯を挙げた勝利の夜、そして愛した家族の笑顔が鮮明に蘇る。それは、数千年の暗闇で忘れ去られていた、彼らが「人間」であった頃の記憶だった。大剣が床に落ち、乾いた音が迷宮に響き渡った。将軍の青白い炎が、戸惑うように揺らめき、崩れゆく砂のように弱まっていった。

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